カレッジマネジメント233号
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79リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022PENTASの各プログラムの作り方に目を向けると、そこにも独特の体制がある。「実践知と教育を組み合わせた『実践知教育』という言葉を作りPENTASの教育のコンセプトに掲げました。これはつまり現場で生きる知恵を教えるということ。そのためにはやはり実務家教員が必要になります。しかしそこでもCOCのころから試行錯誤を重ねてきた反省がありました」。社会現場の第一線で活躍する人材を教員として起用するも、授業はその人の自慢話で終わってしまった、という経験を持つ大学もあるかもしれない。「そこでPENTASでは実践知を体系的に教えていくために、実務家と教員がペアで教育体制を作っています。実務家教員のカリキュラムは必ず学内の教員が連名で1人入り、授業をサポートすることにしました」。「COC+Rにより実務家の方に向けたFD教材をオンデマンドで作ったことに加え、教員と一緒にやっていくことで効果的な体制が築けたのではないかと考えています」(杉山氏)。大学の地域連携の難しさの一つに、地域の組織との連携がある。連携をしても問題意識が共有されていなければ、実質化に結びつかない。役職交代で取り組みが途切れてしまったり、引き継ぎがされていなかったために立ち消えになるといったことも起こりがちである。または地域連携コーディネートのプロを外の地域から雇い入れたものの、地元の協力が得られなかった、といった話も聞く。PENTASではその点でもユニークな形を作っている。先の5つのプログラムそれぞれにプログラム責任者とプログラムコーディネーターを置いている。プログラム責任者は学内の教員が務めるが、プログラムコーディネーターには事業協働機関のトップ等を務める地域のキーパーソンを大学の特任教授として任命しているのだ。PENTASの事業協働機関には山梨県、公益財団法人山梨総合研究所、公益財団法人やまなし産業支援機構、公益社団法人やまなし観光推進機構、その他企業などが並ぶ。「地域と大学がみんなで一緒にやろうよ、というときに、様々な機関のステークホルダーの方々を特任という形で学内に引き入れています。現在PENTASの特任は教授、准教授など合わせて10人と、他のCOC+Rと比べても多い。大学の内側に加わってもらうことで、教育の当事者になってもらえますし、さらに機関の長は県庁OBの方が多く、各方面に人脈があるので、実務家教員のコーディネート役として地域と大学のハブの役割を担っていただける。オープンプラットフォームのような場にして特任教授に協力いただくことで、クロスアポイントメントとはまた違った連携ができています」(杉山氏)。地方創生人材の育成を目指し、様々な方法で取り組みを進めるPENTAS。その先には、山梨の大イベントともいうべき、リニア中央新幹線の開通をしっかりと見据えている。2027年には開通が見込まれており、「開通後を見据えた人材育成」の必要性を杉山氏も説いている。「これまで、地方に新幹線が開通すると、大都市に人が吸い込まれるストロー現象が起きています。リニア開通後にそのようなことにならないために、山梨から県外に攻めていく人材と、人を山梨に呼び込める人材の育成がPENTASの目標でもあります。例えば地場産業を県外に売っていける人材、そして県外から人を呼び込めるマーケティングを仕掛けられる人材。リニア開通後に山梨を支える中核人材をどのように育てるか。山梨の新しい価値を作り、高めていける中核人材の育成をPENTASで実現していきたいと考えています」。今年は更なる挑戦も視野に入れ、地域創生人材育成の先進県として山梨の地位は確固としたものになりそうだ。(文/木原昌子)*COC:文部科学省「地(知)の拠点整備事業」COC+:文部科学省「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」実務家教員と学内教員がペアで授業を作る地域の要人を特任教授として巻き込むリニア中央新幹線の開通を見据える

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