カレッジマネジメント233号
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80リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022横浜国立大学では2008年度前後から教育改革に着手。いわゆる3ポリシーにFDの推進を加えた「YNUイニシアティブ」の策定、「YNU学生ポートフォリオ」システム導入等を経て、2014年度に大学教育再生加速プログラム(AP事業)テーマII「学修成果の可視化」に採択された。事業は4つのフェーズからなり、フェーズ1は「授業設計方法と成績評価の改善」による教育課程の体系化。フェーズ2は学士力、フェーズ3が就業力の可視化。フェーズ4は、学生が自分の学びを振り返るポートフォリオの仕組みを構築し、主体的に学修行動改善PDCAサイクルを回すことを目指す。AP事業の実施責任者の谷地弘安理事(教育・情報担当)・副学長と実施主担当の市村光之大学院教育強化推進センター教授にお話を伺った。谷地氏は、「学士力と就業力と、2つの視点での可視化」が独自性の1つと言う。学士力の可視化は、ディプロマ・ポリシーで定義した4つの実践的「知」に沿って、就業力の可視化は、経済産業省の社会人基礎力をベースに、オリジナルの自己チェックシートをそれぞれ作成した。また「学生の主体的な学びがフェーズ4の目標であり、教学改革全体の目標」と説明する。そのためにこのフェーズでは、学士力・就業力の可視化ツールを含む学生プロファイル機能を独自開発し、既存の「YNU学生ポートフォリオ」を改修して組み込んだ。学生が履修登録を学生ポートフォリオシステムで行う際、まず「学生プロファイル」が表示され、学士力または就業力の自己チェックシートを入力しないと、履修登録の画面に進まない。「全数調査ができていることは大きな強み。また、GPA等ここで収集した以外のデータと紐付けた分析もできます。これらのデータを活用して、AP事業の一環として『学生IR』を推進しました」(市村氏)。横浜国立大学では、より学生にフォーカスしたIRというコンセプトで、「学生IR」と呼んでおり、谷地氏は「データを収集・分析して教育改善に結びつけ、学生が主体的に学ぶようになることで、高大接続、学部教育、大学院教育、社会からの要請、それぞれでの質保証の課題を克服できないか。学生IRはそういった考えに基づいています」と語る。学修成果の可視化に関して、「あくまで学生が主体的な学びを構想するための基礎データ」という強い姿勢もこの事業の特徴で、学生の個人データを教員が閲覧することはできない。「本学のポートフォリオの本来の目標は、主体的な学びの醸成であり、教員が見るとなると、ツールの意味が変わってしまう。導入時に意見を聞いたところ、『教員に見てもらった方が書くのにも励みになる』という学生もいましたが、『教員に見せる前提だったら本音は書かない』という学生も多かったのです」(市村氏)。事業を推進していくにあたっての懸念は、学内でAP事業が「他人事」と捉えられがちなことだった。そこで、事業全体の実施体制として、副学長(教育担当)を議長とし各学部の教務担当委員長が参画する「大学教育再生加速プログラム会議兼YNU教学マネジメントチーム」、通称「APチーム」「学生IR」で学生の主体的な学びと教育改善活動を推進学士力と就業力、2つの視点での可視化攻めのFD活動で学内への浸透を目指す学ぶとをつなぐ働く36横浜国立大学大学院教育強化推進センター 教授市村光之 氏理事・副学長谷地弘安 氏

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