カレッジマネジメント233号
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#3リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022久留米工業大学は自動車工学を有する短大を母体とし、産業界のニーズを踏まえたエンジニアリングを大学の中核に置く大学だ。2015年には自動運転やAI等の先進モビリティ技術を研究する“インテリジェント・モビリティ研究所”を発足。さらに交通機械工学科に先端交通機械コース(現在は航空宇宙システム工学コース・モビリティデザイン工学コース)を新設し、教育体制も整えた。これらの取り組みが高く評価され、2018年の文科省私立大学研究ブランディング事業に採択。「この採択が、大学のイメージを見直すきっかけになりました」と、情報ネットワーク工学科教授で学長補佐の河野 央氏は話す。「本学は地元地域に受け入れられているのか、そもそも地域の方々にどう思われたいのかを起点として、地域と一緒に学生を育て、地域に高い研究技術を実装させていく大学の方向性が明確になっていきました」。そうしたなかでのMDASHリテラシープラス採択。その先導役となったのが、AI応用研究所副所長の小田 まり子氏である。小田氏は全学のAI教育支援を担当し、MDASH採択プログラムの軸足である「地域課題をAIで解決する」を考案した人でもある。研究所に持ち込まれる多様な課題にヒントを得た発想だという。「主に技術的な相談を受けますが、明確に『この技術でこれをやりたい』と決まっている場合は少なく、目的からするとAIが解決方法として適切でもないものも多い。何か共同研究を始めるよりも、会話・壁打ちしながらブラッシュアップしていく工程が必要なことが多いのです。こうした一連のプロセスに教育を絡めることができれば、学生は技術力の向上と実装の経験ができ、地域の方々と協働しながら取り組むことでコミュニケーション力等の社会人基礎力も鍛えられる。一挙両得の機会と捉えました」。また、課題解決の現場で活躍する技術者のあり方を学生が考える機会としても貴重だという。「現場で重要なのは、技術を理解したうえで、『その技術を使ってどうやって目的を達成するのか』を描き、マネジメントできる人です。そうしたプロジェクトマネジメント人材が地域に圧倒的に足りていないのです」。持ち込まれる様々な課題の多くがマネジメント人材の不足に起因しており、それが真の地域ニーズだからこそ、久留米工大は数理・DS・AI領域のマネジメント人材育成をうたい、その方法論として教育を設計するのである。入試広報委員長でもある河野氏は、「大学ブランディングの観点からもAIを軸にした教育改革を進めていきたい」と話す。では、MDASH採択プログラムの具体を見ていこう。プログラムの最終目標は「AIで地域課題解決ができる人材育成」であり、そのために、①AI関係コア科目の設計(図1)、②地域課題解決を行う産学連携プロジェクト型学習やインターンシップで実践力を鍛えるという2点を整備した。ポイントは2つある。まず、工学部にとってのリテラシーレベルを決めたことだ。「エンジニアリング領域の大学であるからには、座学のみならず、手を動かして課題解決す62高い研究力で築く新たな大学ブランディングAIを用いた地域の課題解決を学生が担う事例report_05 久留米工業大学MDASHリテラシープラス採択プログラム「地域課題解決型AI教育プログラム(リテラシー)」AI応用研究所副所長小田 まり子 氏情報ネットワーク工学科教授・学長補佐河野 央 氏による新たな価値創出データサイエンス(DS)教育の最前線

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