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はじまる、薬剤師の未来図。

 
神林 弾さん

昭和薬科大学 実践薬学部門 講師

人と動物、地域の健康をつなぐ。 薬学が拓く「獣医療」の未来。
人と動物、地域の健康を つなぐ。薬学が拓く 「獣医療」の未来。

獣医療という未開の領域へ。
様々な現場を渡り歩いた神林先生の、
仲間と一歩踏み出す新たな挑戦の話。

  • #薬学×獣医療
  • #動物と人の健康をつなぐ
  • #社会の仕組みを科学で創る

Chapter_01

動物への関心と薬学の融合。 点と点が一本の線につながった瞬間。

薬剤師である神林先生が、なぜ「動物の医療」に関わり始めたのですか?

実は高校生の頃、牛や馬といった大動物の獣医師という職業にも強い関心を持っていました。その後、様々なご縁があって母校である昭和薬科大学へ進学し、病院や地域薬局の薬剤師として、医療現場で確かなやりがいを感じながらキャリアを積んできました。
小児アレルギーなどの専門領域で臨床と教育に注力する日々を送っていましたが、数年前に「愛玩動物看護師」の国家資格化に伴い、動物の調剤領域における薬剤師の役割が改めて議論され始めました。そのとき、「法律(薬剤師法)には、医師と並んで獣医師の処方に薬剤師が応じることが明記されているのに、なぜ現場では活用されていないんだろう?」という疑問が湧いたのです。薬学のプロとしてこの未開の領域にアプローチできたら面白いかもしれない――そんな純粋な好奇心から申請した国の科研費(科学研究費助成事業)が採択され、かつて抱いていた動物医療への関心が、薬学という武器と融合して一気に現実へと動き出しました。

さらにうれしいことに、高校時代に同じ領域に関心を持って切磋琢磨していた仲間たちが、いま現場でベテランの獣医師となって活躍しているのです。彼らとのネットワークも活かしながら、病院に薬剤師を雇用せずとも地域の薬局が動物病院と協働していける「地域連携モデル」の構築を目指しています。日本で動物医療に関わる薬剤師はまだわずか20〜30人程度ですが、法律に眠っていた可能性を呼び覚ます挑戦が、ここから始まります。

Chapter_02

課題は山積み、でもゼロじゃない。 社会の仕組みを科学で創る。

新しい領域だからこその、苦労や今後の課題を教えてください。

制度やルールも十分に整っていませんし、動物病院側との利害調整など、クリアすべき難しさは色々あります。正直にお伝えすると、この研究はまだスタートしたばかりで、目の前にはやるべきことやハードルが山積みです。
薬剤師側の知識ももっと必要です。「猫には人間用の解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン)が命に関わる禁忌である」「犬がキシリトールを食べると低血糖で危険」といった種差による毒性や用量の違い、さらには体の小さな動物たちのために薬を正確に分割したり、ベーコン風味などの味付け(フレーバー)を施したりする製剤実務のノウハウなど、クリアすべき壁は数え切れません。しかし、一人では解けないパズルも、想いを同じくする仲間が集まれば突破口が見えてきます。先日も、神奈川県薬剤師会のウェビナーで、動物病院の獣医師の先生、動物病院で働く薬剤師、そして研究者である私の3者によるシンポジウムを開催しました。100名を超える薬剤師の方々が参加してくださり、現場の関心の高さを肌で感じました。

そのシンポジウムで、日本ではペットの飼育率が約1割なのに対し、アメリカでは約7割にものぼるというデータに触れました。それほど動物が生活に溶け込んでいる社会でも、まだ薬学側の教育や連携の手順は確立されていないと感じます。
今年は東北医科薬科大学の先生や現場の先生方と共に「研究会」を年内に立ち上げ、ルール作りを進めていく予定です。ペットはいまや家族(コンパニオンアニマル)であり、動物の健康を守ることは、飼い主である地域住民の健康(フレイル・認知症予防)にも関連しています。この「人と動物の健康の共生(ワンヘルス)」という大きな社会的価値を、研究に基づく「サイエンス(エビデンス)」として見える化し、社会へ発信するために全力で取り組んでいます。

Chapter_03

興味関心のあることから、半歩でも動こう。 その行動が新しい薬学になる。 興味関心のあることから、 半歩でも動こう。その行動が 新しい薬学になる。

昭和薬科大学での学びと、学生たちに期待することを教えてください。

私は病院や地域薬局での実務を経て、現在は「実務家教員」として母校の教壇に立っています。大学では5年生の実務実習に行くための全国統一テスト(OSCE/CBT)の教育も担当していますが、今年から卒業研究のテーマに「獣医療」を新しく提示したところ、初年度から熱意ある4年生3名がこの未開のテーマに飛び込んできてくれました。今年は学生たちを連れて、薬剤師がいる動物病院といない病院のバックヤードや診察室を陪席する現場学習を計画しています。将来的には、アメリカの大学のように選択科目として「獣医療薬学」の講義を開講し、大学のカリキュラムそのものをアップデートしたいと考えています。次世代を担う高校生や学生たちに求めたいのは、指示待ちにならず、自分の「好奇心」を信じて動く圧倒的な行動力です。AIや調剤ロボットの自動化はどんどん進みますが、出てきた情報を吟味し、丸投げせずに最終判断を下すのは人間、つまり私たち薬剤師の知識とプライド・熱意です。 最初から大きなことを成し遂げる必要はありません。一歩、いや半歩でもいいからまず動いてみる。待っていても世界は変わりませんが、半歩踏み出すだけで、見える景色はガラリと変わります。緑豊かな自然の中で、高い志を秘めた学生が集まるこの昭和薬科大学で、まだ誰も歩んでいない新しい薬学の可能性を、一緒に切り拓いていきましょう。

未来の薬剤師へのメッセージ

私は高校時代、動物の医療にも強い関心を持っていましたが、薬学の道に進んだからこそ、いま「獣医療薬学」という新しい医療の仕組みを創る一生モノのライフワークに出会えました。課題だらけの未開の地だからこそ、挑戦する価値があります。薬学の可能性は、皆さんが思っている以上に広いと思います。まだ誰も歩んでいないこの新しい領域で、あなたならどんな未来の仕組みを創りますか?

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