臨床心理学、臨床心理士って?心理の資格や仕事もまとめて解説
「臨床心理士」ってどんな職業?大学・大学院では何を学ぶの?臨床心理士の資格取得には何が必要?新しく登場した「公認心理師」とはどう違うの?・・・などなど、臨床心理学・臨床心理士や心理系の資格・職業にまつわる気になるポイントをまとめて解説します!
1-1臨床心理学とは
臨床心理学は、心に問題を抱える人に対して、その原因を探り、心の回復を実際に支援するための専門知識や技法を実践的に学ぶ学問分野。
人間の心を研究対象にした「心理学」にはさまざまな領域があり、臨床心理学はその一つです。
人間全般ではなく個別性を重視し、リアルな人間の心理を扱うのが臨床心理学の特徴です。
1-2臨床心理士とは
臨床心理士は、公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間の認定資格です。
心理関連の資格のなかでは最も活躍している人が多い、実績のある資格であり、臨床心理学の専門性を生かし、心に悩みを抱える人々の支援に取り組むのが「臨床心理士」です。
臨床心理士が活躍することが多いスクールカウンセラーや企業や医療福祉機関におけるカウンセラー、心理職の公務員といった職種の総称(職種名)として使われることもあります。
臨床心理士の仕事
臨床心理士の仕事は、心の問題で悩んでいるクライエント(相談者=支援の対象となる人)に対して、専門的なカウンセリング技法や心理療法を用いて、心の回復を手助けすることです。
臨床心理士が支援の対象とする心の問題には、うつ病、発達障害、神経症、不登校、ひきこもり、学校・職場でのいじめ、人間関係の悩み、親による虐待などさまざま。年齢層も子どもから高齢者まで多様です。
カウンセリングの際には、まず、クライエントの話に耳を傾け、その振る舞いや行動を観察し、さらに専門的な心理検査などを行うなどして、相手の心の状態を探っていきます。
そのうえでクライエントと相談しながら支援の方向性を決め、できるだけ相手が自分の力で回復できるよう、適切な助言や支援を行います。
必要に応じて、行動療法、認知行動療法、遊戯療法などの専門的な心理療法を採り入れることもあります。
臨床心理士と公認心理師・認定心理士との違い
2017年に公認心理師法が施行され、心理職の国家資格として「公認心理師」が新たに設置されました。
臨床心理士と公認心理師は、後述するように更新制度や受験資格に違いはありますが、職域に大きな違いはありません。
大学・大学院によっては、臨床心理士と公認心理師の2つの受験資格を得ることができるカリキュラムを用意しているところもあります。
求人における応募資格としては臨床心理士・公認心理師双方いずれでも良いという形となっている場合も多いですが、臨床心理士については、指定された大学院を修了する必要があること、これまでの有資格者実績の大きさから、就職活動の場面ではより重視されることがあります。
一方、「認定心理士」は、公益社団法人 日本心理学会が認定する心理学の基礎資格です。
心理学に関する標準的な基礎知識と基礎技術を修得していることを認定するもので、大学で心理学に関する指定科目を履修すると資格が申請・取得でき、試験はありません。
注意が必要なのが、臨床心理士や公認心理師とは異なり、認定心理士は職能の資格ではないこと。実際には認定心理士の資格の取得をベースに公認心理師や臨床心理士の取得を目指す方が多いです。
また、臨床心理士は精神科医・心療内科医の仕事と混同されることも多いですが、医師ではないため、薬の処方などはできません。臨床心理士が医学的な治療が必要だと判断した場合は、クライエントを精神科医や心療内科医に紹介します。
1-3心理学とは
心理学には大きく、臨床心理学や発達心理学、認知心理学など「どの視点から人の心を研究していくか」という観点に注目した分野や、犯罪心理学、社会心理学、教育心理学のような特定の領域における心の働きに注目した分野、家族心理学、女性心理学など「誰の心か」に注目した分野など、さまざまな分野があります。
臨床心理学も含めて、これらの領域は、大学の心理学系学部・学科、大学院の心理学系研究科・専攻で学ぶことができます。
臨床心理学とそれ以外の領域の違いは、臨床心理学が「特定の個人の心の問題」を扱うのに対し、それ以外の領域の多くは、「人間の心に関する全般的な特徴や傾向」を扱っているという点です。
例えば、「人は相手の表情から無意識にどんなことを読み取っているか」といった研究は、認知心理学のテーマ。
発達心理学では、子どもが言葉を習得していくプロセスなど、心の発達を研究対象としています。
また、社会心理学では、社会全体の集団心理が何に影響され、どのように動いていくのかなどを研究します。
実験や調査を重ねながらデータを分析し、まだわかっていないことが多い「人間の心」のしくみや傾向を明らかにしていくことが、心理学研究の目的です。
その研究成果は、教育、組織マネジメント、コミュニケーション、広告、犯罪捜査など幅広い分野で応用されています。
1-4臨床心理士の資格を取得するには?臨床心理士指定大学院・臨床心理士専門職大学院とは?
臨床心理士の資格を取得するには、公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会が実施する試験に合格する必要があります。
また、試験の受験資格を得るには、臨床心理士指定大学院か専門職大学院を修了することが要件です(2年以上の心理臨床経験がある医師などの例外を除く)。
臨床心理士指定大学院とは
臨床心理士指定大学院には第1種と第2種があり、受験資格を得られるまでの期間に違いがあります。
第1種は修了後すぐに受験資格が得られますが、第2種は修了後に1年以上の実務経験を積むことによって受験資格が得られます。
臨床心理士専門職大学院とは
臨床心理士専門職大学院とは、修了すると臨床心理士の受験資格が得られる専門職大学院のこと。専門職大学院は通常の大学院と比較してより実務家としての実践力養成に重点を置いた大学院です。
修了と同時に臨床心理士の受験資格が得られるほか、一次試験(筆記)の論文記述試験が免除されるというメリットもあります。
公認心理師の資格取得との違いは
臨床心理士を目指す場合は、臨床心理士指定大学院(第1種・第2種)、または臨床心理士専門職大学院を修了することで受験資格が得られますが、卒業した大学の学部や専攻は問われません。ただし、指定大学院に入学するには心理系の専門知識を有していることが求められます。
一方、公認心理師の場合は、大学でも心理学系科目の履修が求められます。具体的には、大学の心理学部などで指定科目を履修して大学院で指定科目を履修する、大学の心理学部などで指定科目を履修したうえで指定の施設で2年以上の実務経験を積む、などのルートを得て、国家試験の受験資格が得られます。
1-5心理系の資格と資格取得の概要
どの資格を取得するか、どんな学びが必要なのかを知るために、臨床心理士、公認心理師、認定心理士の資格と資格試験について、概要と違いを押さえておきましょう。
臨床心理士 | 公認心理師 | 認定心理士 | |
資格の種類 | 民間資格 | 国家資格 | 民間資格 |
学歴 | 指定大学院 専門職大学院 |
大学・大学院 (指定科目の履修) |
大学 (指定科目の履修) |
試験 | あり | あり | なし |
更新 | 更新制度なし | 5年更新 | 更新制度なし |
仕事内容 | 専門的なカウンセリング技法や心理療法を用いて、心の回復を手助けする |
臨床心理士の資格と資格試験の概要
臨床心理士は、公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会が認定する資格です。
臨床心理士指定大学院(第1種・第2種)、または臨床心理士専門職大学院を修了すると受験資格が得られます。
試験は一次試験(筆記)が10月に、二次試験(面接)が11月に実施され、一次試験で合格ラインに達すると、二次試験に進めます。
最終合格率は例年60%前後となっています。合格後は臨床心理士名簿一覧に登録し、資格は5年ごとに更新する必要があります。
公認心理師の資格と資格試験の概要
公認心理師は、国家資格。
大学および大学院で指定された科目を学ぶことが受験の条件となっており、指定大学院・専門職大学院を修了する必要がある臨床心理士とは異なります。
試験は7月に行われ、合格基準は「総得点の60%程度以上」とされています。なお、公認心理師の資格は更新する必要はありません。
認定心理士の資格と資格試験の概要
認定心理士は、公益社団法人 日本心理学会が、心理学に関する基礎的な知識が身についていることを認定する資格です。
大学で心理学に関する所定の単位を修得し、卒業後に協会に申請することで取得できます。試験はありません。すでに学士をもっている人は、通信制大学の科目等履修などで取得することも可能です。
「認定心理士の資格を取りたい方」. 公益社団法人日本心理学会.(参照2022.1)
1-6臨床心理士の職業と活躍の場
臨床心理士の有資格者は、医療、教育、福祉などの現場のほか、大学・研究所で研究に携わったり、独立してカウンセリングルームなどを開設したりと、幅広い領域で活躍しています。公認心理師についても、活躍の場に大きな違いはありません。
【医療】 | 病院、診療所、精神保健福祉センター、保健所、保健センター、リハビリテーションセンター、老人保健施設など。 |
---|---|
【教育】 | 公立教育相談機関、教育委員会、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、予備校など。学校ではスクールカウンセラーとして活動します。 |
【福祉】 | 児童相談所、児童福祉施設、身体・知的障がい者施設、発達障がい者支援施設、女性相談センター、DV相談支援センターなど。 |
【大学・研究所】 | 大学、短大、専門学校、研究機関など。教員や研究者として活躍。 |
【司法・法務・警察】 | 家庭裁判所、少年鑑別所、少年院、刑務所、警察の相談室、科学捜査研究所など。 |
【産業・労働】 | 企業内の健康管理センター・相談室、外部EAP(従業員支援プログラム)機関、公共職業安定所、障害者センターなど。 |
【私設心理相談】 | 臨床心理士が独立して運営するカウンセリングルームなど。 |
1-7臨床心理学の学びと職業に関するQ&A
- 心理相談職に就くには、やはり資格が必須ですか?
- 医師や弁護士のように法的に資格が必須とされているわけではありません。
無資格のまま働いたり、個人でカウンセリングルームを開いたりしている人もいます。
しかし、例えばスクールカウンセラーの募集では、臨床心理士、精神科医などの資格や実務経験が問われるため、実質的に臨床心理士の有資格者が多くを占めています。
病院や福祉施設なども、心理職の募集の際には臨床心理士などの資格を条件としていることが多いです。
いずれも今後は、公認心理師の有資格者も増えることが予想されます。
心理系の専門職を目指すのであれば、まずは臨床心理士や公認心理師の資格取得を目標に学ぶのが一般的だといえます。
- 精神科医・心療内科医との違いはなんですか?
- 臨床心理士は医師ではないので、薬の処方などの医療行為は行えません。
臨床に際しては対話式のカウンセリングを通して、クライエント自身と深くかかわりながら支援を行います。
一方、精神科医の場合は、症状の原因が脳にあることを想定し、画像診断や血液検査などを行い、治療も薬物療法が中心となります。
また、心療内科医はカウンセリングにより心身の症状の判断・治療を行う点では臨床心理士と近いですが、薬物を使った治療を行うことができます。
監修:乾喜一郎 リクルート進学総研主任研究員(社会人領域)