カレッジマネジメント233号
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69リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022続いています。対象者の人間性を見るために使わざるを得ないが、面接は最も精度が低い手法の1つであるというのが今や常識になりつつある。つまり、面接で評価が高かった人が入社後に評価が高いかという妥当性が低いのです。一方、最もそこが比例して高いのは、インターンシップ等、ワークサンプルといわれる手法です。実際に仕事をやらせてみて適性を見るのが、一番妥当性が高いというわけです。――入試でも「模擬授業を受けさせる」「ゼミに参加させてみる」といった動きは一定数あります。では、ワークサンプルが難しい場合は何なら良いのでしょうか。3つのトレンドがあります。1つ目は、同じ面接でも構造化された面接。構造化とは、求める基準を決め、その基準を満たす人材を選抜するのにどんな質問が良いかを定め、それをどう評価するのかのレベルを決め、システマティックに実施するマニュアル化された面接のことです。これは筆記試験と同等の精度があるといわれています。ただし、構造化面接は作るのがとても難しい。起点となる「求める人物像」が最難関です。例えば、経団連発表の「2018年度新卒採用に関するアンケート調査」結果によると、企業が選考時に重要視する要素の上位は、コミュニケーション力、主体性、挑戦心、協調性、誠実性の5つです。しかし、例えばコミュニケーション力といっても、「空気が読める」ことを指す人もいれば、「メッセージを伝える例示が適切で分かりやすい」ことを指す人もいます。つまり、多義的で言葉の定義が揃っていない。言葉の定義が共通言語化されていなければ構造化はできません。まずは、人を表現するアセスメントワードの定義を丁寧に行い、概念を揃えることが必要です。――大学でもアドミッション・ポリシー(AP)、カリキュラム・ポリシー(CP)、ディプロマ・ポリシー(DP)という3ポリシーを軸に入試その他の制度を設計するよう推奨する流れがあります。企業が求める人物像を定める際のポイントはありますか。「組織は戦略に従う」という言葉の通り、人事の一貫性の軸足は事業にあります。事業に合う人材を採るのが原則(図表1)で、その人材を規定する方法には、一般的には2方面のアプローチがあります(図表2)。まず、演繹的アプローチ。これは自社業務を適切に遂行するために必要な能力や志向を推定し、そこから求める人材像を設定するものです。大学の場合、自校教育に合うのはどんな行動特性を持つ学生かを起点に考えることになるでしょう。そして、帰納的アプローチ。こちらは、自社で成果を上げているハイパフォーマーを分析し、彼らが持つ能力や志向を抽出し、求める人材像を導き出すものです。大学の場合、自校教育で成長したロールモデルの学生が持つ素養が起点となるでしょう。どちらかだけではなく両者のバランスをとり、必要要件を絞り込む必要があります。その際は、入社後の育成が難しい先天的要素と、入社後に仕事や研修等で育成可能な後天的要素があることに留意が必要です。後者は採用の要件としないほうが賢明です。ただし、帰納的アプローチだと、今のハイパフォーマーが次代を支えるベスト人材とは限らないという落とし穴があります。事業環境が安定しており特定要件を満たす人材を図表1事業型で考慮するべきポイント(出典:『人事と採用のセオリー』P18)図表2演繹的アプローチと帰納的アプローチ(出典:『人事と採用のセオリー』P123)・事業の勝ちパターンが決まっている・顧客ニーズ重視(マーケットイン)・改善、調和、効率が重要価値観・ポテンシャル人材を採用して育成・社内スキル教育/ゼネラリスト・チームプレイ/トップダウン文化・報酬は社内価値で決定・運命共同体/一体感重視・事業の勝ちパターンを模索中・新価値創造(プロダクトアウト)・変革、競争、新規が重要価値観・即戦力人材をオンデマンドで採用・汎用スキル教育/スペシャリスト・個人プレイ/ボトムアップ文化・報酬は市場価値で決定・契約関係/自立性重視推定にすぎない理想的長期的視点全体最適事実である現実的短期的視点個別最適安定・成熟事業型変革・新規事業型演繹的アプローチ帰納的アプローチギャップを見てバランスを整える一貫性

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