カレッジマネジメント233号
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リクルート カレッジマネジメント233 │ Jul. - Sep. 2022できることは踏まえておくべきであろう。企業と大学のガバナンスを比較して、単純に優劣をつけること等できない。ガバナンスの本質は「規律づけ」であるとの認識に基づいて、本連載でも大学のガバナンスについて論じてきた。学校法人であれば、「学生・生徒、卒業生、保護者、教職員、地域・社会等多様なステークホルダーの立場から法人経営を規律づけること」がガバナンスの目的となる。近年、ガバナンスには、「攻めのガバナンス」と「守りのガバナンス」があり、その両方を機能させることが重要と説明されることがある。「守り」が不公正な業務執行の防止を意味するのに対して、「攻め」は組織を持続・発展させるための戦略的経営を意味し、ガバナンスにはそれを促す役割があるという考え方である。2022年5月に文部科学省が示した「私立学校法改正法案骨子」では、目的を「学校法人における円滑な業務の執行、幅広い関係者の意見の反映、逸脱した業務執行の防止・是正を図るため、理事、監事、評議員及び会計監査人の選任及び解任の手続、理事会及び評議員会の権限及び運営等の学校法人の管理運営に関する規定を整備するとともに、特別背任罪について定める」としている。攻めと守りに明確に色分けできるほど経営は単純ではないが、逸脱した業務執行の防止・是正を徹底しつつ、多様なステークホルダーの意見を聴き、円滑に業務を執行することで、社会に支持される大学として発展させることが、法人経営を担う者の責務であり、これに対する規律づけがガバナンスである。理事長を中心とするトップマネジメントが、このことを絶えず意識して業務執行に当たるとともに、日々の言動を通して、その考えを組織内に浸透させることが何よりも大切である。その積み重ねによって健全な組織風土が醸成されていく。加えて、規律づけのメカニズムを構築し、法人の内外に明快に示すとともに、それが適切に機能するように絶えず点検・改善を図っていく必要がある。ガバナンスが機能するかどうかは、理事長を中心とするトップマネジメントの見識、姿勢、言動にかかっているといって過言ではない。視点を変えると、この点を、理事長や理事の選任に関わる者、業務執行を監視・監督する者が見極められるかどうか、そして不適切または不十分だと認めた場合、それを指摘し、是正を促すとともに、状況次第で理事長や理事を交代させることができるかが、ガバナンスにとって決定的に重要といえる。私立学校法改正法案骨子では、基本的な考え方として、「執行と監視・監督の役割の明確化・分離」と「建設的な協働と相互けん制」を明記している。評議員会を最高監督・議決機関とすることを提案した学校法人ガバナンス改革会議の結論からは後退したとの見方もあるが、主に執行は理事会、監督は評議員会として、上下関係ではなく、建設的な協働と相互けん制を図るという考え方は、現状に比べて大きな変化であり、具体的な制度設計と運用次第で実効性も十分確保できると思われる。また、理事長の選定・解職を理事会が行うこと、理事の選任を行う機関として評議員会その他の機関を寄附行為で定め、評議員会以外の機関が選任を行う場合も評議員会の意見を聴くこと、外部理事の数を引き上げること、監事の選解任は評議員会の決議によって行うこと等が示されている。既に寄附行為をもって同様の方法を採っている法人もあるだろうが、「執行と監視・監督の役割の明確化・分離」を法的に担保するという点で妥当な措置といえる。学校法人が最も苦慮すると考えられるのは評議員会の構成と運営である。理事と評議員の兼職が禁止されるため、評議員の確保を危惧する声もあるが、「理事の定数の二倍の数を超える数」とされている現行の下限定数が、理事の定数を超える数まで引き下げられるため、数の確保が今以上に難しくなるとは考えにくい。より重要な課題は、新たな評議員会の位置づけと役割にふさわしい人材をどう選任するかである。また、理事長や理事が構成員でない評議員会が実際にどう運営されるのか、戸惑いもあると思われるが、理事長や84問われる理事長・理事の見識、姿勢、言動評議員会を実質的に機能させられるかが成否の鍵大学を強くする「大学経営改革」Innovating University Management

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