カレッジマネジメント233号
71/92

71リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022この定義が曖昧で、全体のポートフォリオもマネジメントできていないのに、探究を別物としてアドオンで捉えると混乱します。シンプルに、大学が大学に必要な人材を採ることが入試の本質であるはずです。そこのアカウンタビリティを、探究シフトしている中等教育や社会に対してきちんと果たせば良い。大学に必要な人材を適切に選ばなくなれば、学修成果が出なくなり、今まで採用してくれていた企業が採用してくれなくなる。そうなって初めて、ああうちの大学はこういう点が評価されていたのだ、と気づくのでは遅い。今採用のターゲティングが偏差値軸になっているのは、言ってしまえば、各大学の色がなさすぎるからです。ほかに見るべきものが少ないので、入学時点の学力というだいぶ昔の要素から、継続して勉強できる集中力はあるのだろうといった行動特性を期待する。大学で何をしてきたのかが見えないのが背景にあるわけです。企業が大事にするのは、採用の効率性です。大企業の採用では倍率100倍もざらですし、経営課題だからこそ、手間をかけるべきところ、つまり最終面接のジャッジに注力したい。最初の2万人の面接に手間をかけている場合ではないのです。大学には、いわば「もっと濃い成績表」を出してほしい。信憑性の高い学修成果や履歴情報、ひいてはどういう特性の学生をどう伸ばしてきたのかという記録。そうすれば、エントリーシートをわざわざ書かせる必要がなくなります。この大学で何をできるようになったかの明示は、採用市場の一番の効率化になり得る。SNS等を通じて、もはや個人と企業が直接つながってしまえる時代、大学の介在価値が問われています。探究は、そこに含まれる価値の1つではないでしょうか。入試はまさに社会に対するメッセージで、偏差値以外の大学ラベルを示すことが可能なはず。どういう教育を展開して、そのために入試でどういう人材を採り、どう育成して輩出しているのか、彼らは何ができるようになっているのかという一連のプロセスの入口が入試です。そうした入試を見た生徒が、自分の問いを追究できる大学を選ぶ。その起点が大学自身の独自性でしょう。大学の収入に直結する入試を企業採用と同じように語ることは難しい側面も当然ありますが、そうした視点の置き方次第でだいぶ変わってくるのではないかと思います。(インタビュー・文/鹿島 梓)いるのではなく、どういう営業をするか、誰と組むかによってパフォーマンスは変わるという考え方ですね。大学入試でも、素質を評価するのではなくやらせてみることで見えてくることは多いでしょう。例えば、オープンキャンパスを選考に組み込むような入試設計です。メーカーでは1週間合宿してものを作らせるプロセスを、選考で取り入れたりするところもある。コア人材の獲得はそれだけ事業にとって恩恵が大きいのです。今の選考手法では限界があるために、多様な選考方法が開発されている。しかし、どれも一長一短があるので、選考チャネルの複線化を行い、ポートフォリオマネジメント(図表3)していくのです。――大学の場合、どの入試でどういう人をどのくらい採るのか、入学後期待する役割等を含めた入試全体を設計できているか、それが機能しているか、マネジメントできているかということですね。ポートフォリオ設計において大切なことはありますか。色々あると思いますが、忘れがちになるのが多様性の確保です。一様性で型化して広げていく事業モデルは安定した時代には有効ですが、不安定な時代には多様な集団の中でこそイノベーションが生まれる。また関連して、これからの事業を創る人材を採る、いわゆる「ポテンシャル採用」について言うと、そうした候補者の多くは「成長途上で粗削り」です。一見未完成で、リスクが高いように見えることも多い。しかし、事業環境の変化が激しいVUCAの時代には、ある時点で規定した人材要件がすぐ陳腐化するため、対応力として多様性をストックしておく必要があります。――改めて、個別最適な学びの適性をどう見極めるのかについて、企業採用の視点から言えることはありますか。探究をベースにした個別最適化の評価は、幅がある段階評価にならざるを得ない。とすると、試験は測りやすいものだけを測る、となってしまいかねない。しかし、大学がその大学に必要な要件をきちんと定義する中に、そうした探究で培われる素養も自然と含まれるのではないでしょうか。そ独自性に根差した入試設計が大学ブランド作りの第一歩

元のページ  ../index.html#71

このブックを見る