カレッジマネジメント233号
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13リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022加する人がどんどん増えて協働できることが望ましい。そうした輪を作るには人に賛同してもらえる哲学が必要です。そうした哲学は本で学ぶようなものではなくて、実践から見出して、深めていくもの。実践の結果失敗したとしても、何かうまくいかないことが分かった、じゃあどうするか、と転換できるスキルセットがこれからの社会に必要なんですよね。そういうトライアンドエラーを繰り返して前進していく力が大事。だから、そうしたチャレンジを多く経験できる教育設計が大事なのだと思います。何回もトライアンドエラーを経たサイクルを回していくと、自分はたいしたことないけど、ベクトルは間違っていないから皆が応援してくれた、という自己効力感が厚くなっていく。それが大変な状態でも生きていける術や考え方を獲得するということ。大槌高校で起きているのはそういうことではないでしょうか。小林:最後に、過渡期の探究シフトにチャレンジされている読者の方々へ、メッセージをお願いします。荒瀬:大学には、ぜひ入学者選抜試験の工夫をしてもらいたいと思います。探究によって主体的・自律的な学習者となった生徒の成長に対するアセスメントになる入試をしてほしい。知識を問うことがダメとは全く思いませんが、どんな経緯でこの人がこんなふうにものを考えるようになったのか等、個に焦点を当てた入試設計が増えることを望みます。新しい概念を入れるわけですから、既存の延長線上で考えず、入試時期も含めて柔軟な設計ができるようになると良いですね。今村:調査書や内申点なしの入試がもっと増えてほしいです。探究へとシフトするにしても、どうしても学校での授業態度等、先生に評価されるための指標になりやすいのが調査書なので、そういうものより、生徒の研究伴走書や、生徒の探究活動の理解者の推薦書を提出させるとか、そうした総合型選抜をもっと活発にしてほしいです。鈴木:大学はそもそも自ら学び、自ら探究・研究する場であるはず。経営的な収益ありきで、そういうマインドではない生徒を全入的に受け入れること自体が間違っているのではないかと思います。結局個に向き合わなければ人は育たないので、各大学がどういう人を本気で育てる場なのか、大学としての個性を立たせ、個に徹底的に向き合う仕組みをどれだけ作れるか。地域に大学を開き、学外の多様な方々の力を借りて、みんなで一緒に進んでいく仕組みを提供できる大学がもっと増えてほしいです。小林:各校が個性を明確にして打ち出すこと、その実体化を場作りによって実現することが大事ですね。本日はありがとうございました。(文/鹿島 梓)※1京都市立堀川高校で1999年探究科を設立、同科の1期生の進学実績は国公立大学への進学者が前年6名から106名と飛躍的に増加し、「堀川の奇跡」として注目を集めた。特集01大学における探究2.0●鈴木 雅剛 株式会社ボーダレス・ジャパン 代表取締役副社長1979年生まれ。山口県出身。 2007年、国内外の貧困、地球温暖化、難民問題等の社会課題をビジネスで解決する「ソーシャルビジネス」しかやらない会社として、田口一成(同社代表取締役社長)と共に株式会社ボーダレス・ジャパンを創業。 現在、ボーダレスグループとして世界15カ国で45事業を展開している。 丸井グループ サステナビリティアドバイザーメンバー(社会分野)就任(2019年)。 環境省事業「アフターコロナ・ウィズコロナ時代のサステナブルな社会の在り方に係る研究会」委員就任(2020年)。大学はいかに個に向き合い、選抜を含めた教育を設計できるか

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