第8回ビジネスパーソンのためのリカレント教育活用ストーリー

営業×プロフェッショナルスクール編

部下をリードする立場として感じた、社内に「思い」を共有する難しさ

写真:田中良樹さん
田中良樹さん(ビジネスエンジニアリング株式会社勤務)
中途でビジネスエンジニアリング株式会社に就職して依頼、一貫して海外事業を担当。日本から海外に進出した企業向けのERPソフトウェアの提案、営業を行ってきた。2016年、企業派遣で学ぶ機会に自ら挙手して日本工業大学大学院に入学した。

中途で入社して以来、海外に進出した日本企業向けに多言語・多通貨対応のERPパッケージを開発、販売する仕事に営業として携わってきました。大学院に通い始めた当時は入社10年目の39歳で、うちの会社ではちょうどマネージャーになる手前くらいの年代。いち営業としてのスキルや製品知識にはある程度自信がついていましたが、この先、人にものごとを伝えたりサービスを企画したりするうえで、今持っている経験と勘だけでは無理だと感じ始めたタイミングでもありました。

とくに難しさを感じていたのは社内での意識共有です。お客様とのコミュケーションには自信があったし、私個人が自分の「思い」で動くときはよいのですが、たとえば「新しいサービスを作る」といった場面では、自分が「これがいい」と思う形をメンバー全員がよいと思ってくれるとは限りません。大学院で学ぶことで、自分が思う「よさ」を、きちんと伝わる形にブレイクダウンする力がつくのではないかという期待がありました。

そもそも、社内に向けて「伝える」ことは営業の重要な役割の一つ。うちの会社では営業の人数は全体の10%程度ですが、お客様の生のニーズをキャッチできるのはその10%の我々だけです。日本のITはよく「技術で勝って事業で負ける」などと言われますが、そうならないためにも、キャッチしたニーズを「伝える」力が必要なのです。

業界としても、「汗をかいて売る」時代から「売る仕組みを作る」時代へ変わりつつありました。学ぶことを決意したのは、そんな中で必要な力をつけるためでもありました。

ともに学ぶ仲間=未来のお客様。リアルな指摘を受けながら考え方を磨く

日本工業大学大学院は1年制ですから、2年制が主流である他の大学院以上に忙しいには忙しいのですが、私は逆に「1年なら頑張れる」とも思いました。24時間365日いつでも利用できるフィットネスジムの会員になってもあまり通わないのと同じで、「フラッっとつまみ食いで学べる」方法うでは続かない。「平日夜間3日+土日の丸1日は大学院」と決まっているほうが自分には合っていたようです。入学当初は体力的にも大変でしたが、3カ月目にはすっかり慣れて、授業がない日でも大学院に寄って帰るほど。21時40分まで授業を受けたあとも毎回のように飲みに行き、ゲストスピーカーの先生やOBも交えて授業ではできなかった話をするのが楽しみでした。

大学院の学生は全員が社会人です。授業では、実際の事業を題材にディスカッションをするのですが、私にとっては同期もみんな、未来の「お客様」になり得る人たち。実際に海外展開中のメーカーの人もいて、自社製品のメリットについて「海外でも日本語の手厚いサポートを受けることができる」と話したら、「私の娘は小学校から英語をならう。その子たちが大人になったらそのサービスは必要なくなる。」と突っ込まれるなど、リアルなフィードバックを経験しながら学ぶことができました。自分の事業を事例に当て込み、図に落とし込み、人に伝える作業の繰り返しは、言い換えれば自社事業の標準化と言語化の繰り返し。続けるうちに自社製品の価値が分かってきて、作ったパワーポイントの数だけ展開パターンが生まれるのを感じました。

教員が実務家中心で、自分のビジネス上の課題を本当に解決できる実感が持てたのもよかったです。先生方の人数は客員教員を入れると学生より多いほどで、指導もほぼマンツーマン。まるでコンサルについてもらっているような感覚で、授業料=コンサルフィーと考えたらむしろお得だと思いました。

実は、私が大学院に通っていることは直属の上司以外には伝えていなかったのですが、あるとき「大学院の課題のため」と伝えて社内の別部署の開発担当者にヒアリングをしたら、とても前向きに協力してくれた、ということがありました。今になってみると、周囲には通学を伝えておいたほうが会社を巻き込んでより有効に学べたのではないかと思います。「期待されすぎる」ことを心配する人もいるかもしれませんが、きっと期待以上のものを返せると思いますしね。

技術経営に欠かせない「自社技術の価値への理解」が確立できた

写真:田中良樹さん

修了後は海外を担当する営業部の部長になり、海外営業の責任者として働いています。営業部そのものは5~6人ですが、開発や導入の等のメンバーも合わせると30人ほど。最近「地球を小さくする」というコンセプトワードを作ったのですが、全員にそこから取るべき行動を考えてもらうこことで、役割の違った者同士でも価値観を共有できるものになったと思います。

取得した学位はMOT(技術経営修士)ですが、学んだ今思うのは、そもそも技術経営のために「技術」自体、例えば「プログラムの原理」などを理解する必要はないのだということです。重要なのは自分のような「売る」人間、つまりマーケットを知っている者が、自社技術の価値を正しく理解していること。うちの会社が作っている多言語・多通貨対応ERPパッケージなら、その本質的な価値は「海外でも安心して経営できること」にあります。今は、売っているのは「安心」というバリューだとはっきり言うことができる。そうやって立ち返る原点ができたことで、営業職としても改めて鍛えられたと思います。

もうひとつの大きな学びは、在学中に出会った仲間を通じ、人として、生き方や価値観の違いを実感できたことです。同期の最高齢は70歳の社会人学生でした。その人はこれから起業準備のため、自分の使命、存在意義を掘り下げに来ているとのことで、ただ「お金を稼ぐ」のではないそんな生き方もあるのだと感銘を受けました。同時に、自分の部署のメンバーにもそれぞれの価値観があるのだと気づくことができました。評価にしても、単に「目標を達成したから給料が上がります」というのではなく、そうした個々の価値観を満たすものであるべきだと今は思います。そういう感覚が身についたのも、この大学院で利害関係のない多様な友人を増やせたおかげですね。

教員から

技術経営=知的資産を生かしてビジネスを設計、実践できる人を育てます

写真:清水弘さん ITの世界では、プロジェクトマネージャーとその上のライン長では役割が違います。前者は決まったことがうまく進められればよいが、ライン長は新しいことをやらなければいけない。田中さんは大学院で、そのための多くの学びを得られたと思います。 本大学院の特色の一つが中小企業にフォーカスしていること。学生にも中小企業の幹部が常に一定数いて、その姿勢に触れたいと門をたたく大企業の社員もいるほどです。中小企業の幹部が持つ「当事者意識」、大企業や外資系企業の社員の「多様性」や「多角化」、さらには IT分野の人の「時代性」や「プロフェッショナリズム」。そういったものがミックスされた環境も、この大学院の魅力といえるでしょう。 「技術」とは、狭義ではものごとを設計、開発するための何かですが、広くは「知的資産」とも言えます。これを生かしてビジネスを設計、実践するのが技術経営。MOTの大学院として、田中さんのように、技術というシーズを社会のニーズに合わせ、価値を表す言葉に置き換えられる人を養っていきたいと考えています。


清水弘さん

日本工業大学大学院技術経営研究科教授。プラント設計者としてプロセス設計を中心に研究開発、建設、運転やIT化推進などに従事したのち、技術に強みを持つ経営コンサルティング企業へ。現在は、国内のIT企業や中堅製造業、中国の自動車部品企業等に対し、事業方針、組織運営、技術・製品開発やマーケティングなどのアドバイスをしている。

ビジネスパーソンのための【職種別】リカレント教育活用ストーリー

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