カレッジマネジメント233号
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44リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022――世耕さんは近畿日本鉄道(以下、近鉄)の広報という一般企業での仕事をご経験ののち、近畿大学に転職されています。まず最初に、一般企業と比べたときに大学のコミュニケーション戦略はどのように見えましたか?最初に感じたのは、大学も鉄道業界もブランド価値観が似ているということです。近鉄は日本の私鉄では路線の長さでも事業規模でも、最も大きな鉄道会社ですが、庶民的なイメージです。一方、阪急電鉄は近鉄よりも規模は小さいけれど、宝塚歌劇団の創設や、小説・映画のモチーフになる等、ブランドづくりやコミュニケーション戦略に力を入れ、別格視されています。つまり規模の大きさがすべてではなく、ブランドというものを決してばかにしてはいけない。このことを思い知らされてきました。これは大学に来た時にも「似ているな」と感じました。今、大学は少子化という流れの中で戦っています。伝統や教育体制や研究ももちろん大事ですが、それだけでは勝てない。人に伝わる大学のイメージを作っていくことも大切です。近畿大学が勝ちぬくために、コミュニケーション戦略で勝たせていこう、それが私にできることだと思って取り組んできました。――大学の学生募集におけるコミュニケーション戦略のターゲットはどのように考えていますか?大学の場合、ターゲットとしては受験生、高校の先生、生徒、保護者、おじいさん、おばあさんも入ってきます。しかし、入学する大学はやはり最後は受験生が自分で決めています。彼らが気に入らなければ進学の選択肢にも入れないんですよ。ですから、ターゲットは高校3年生の18歳に絞りこんで考えていますね。絞り込むことで、尖った戦略もとることができます。――18歳の若者にターゲットを絞り込むと、コミュニケーション戦略が彼らに刺さらなかったときのリスクが高くなるイメージもあります。特に近畿大学は毎年8000人というボリュームで新入生を受け入れていて、戦略が失敗すると痛手を負う可能性も考えられます。戦略を立てるときに注意していることはありますか?本来であれば、戦略を立てる際に18歳の高校3年生に話を聞いたり、アンケートをとることができればベスト。ですが、それは難しい。そこで近畿大学では、毎年全新入生にアンケートやヒアリングを行っています。高校生に感覚が一番近い彼らの意識をつかみ、その結果を見ながらディスカッションして、より精度の高い戦略につなげるようにしています。Interview新たなチャレンジの連続で若者の心をつかむ2022年度まで志願者数9年連続トップを誇り、毎年8000人以上の新入生を迎える近畿大学。まさにZ世代ど真ん中の若者の心をつかんでいるといえるだろう。広報が注目されがちだが、入学前、入学後を通じて様々なチャレンジを行っていることは注目に値する。この世代とのコミュニケーションにおいて、何に目を向け、どのように戦略を考えているのか。世耕石弘経営戦略本部長に、その考え方を伺った。インタビュー大学も鉄道業界もブランド価値感は似ている大学卒業後、近畿日本鉄道株式会社(現・近鉄グループホールディングス株式会社)入社。広報担当などを経て2007年、近畿大学に転職。入学センター入試広報課長、同センター事務長、広報部長を経て17年4月から総務部長。2020年より経営戦略本部長世耕石弘氏近畿大学 経営戦略本部長

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