2026 Spring Theme

国立医薬品食品衛生研究所
再生・細胞医療製品部 主任研究官
Chapter_01
国の最先端機関である「国立医薬品食品衛生研究所(NIHS)」で、どのような研究をされているのですか?
私は昭和薬科大学を卒業後、同大学院の博士課程へと進学し、母校で特任助教を務めました。その際に、現在の所属先である国立医薬品食品衛生研究所の再生・細胞医療製品部との共同研究(出向)の機会をいただいたことがきっかけとなり、現在は国の研究者として働いています。私の大きな研究テーマは「ウイルス安全性」です 。医薬品や、近年登場した「再生医療等製品」の中に、ウイルスが潜んでいないかを正確に、かつ超高感度で検出するための新たな試験系の構築に取り組んでいます。
いま特に注力しているプロジェクトの一つが、ドナー不足の解決策として世界中で期待されている「異種移植(豚からヒトへの臓器移植)」における安全性評価です。豚の細胞内には、生まれつきゲノムに組み込まれている「内在性レトロウイルス(PERV)」が存在しており、これがヒトに感染するリスクが懸念されています。アメリカではすでに治験の段階に入っており、日本でも供給用の豚の準備が急速に進んでいます。新しい画期的な治療法が目の前に現れたとき、私たちは「本当に安全なのか?」「どこまでなら保証できるのか?」という境界線を、様々な実験データから多角的に検証していきます。開発側が前のめりになりがちな最先端医療に対し、客観的なデータ、つまりエビデンス(科学的根拠)を蓄積し、安全性の「ものさし」を提示することこそが、国の機関として私たちが担う非常に大きな社会的責任なのです。

Chapter_02
次世代の技術である「NGS(次世代シーケンサー)」を用いたウイルス検出の標準化とは、どのような挑戦ですか?
もう一つの主軸プロジェクトが、次世代シーケンサー(NGS)と呼ばれる最新のゲノム解析技術を用いたウイルス検出試験の確立と国際標準化です。これは、従来の培養細胞や動物を用いた時間のかかる試験に代わり、ウイルスに関連したDNAやRNAの配列情報から網羅的にウイルスを発見できる画期的なテクノロジーです。しかし、この最先端技術は進歩のスピードが驚くほど速く、解析手法やキットが目まぐるしく変化するため、「手法を一つに固定して世界的なルール(ガイドライン)にする」ことが極めて難しいという難所があります。
ここで重要になるのが、私たちが掲げる「レギュラトリーサイエンス(規制科学)」の精神です。どれほど優れた最先端の試験法であっても、過度な熟練や複雑な手順を必要とし、世界で私たちしかできないオンリーワンの技術になってしまっては、社会を守るための試験法としての価値がありません。目指すべきは「世界中の誰もが、どの施設でも同じように再現できる普遍性(ユニバーサル)」です。
目まぐるしく変わる新技術を常にキャッチアップしながら、それをいかにシンプルで一般化されたプロトコル(手順書)へと落とし込んでいくか。また、偽陽性対策や検出限界の線引きを検証する作業は、まるで複雑な条件を組み合わせて最適解を見つけ出す「パズル」のような面白さがあります。厚生労働省や日米欧の国際調和機関(ICH)でのガイドライン化を見据え、世界中の医療現場で安心して医薬品や再生医療等製品を使ってもらうための土台をコツコツと泥臭く作り上げています。

Chapter_03
昭和薬科大学での6年間と、薬剤師免許を持つ「研究者」としての強みを教えてください。
実は研究室の配属先を決める3年次の後期までは研究というものに大して興味がなく、あまり手を動かさない調べ物中心の研究室で勉強しようと考えていました。しかし、先生の「研究は今しかできないかもしれない」という言葉や、先輩たちが一番熱く研究を語る姿に圧倒され、思い切って薬剤学研究室へ飛び込んだことが私のすべての原点になりました。母校である昭和薬科大学の最大の魅力は、いい意味で「のんびり穏やか」でアットホームな雰囲気があることです。薬学部の勉強や実習は非常にハードで、学年が進むほど量も増えて大変になりますが、単科大学だからこそ学年全員が同じスケジュールで高い壁に挑みます。そのため殺伐とせず、「みんなでやればなんとかなるっしょ!」という足並みを揃えた強い連帯感とアットホームな温かさがあり、その縦と横の強い繋がりはいまも私の財産です。そして、6年制で病院や薬局での「実務実習」を経験し、薬剤師免許を持っていることは、研究の世界でも特大なアドバンテージになります。たとえば化学系の学部でも薬の化合物を作ることはできますが、薬学部出身の研究者は、その薬が身体に「どう吸収され、どう代謝され、実際に病院で患者さんにどう使われるか」という全体像を、在学中から明確に想像することができます。自分がラボのベンチで向き合っている研究の先に、未来の患者さんが待っているというビジョンを誰よりもリアルに捉えられるからこそ、日々の研究に対するモチベーションや探究心も圧倒的に高まります。

未来の薬剤師へのメッセージ
今の時代は、AIを使えば目の前の課題に対する答えがすぐに手に入ります。しかし、それは答えの「アシスト」であって、その情報が本当に正しいかを吟味し、最終的な判断を下せるのはあなた自身の頭の中にある知識と経験だけです。薬学は環境や栄養まで広く体系的に学べる非常に面白い学問です。
昭和薬科大学でエビデンスに基づいた本物の判別能力を養い、未来の医療の安全をクリエイティブに支えるサイエンティストを目指してみませんか?