カレッジマネジメント233号
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81リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022を設置。各学部とAPチームとがつながることで、取り組みをプロジェクトメンバーに閉じずに、学内に広げていく体制を作った。また、年に2回、各学部の教授会の中で短時間のFDセミナーを開いた。「セミナーを企画して待っていても、来てくださる教員は少ない。皆さん多忙ですから。そこで、多くの教員が集まる教授会に出向く『攻めのFD活動』をしました」(市村氏)。横浜国立大学はAP事業テーマIIの採択8校中唯一のS評価を得た。その成果を市村教授は「全学生が、学士力・就業力という複眼で自身の学修成果を確認できるようになった。教員は、全数調査のデータを基にして議論し、FDに活用できるようになった」と総括し、「高大接続から卒業後までの学生IR体制の確立も、1つのモデルとして有益と思っています」とも言う。学生IRによる具体的な分析結果や得られた知見も、取り組み成果といえるだろう。一方で、その分析結果をいかに教員に活用してもらい、どう教育改善に結びつけていくかが、次の課題だ。もう1つの課題は、最大の目的である「学生の主体的な学びのデザイン」をいっそう推し進めるための施策だ。補助期間終了後の事業継続そのものともいえる。「例えば学生ポートフォリオの中に、学業や学業以外で頑張ったこと等を学期ごとに自由記述する『振り返りシート』があります。就職活動でもよく聞かれる項目を1年次から記録し、考えてもらう意図です。仕組みの構築はできましたので、今年度からポートフォリオの利用実態の把握と活用促進に着手したところです」(市村氏)。補助期間終了後の展開としては、大学院教育の改善がある。2021年度に大学院にも学生プロファイルを導入し、学部生と共通の就業力可視化を行っている。加えて、「ものの考えかた、価値観、信念など学生本人が自覚しにくい意識面の傾向を測定する心理アセスメントのBEVIを試行導入し、学修成果の可視化を補完している」という。谷地氏はAP事業を振り返って次のようにまとめた。「APで取り組んだ内容は、特別なイベントではなく、当たり前のこととして学内に浸透しています。しかしそれが単なるルーチンになってしまわないのは、市村先生らのチームが、弛まず改革を進めていく意思を持って色々な仕掛けをしているからです。組織の整備も進めていますが、現場での先生方のこうした働きが合わさってこそ、教育改善のPDCAが回っていくと思います」。(文/リアセックキャリア総合研究所 松村直樹)教育改善のPDCAが自然に回るように質保証:学部教育の課題入口の課題:主体的な学びの醸成出口の課題:就業力(特に対人基礎力)質保証:大学院教育の課題継続課題:自己効力感のさらなる強化専門家の課題:異分野交流、発信力質保証:社会からの要請就業力:主体的に考え動ける人材グローバル人材:主体的な状況適応力学生IR:高大接続から学部教育、大学院教育、卒業後まで、学生にフォーカスし一貫して見通すIRシステムの構築学生IRにより① 学士力・就業力を可視化② 学修成果を検証③ PDCAサイクルの構築高校卒業 ➡ 1年 相応しい学生の入学新入試制度の準備実践的人材を輩出高度専門職業人を輩出大学教育の質保証 2年 3年 4年 M1M2卒業 ➡ 社会人に学修成果の評価指標■ ディプロマ・ポリシー■ 学士力:4つの実践的「知」■ 就業力:コンピテンシー学修成果の収集手法□ 学修・生活行動自己チェック□ 学士力、就業力自己チェック□ 教学IRデータ□ 卒業時アンケート□ 卒業生、就職先等産業界の評価高大接続学部教育大社接続大学院教育高校時意識調査入学時:就業力アセスメント英語TOEFLテストポートフォリオ:学生プロファイル(半期ごと)■ 学生:前学期の振り返りと新学期の構想✓ 学修・生活行動自己チェック✓ 学士力・就業力自己チェック、BEVI□ 大学:学修・生活行動調査データを収集・分析授業アンケート■ 学生:学修の到達度をチェック□ 大学:授業改善のデータ収集・分析進路情報・就活記録・進路調査票卒業生調査・就業力の再確認・大学教育再評価就職先調査・卒業生評価産業界ニーズ調査・最新ニーズ把握学生プロファイル✓学修・生活行動自己チェック✓就業力自己チェック、BEVIM1:就業力アセスメント卒業時アンケ―ト・DPの到達度・大学教育評価教学IRデータ:成績、GPA等3年:就業力アセス入学者選抜相応しい人材要件提示

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