カレッジマネジメント233号
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64リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022想像して学習意欲も高まる。AI自体も使われることによってどんどん賢くなるというわけだ。リソースの限られている小規模校でありながら多様な展開ができるのは、こうしたワンソースマルチユースの工夫が随所に見られることと無関係ではないだろう。久留米工大の育成人材像は「地域課題解決力を持ったグローバルなAIエンジニア」である。「AI教育では、遠隔会議システム等のデジタルツールをよく使いますが、それであれば地域に限らず、海外もフィールドにできるはず。学生の活躍するフィールドを広げ、様々な経験を積むことでブレイクスルーできるのではないか」と小田氏は言う。そうした想いで2021年から始まったのが、海外協定校へのバーチャル留学だ。従前は海外協定校に出向いての語学留学だったが、コロナ禍でバーチャル化したことを契機に、一般のバーチャル留学とは別に「AIエンジニアコース」を開設した。AIを用いた地域課題解決を題材にプレゼン・ディスカッションする内容にしたことでバーチャル留学の参加者も増え、「もっと専門的な英語力を高めたい」といった声につながった。これまでの留学では関与しなかった先方のAI専門家も「AIエンジニアコース」のバーチャル留学に協力してくださるようになったことも収穫であり、現在、AI教育と連携した英語教育をプランニングしているところだという。「本学は工学部なので、英会話に積極的な学生は決して多くない。それでも、学生に伝えたいことがあれば、苦手な英語も勉強したいと思える。だから我々は『AI』『地域課題解決』というテーマをまず設定し、場を広げることで、彼らの意欲を喚起したい。英語を身につけて、どこでも活躍できる人材になってほしいのです」と小田氏は意気込む。そうした経験が、グローバルで活躍するのに不可欠な「コミュニケーション力」「違いを尊重する力」、あるいは自分の経験を異なるフィールドに応用するための「抽象化・構造化する力」のトレーニングにつながっていくのではないか。ひいては前述した「マネジメント人材」へのスキルセットと合致していくのではないかと大学は期待している。最後に今後の方向性について伺った。まず、既に展開している応用基礎レベルの教育プログラムについてはMDASHに申請中である。また、それとは別に、文科省「デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXを牽引する高度専門人材育成事業」にも2022年3月採択された。これは、数理・DS・AIと地域産業との組み合わせによる教育を専門教育にさらに発展させ、“3次元仮想空間”(メタバース・ラボ)と“現実空間”を組み合わせた先駆的な教育手法で、新たな「地域課題解決型教育」を創っていく試みだという。「先ほどのグローバルと同じで、離れた場所にいる者同士がメタバースでPBLに取り組むことも考えられる。メタバースは、障害のある方や女性の活躍の場を広げる可能性もある」と河野氏は期待を寄せる。オンライン会議システムでは難しかったセレンディピティ(多様な価値観を持つ人との偶然の出会い)の確保にもつながり、エンジニアリングの環境としても飛躍的に変化する可能性がある。リアルとメタバースの融合による新たな教育の創造。次代に向けたチャレンジが、既に始まっている。(文/鹿島 梓)学生の活躍フィールドをグローバルにも広げるリアルとメタバースの融合による新たな教育の創造へ図2 AI教育のカリキュラム概観1年前期1年後期2年前期2年後期3年前期3年後期4年前期4年後期コンピュータリテラシー就業力育成セミナーⅠ就業力育成セミナーⅡものづくり実践プロジェクト就業力実践演習卒業研究Ⅰ卒業研究Ⅱフレッシュマンセミナー微分積分学線形代数学地域連携Ⅱ(地域をフィールドにしたPBL)選抜クラスによるPBLインターンシップ地域連携Ⅰ(地域社会人との共学)AI概論リテラシーレベルAI活用演習応用基礎レベル数学・統計学基礎

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