大学院の入試問題ってどんな感じなの?という皆さんのために、実際の過去問と解答のポイントを紹介するこのコーナー。今回は、社会人入試でもこの科目だけはなかなか避けて通れない「小論文」を取り上げました。社会科学系の小論文を例に、模範解答を見ながら、「受かる小論文」を作成するためのポイントを解説します!
第4回 今回のテーマ:
小論文編
小論文問題例(早稲田大学社会科学研究科社会人修士課程秋季入学試験問題<2005年度>)
問 題
日本の組織は、官民を問わず、概して意思決定が遅いといわれる。その原因・功罪について、あなたの見解を述べなさい。
解 説
〜 ポイントをチェック 〜
小論文を書く際には、問題の主旨や要求が何かをまず理解して、それに沿った答案を作成するのがポイント。通常、小論文は、「問題の背景説明」→「問題提起」→「それに対する自分の見解」→「対立意見の提示」→「それに対する答え」というのが基本的な流れとなる。しかし、今回の設問では、「意思決定の遅さ」という問題に対して「どちらがいいか」という見解をストレートに求めるのではなく、「問題の背景説明」(原因の分析)、「対立意見の提示」(功罪の明示)を要求している点に注目。そのため、上で挙げた基本パターンとは構成が異なってくるが、要素が変わるわけではないので焦る必要はない。
では、具体的に今回の答案作成のポイントを解説しよう。まずは、意思決定の遅さの原因を整理。この際、できるなら、複数挙げて多面的な分析をすべき。次に功罪をまとめるが、ここで言う功罪とはそれぞれ、メリット、デメリットのことを指す。こちらも複数を挙げ、メリット、デメリットをきちんと対応させることが重要。たとえば、上の答案例にあるように、意思決定が遅いと、意思決定が慎重になる反面、緊急の事態に対応できなくなる、といった具合である。
分析や見解が一面的になることは小論文においてはマイナス。常に、他の視点から見るとどうか、違う考え方はないか、といったことを意識しながら書くことを意識しよう。
解答
【解答例】
日本の組織は、概して意思決定が遅いといわれることの原因として考えられることは、2つある。1つは、日本人の精神風土である。日本は伝統的に、個人の自由意志による決定よりも、仲間や集団による決定が重視されてきた。談合や馴れ合いによる決定で、集団の調和を保つ意図がそこにはある。2つ目は、日本の組織に広く見られる上意下達の意思決定システムである。組織の中の個人が何らかの決定を下そうとする場合、まず上司の指示を仰がなくてはならない。このように、日本では、上記2つの点で、個人の意思決定の権限が著しく制限されているのも特徴と言えよう。
意思決定の遅さのメリットの1つは、同じ組織の中では、決定が受け容れられやすい、ということだ。というのは、良くも悪しくも、組織が一丸となって下した決断だから、それに異を唱える人が少ないからだ。また、意思決定が下される前に、気持ちを整理する時間が十分にあることも当事者に安心感を与え、決定が受け容れられやすくなる。
もう1つのメリットとしては、判断が慎重になる、というのが挙げられる。意思決定には複数の人間が関わり、一人の人間の偏った、不確実な決定が排除される。意思決定が遅ければ、ミスを互いに確認する時間的余裕ができ、決定がより正確になる。
意思決定の遅さの1つのデメリットとしては、以下の点が挙げられる。たとえ個人が斬新な意見を述べたとしても、意見の調整に時間をかけることで、個人よりも集団の意見が尊重されることになる。結局、個人の意思決定が反映されず、保守的な傾向になる。結果として、個人の意思決定能力が阻害されてしまう弊害も生じる。
2点目として、遅い意思決定のために、現実の社会や経済の動きに俊敏に対応できなくなる。組織内の個人が、自分が直面する問題をすばやく解決するためには、本来個人に決定権が委ねられるべきである。だが、ほとんどの場合、個人に決定権がなく、上司を含めた組織の決断を待たなければならない。決断を下したときには、すでに手遅れということもある。この点においても、個人の意思決定能力が育たないおそれがある。
第1回:英語(長文全訳)編
第2回:臨床心理士指定大学院・専門科目編
第3回:研究計画書編
第4回:小論文編
第5回:MBAの志望理由書編
第6回:心理学の英語編
第7回:MBAの論述問題編
第8回:国際関係系の専門科目編
第9回:政治学系の専門科目編
第10回:臨床心理士指定大学院の研究計画書編
大学・大学院に関するお役立ち記事一覧