虫好き高校生が考える「日本の林業の未来のためにできること」

高校3年生の荻野拓磨くんは、東京に暮らす都会っ子だが、将来は日本の林業を盛り上げる仕事に就きたいと考えている。

 

夢に向かって着実に歩みを進める荻野くんを支えているのは、学校や世代の枠にとらわれない行動力だ。

 

■NPOの里山保全活動に高校生ひとりで参加

 

父親の影響もあり、小さな頃から昆虫や動物が大好きだった荻野くん。興味の対象が生き物から、それらが生息する森や林に移ったきっかけは、高1の時に3カ月間留学したニュージーランドで見た光景だった。

 

「ホームステイした家のあたりは広々とした自然が広がる地域で、すごく気に入っていました。それが、ある時少し足を延ばしてみると、そこは広大な森林が焼き尽くされ、宅地に開発されようとしていたんです。目の前ですばらしい自然が消えていく光景は衝撃的でした」(荻野くん、以下同)

 

自然保護のために自分にできることはあるのか?――荻野くんは帰国後すぐ行動を起こす。東京都にあって豊かな自然が残る稲城市で里山保全活動を行うNPOを発見し、単身で飛び込んだ。

 

「人の都合で自然を破壊するのではなく、人と自然が共存する『里山』の存在に魅力を感じました。自然破壊は世界の問題ですが、身近にも何かできることがあるんじゃないかと思うようになったんです。NPOのメンバーは自分の親世代より年上の人たちがほとんどですが、『若い人がいないからうれしい』と頼りにされ、自分から動けば必要としてもらえることに気づきました」

 

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NPOで森林の手入れや保全活動にかかわるなかで、荻野くんは日本の林業に目を向けていく。管理されない森林が荒廃していく現状を見て、インターネットや書籍で日本の林業が衰退した原因とともに、森林の荒廃によって引き起こされる災害や、小さい頃から好きだった昆虫や動物への悪影響を知るようになる。

 

「豊かな森林を保つには、定期的に樹木を切ることが必要とのこと。残った樹木の成長や根の発達が促進されたり、適度な日が差し込むことで下草が茂って表土の流出を防いだりするそうです。森林の手入れがなされず荒れてしまうと、保水力が低下します。最近、土砂崩れや洪水などの災害がたびたび起こるのも、林業の衰退が要因の1つにあるのかもしれません」

 

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■自ら学生団体UNITYを立ち上げ

 

林業の振興のために頑張っている人もいる。「高校生の自分にも何かできることがないだろうか」――そこで荻野くんが考えたのは、若い人たちに林業に関心をもってもらうこと。そのために友人と学生団体UNITY

を立ち上げた。

 

夏休みには、岐阜県石徹白という人口約280人の小さな限界集落で、2泊3日のスタディーツアーを主催。林業や農業の衰退とともに人が離れていく限界集落の課題を知るため、現地の住人との交流や農業体験を行った。

 

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「日本の第一次産業の現状を身をもって知り、未来を考えさせられました。今年は急な実施だったのでたくさんの人を集めることができませんでしたが、来年はもっと幅広くアピールして、たくさんの人に参加してもらいたいと考えています」

 

荻野くんの将来の夢は、林業関係の仕事に就くこと。そのために現在、林業について学べる大学の受験勉強に励んでいるところだ。

 

「現在、日本の木材は安価な海外の木材に押されています。なぜ日本の木材が高価なのかというと、急斜面の森林が多く木材の伐採や運搬にコストがかかるから。そうした課題を解決し、安定供給できるしくみをつくっていける人になりたいですね」

 

高校生にとって、あるいは都会育ちにとって、林業は遠い話かもしれない。しかし、興味をもって能動的に動いた荻野くんには、身近な問題となった。みんなも気になるテーマについて行動を起こしてみたら、今まで見えなかった世界が拓けるのではないだろうか。