カレッジマネジメント233号
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リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022文部科学省の大学設置・学校法人審議会の下に置かれた学校法人制度改革特別委員会は、2022年3月に「学校法人制度改革の具体的方策について」を取りまとめた。それに基づいて、文科省は「私立学校法改正法案骨子案」に対する意見募集を行い、提出意見を踏まえた修正を経て、5月に「私立学校法改正法案骨子」をまとめている。本稿執筆時点では法案提出に至っていないが、秋以降、速やかに法案提出できるように法制化作業を進める意向と報じられている。私立学校法については、役員の職務及び責任の明確化、情報公開の充実、中期的な計画の作成、破綻処理手続の円滑化を柱とする改正法が、2020年4月に施行されたばかりである。この改正を定着させていくことに注力すべきときに、新たな改革案の検討が進められたことに対する私学関係者の戸惑いは想像に難くない。「改革」の名の下に次々に政策が示され、それに翻弄され続けている近年の大学を象徴する出来事ともいえる。そこで、改めて今回の改革の経緯を振り返ってみたい。2020年4月施行の改正法の法案審議において、「学校法人における自律的なガバナンスの改善に資する仕組みを構築するため、理事長の解嘱に関する規定の追加を検討する等、社会の変化を踏まえた学校法人制度の在り方について不断の見直しに努めること。また、学校法人の不祥事が繰り返されることのないよう、より実効性のある措置について速やかに検討すること」という附帯決議が衆議院文部科学委員会でなされている。参議院文教科学委員会でもほぼ同じ内容の附帯決議が行われている。もう一つは「経済財政運営と改革の基本方針2019」(骨太方針2019)である。その中で「公益法人としての学校法人制度についても、社会福祉法人制度改革や公益社団法人・財団法人制度の改革を十分踏まえ、同等のガバナンス機能が発揮できる制度改正のため、速やかに検討を行う」との方針が明記されている。附帯決議と骨太方針という2つを受ける形で、文科省は2020年1月から「学校法人のガバナンスに関する有識者会議」を開催。同会議は2021年3月に「学校法人のガバナンスの発揮に向けた今後の取組の基本的な方向性について」をまとめた。その後、同年6月の「経済財政運営と改革の基本方針2021」の中で、「手厚い税制優遇を受ける公益法人としての学校法人に相応しいガバナンスの抜本改革につき、年内に結論を得、法制化を行う」との方針が示された。それを受けて、文科省は7月に「学校法人ガバナンス改革会議」を設置。同会議は12月に「学校法人ガバナンスの抜本的改革と強化の具体策」をまとめた。これに対して、即座に日本私立大学団体連合会と日本私立短期大学協会が連名で、学校法人のガバナンスの基本構造を変更するという極めて重要な議論が拙速かつ教育現場関係者の声を反映させることなく進められたことに対する遺憾の意を表明。広く報じられたことは周知の通りである。82Innovating University Management大学を強くする97「大学経営改革」大学のガバナンス改革の目的と方法を問い直す──学校法人制度改革を巡る議論を踏まえて繰り返されるガバナンス改革に関する議論吉武博通情報・システム研究機構監事 東京家政学院理事長

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