カレッジマネジメント233号
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17リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022特集01大学における探究2.0確保しているのだ。研究開発部の設置は、みらい創造科を設けた2019年。同部が主導した探究・横断型授業の推進は、最初から全教員にすんなり受け入れられたわけではなかった。戸惑いの声もあるなかで、同部のメンバーが周囲に働きかけ、授業を共同開発するなかで、手ごたえを得る教員が増えていった。牽引した一人、森 孝文氏は、「指導案は未完成でいいので、互いにアイデアを持ち寄る」ことを大事にしたという。「授業を一人で考えるより、色々な専門性を持った先生方に頼ったほうが面白いものができると考えました。自分からもバンバン提案し、『どう思います?』と投げかけて先生方からもアイデアをもらい、一つのキャンバスをみんなで色づけしていった感じです」。探究活動をどのように評価するかも検討し、研究開発部の冨田枝里氏らを中心に、評価の観点や到達目標についても整理。2022年には探究活動の指針となる「鹿本Design」を取りまとめた(図2参照)。こうした実践は、生徒にはどう受けとめられたのか。冨進学先でも異なる分野と交わって学んでほしい得点★は重点目標Dialogue(対話)Ethical(倫理)Scientic(科学的)Intellectual(知的)Global(グローバル)Network(繋がり)SSH9つの目標該当項目B「探究スキル」C「科学的共創力」B「探究スキル」C「科学的共創力」B「科学的分析力」A「科学的発想力」B「科学的考察力」A「科学的発想力」B「探究スキル」C「科学的共創力」B「探究スキル」C「科学的共創力」3点発表の力③研究内容を理解し、質疑応答まで適切に対応できる。★情報の正確性③文章の欄にも、引用元がその都度明示されている。★比較・実験の分析結果の妥当性比較・実験から導き出された結果や考察は妥当である。★説明の一貫性研究の仮説・目的と手法、結果、考察に一貫性がある。国際発表研究成果を英語で発表することができる。外部との連携地域や研究機関と連携して研究を進めることができる。2点ここをクリアしていなければ3点にならない発表の力②相手の表情を見ながらわかりやすく発表できる。★情報の正確性②引用したデータや図・グラフ等に引用元が明示されている。★比較・実験の妥当性比較・実験の手法や条件が適切である。★説明の確実性説明の根拠となる適切なデータを示すことができる。国内発表研究の成果を学校外で発表することができる。外部との対話アンケートやインタビュー等を通し、外部と繋がることができる。1点ここをクリアしていなければ2点にならない発表の力①聞き取りやすい声で発表できる。★情報の正確性①引用・参考文献の出典が明示されている。★比較・実験の視点比較・実験を通して分析をしている。★説明の一般性形式に沿ったレポート・ポスターを作成できる。同世代発表研究の成果を、学校内で発表することができる。同世代との対話鹿本高校生と意見交換しながら研究を進めることができる。0点1点がクリアできていない。1点がクリアできていない。1点がクリアできていない。1点がクリアできていない。1点がクリアできていない。1点がクリアできていない。点数点点点点点点合計点図2 探究活動の評価規準「鹿本Design」総合的な探究の時間のポスター発表国語探究をはじめ、探究の授業では図書館をフル活用英語探究、シンガポール国立大学の学生との交流田氏は「生徒の積極性が増した」と感じている。「例えば勉強が得意ではなく、自信を持てずにいた生徒でも、自分で探究テーマを見つけ、多様な人と対話したりつながったりしていくなかで、『頑張れば自分もこの社会で何かを変えられる』という感触を手にしてくれるのです。探究に本気になった生徒の姿がロールモデルとなり、下級生にもいい影響を与えています」。物事を多角的に捉え、そのうえで「社会でこんなことをしたい」という思いを抱く生徒も増えた。文系に進もうとしていた生徒が、探究活動で里山復興に関わるなかで将来象を見直し、志望学部を農学部に変更、未履修の受験科目を自ら懸命に勉強したこともあった。そうして走り出した生徒に対して、川元氏は、進学先でも専門の枠を越えて学ぶことを期待している。「大学や専門学校は専門性を磨くところですが、同時に、例えば様々な学部の学生とディスカッションする場もあってほしいのです。異なる分野とも交わり、新たな視点を得て、課題解決や創造につなげていく。そのような探究を続けていってほしいと思っています」。(文/松井大助)

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