カレッジマネジメント233号
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15リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022特集01大学における探究2.0クト科で始める探究活動は、最初は自分のためだけのもの、つまりはⅠ段階目の「自己」に収まっていて全然かまわない。でも、いずれはその探究を「他者」のためにもなるもの、さらには「社会・自然」や「世界」のためにもなるものにつなげてほしい。「知のコード」にはこのように、目指す方向性が端的にまとめられており、生徒も教員もこの表を念頭に置いて、探究活動や教科学習に取り組むのだ。ある生徒3人組は、探究を通して気候変動による海面上昇で沈む恐れのある島に興味を持ち、クラウドファンディングで資金を集め、夏休みに訪問。現地の子達と未来の暮らしを共に考えた。また別の生徒は、授業で対話の面白さに目覚め、老若男女が「対話して共創する絵本」というアイデアを構想。ビジネスコンテストでグランプリを獲得、社会人と組んで活動した。こうした探究活動は、進路選択にも影響を与えている。進学先で「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」も意識するようになり、対話による思考や創造に力を入れる大学を志望する生徒が増えたのだ。佐野氏は卒業生からこんな相談も受けたという。「大学でも哲学対話をやったが、みんなが表面的なことしか言えない場だった。どうすればいいか」と。深く学べる場を、学生自身が求め出したと言える。「講義であれば動画配信でも可能な今、顔を合わせて学ぶことの意義は何か。その場にいる一人ひとりが仲間に受け入れられ、共に何かを生み出せるような環境を実現できないか。これからの学校の存在意義のようなものを、私達自身、様々な学校の皆さんと一緒に考えていければと思っています」(佐野氏)。(文/松井大助)「学びのあり方」が進路選択の判断材料に初等中等教育では2000年代から「総合的な学習の時間」を導入、生徒が自分で課題を設定し、解決のために多様な知見を総合的に学ぶことを進めてきた。高等学校ではその授業が2022年度から「総合的な探究の時間」に変わり、ただ総合的に学ぶのではなく、その広い視野での探究を通して「未来社会を切り開くための資質や能力を確実に育成する」ことが目指されている。その現場では何が起こりつつあるのか、先進的な取り組みをされている3校の先生にお話を伺った。Ⅲ知の創造(批判・創造)新たな考え方を創造自己-世界Ⅱ知の応用(分析・統合)複雑な事象に当てはめる既存の考えを組合わせる自己-社会・自然Ⅰ知の習得(知識・理解)既存の考え方に従って思考、判断、表現できる自己-他者学び方を学ぶ自分軸を確立共に生きる※学校資料をもとに編集部で作成。かえつ有明中・高等学校では、この表にある「学び方を学ぶ」「自分軸を確立」「共に生きる」という3つの観点を、「身につけてほしい知識と資質・能力のコア」と位置づけている※学校資料をもとに編集部で作成。右側に列挙した具体例は、上のほうが「自分の内面に気づく」要素が強く、下のほうが「関係性を構築する」要素が強い。ただし、自分の内面に気づくことで周囲との関係性が良くなったり、関係性ができることで周囲から気づきをもらえたりと、両者は相互に影響し合うものでもある図2 評価の観点をまとめた「知のコード」図1 探究活動における場づくりやマインドセット自分の内面に気づく関係性を構築するマインドフルネスしるらないカード・価値観カードチェックイン・チェックアウトシステム思考(学習する組織)哲学対話スパイダー・ウェブ・ディスカッション共感的コミュニケーション etc. 高校1~3年プロジェクト科自分の興味あるテーマに取り組む中学1~3年サイエンス科様々なテーマに取り組む授業の中で実践・学習心の状態に注意を向けるマインドフルネスの授業関係性構築の取組の一つ、マシュマロ・チャレンジ図書のある情報センター「ドルフィン」も探究拠点

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