カレッジマネジメント233号
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83リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022優遇措置がとられている以上、それにふさわしい公正で透明性の高いガバナンスが求められるのは当然である。そのために、私学法の改正を重ね、ガバナンスに関わる制度を整備・充実させてきたはずだが、これまでの取り組みをどう評価するのか、仮に問題があるとすれば、それは制度によるものなのか、運用によるものなのか等、あるべき姿と実態を比較しながら、丁寧に検証する必要がある。国は、近年EBPM(Evidence Based Policy Making)を重視し、大学も様々な場面でエビデンスを求められるようになってきた。法改正に基づき実施された制度改革が如何なる効果をもたらしたか、一定の時間をかけ、客観的な検証を行ったうえで、次の政策に活かすのは国の責務である。国公私立を問わず大学のガバナンス改革が頻繁に俎上にあがるのは、政治・行政の関係者や企業経営者の中に、法人経営や大学運営に対する根強い不信感があるからだと思われる。さらに、学校法人のガバナンス不全を広く社会に印象づけるのが不祥事の発生である。元理事及び前理事長が逮捕・起訴された日本大学では、第三者委員会が226ページに及ぶ調査報告書を公表している。その中では、理事長の意向が役員選任に反映しやすい制度・慣行、理事会に外部人材が極めて少ないこと等、評議員会や理事会の監督機能の不全が、理事長の専制的な体制を許す原因となったとの認識が示されている。企業統治を巡る動きも大学にガバナンス改革を促す要因となった面もある。2015年にコーポレート・ガバナンスコードと日本版スチュワードシップ・コードを両輪とするガバナンスの仕組みが整ってからほどなく、大学にもガバナンスコードの制定が求められるようになったのは象徴的な出来事である。ガバナンスに関して、企業に学ぶ点は少なくないが、組織の目的や性格が異なるうえに、コーポレート・ガバナンス改革も、1990年代後半以降、市場や投資家から催促されながら、近年になってようやく形が整ってきたとの見方もこのように複雑な経過を辿って私立大学のガバナンス改革が論じられている背景に何があるのか、現状において真に解決されるべき本質的問題は何か、現在示されている骨子案を前提にした場合、如何にすれば改革の実効性を高めることができるか、といった論点について、順に考えてみたい。文部科学大臣の諮問を受けた審議会で議論が交わされ、答申を経て政策が実行に移されるという従来のプロセスに、経済財政諮問会議をはじめ内閣府や官邸に置かれた会議で示された方針・提言が強い影響を及ぼすようになった近年、ある時は成長戦略、ある時は行財政改革等、時々の文脈の中で大学、そしてそのガバナンスが論じられるようになってきた。ちなみに、骨太方針2017では、第2章「成長と分配の好循環の拡大と中長期の発展に向けた重点課題」の中の「人材投資・教育」において、骨太方針2018でも、第2章「力強い経済成長の実現に向けた重点的な取組」の中の「人材への投資」において、大学のガバナンスについての言及がなされている。一方、骨太方針2019では、第3章「経済再生と財政健全化の好循環」の中の「次世代型行政サービスを通じた効率と質の高い行財政改革」の中に既述の文章が盛り込まれている。成長のためには人への投資とイノベーションがとりわけ重要であり、その両方に深く関わる大学に期待が高まるのは当然の成り行きである。その一方で、いわゆる10兆円ファンドを巡る議論を聞く限り、経済成長やイノベーションと大学を短絡的に結びつけていることに疑問を感じざるを得ない。また、ガバナンスを強化することが、教育の質の向上や研究力の強化に如何なる道筋で繋がるのかについても、十分に示されているとはいえない。もう一つの行財政改革の文脈における大学のガバナンスの問題であるが、国公立大学についてはいうまでもなく、私立大学においても国から補助金が投入され、税制上成長戦略と行財政改革の2つの文脈根強い不信、不祥事の発生、企業統治の動き

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