関東学院-すべての主人公たちへ

作山 美幸 / 建築家

目の前に誠実に。未来には、野心を。

建築は、完成した姿だけを見れば、
華やかな仕事に見えるかもしれない。
新しい形を考え、まだ世界にない空間をつくり、
たくさんの人の目に触れる。
だけど、その裏側にあるのは、
図面を描き、人と話し、予算を調整し、
また考え直すという、
気の遠くなるような日々の積み重ねだ。
私は細かい性格でもないし、
器用に何でもできるタイプでもない。
それでも、地道に続けることならできる。
すぐに結果が出なくても、
同じペースで前へ進むことならできる。
目の前の一つひとつに誠実でいること。
そして、その先にある大きな夢を
決して手放さないこと。
その二つが、いまの私をつくっている。

最初と最後。

仕事をしていて、心が動く瞬間が、
二つある。
まだ何もなかったところに、
最初のアイデアが生まれた時。
そして、長い時間をかけた建築が
本当に目の前に現れた時。
最初に考えた形と、実際に完成した建築は、
同じようでいて、まったく違う。
法規や安全性、構造、予算。
さまざまな条件に向き合いながら、
何度も形を変えていくからだ。
以前、住宅のために考えたことが、
数年後にホテルの設計で生きることもある。
目の前では実現しなかったとしても、
考えた時間は、いつか別の建築につながっていく。

父の図面と色鉛筆。

父は、徳之島で設計事務所を営んでいる。
子どもの頃、たまに父の仕事場へ行くと、
机の上に建築の図面が広げられていた。
「好きな色を塗ってみたら」
そう言われて、色鉛筆を手に取った。
壁や床、家具や植物。
図面の中に、好きな色を重ねていく。
何色にしてもいい。
正解も間違いもない。
それが、とても楽しかった。
夢中になって塗っていたけれど、
その時は、
まさか父と同じ道へ進むとは思っていなかった。

構造か、意匠か。

大学へ入った頃は、構造設計へ進もうと思っていた。
五人姉妹の三番目の姉が
構造設計の仕事をしていたこともあり、
建物を安全に成立させる仕事に興味を持っていた。
柱をどれくらいの太さにするのか。
地震が来ても耐えられる建物にするには、
どのような構造が必要なのか。
数字と計算で、建築を支える仕事。
だけど、学びを重ねるうちに、
自分は意匠設計へ進むことを選んだ。
建物の形や空間を考え、人がどう過ごすかを想像する。
設計した形を、構造の視点からさらによくしてもらう。
いまでも構造設計の方との打ち合わせは、
毎回とても面白い。
一人では思いつかなかった建築が、
会話によって生まれていくから。

★意匠設計:建物の形や間取り、内装、素材などを考え、
人がどのように過ごす空間にするかを設計すること。
★構造設計:地震や風、建物自体の重さに耐えられるように、
柱や梁の太さ、配置などを計算し、
建物を安全に支える仕組みを設計すること。

一緒と一人。

休日は、夫と近所を散歩して、
コーヒーを飲んだり、
ご飯を食べたりすることが多い。
遠くへ出かけるより、
自分たちが暮らす街の中で過ごす。
一緒に行きたいところがあれば、
一緒に行く。
一人でフェスへ行きたい時は、
一人で行く。
夫も、自分の時間を楽しめる人だ。
ずっと一緒でなくてもいい。
それぞれが好きなことをして、
また同じ場所へ帰ってくる。
そんな距離が、私たちには合っている。

覚醒するまで、続ける。

小学生の頃から、足が速かったわけではないけれど、
中学生になり、駅伝の選手に選ばれた。
他の人に負けたくなくて、毎日、地道に走り続けた。
すぐには速くならなかった。
それでも続けていると、
ある日、突然タイムが伸びた。
自分でも信じられないくらい速くなり、
学校で一番になるほどになった。
その時から、努力を続けていれば、
どこかで覚醒する瞬間が来ると信じている。
建築も同じだと思う。
華やかな瞬間よりも、
目立たない時間の方が圧倒的に長い。
それでも続けた先に、昨日までは見えなかったものが
突然、見える日がある。

まだ、修行中。

社会人になって7年。
いまはまだ、修行をしながら
インプットを続ける期間だと思っている。
建築のつくり方。人との関わり方。
プロジェクトの動かし方。
学ぶことは、まだまだ多い。
ようやくスタートラインに立てた。そんな感覚もある。
いつかは独立し、自分で仕事をつくりたい。
簡単にかなう夢ではない。
だから、遠くの未来だけを見るのではなく、
今日やるべきことを一生懸命やる。
目の前に誠実に。未来には野心を。
どちらか一つではなく、その二つを持ち続けることで、
いまの自分と、未来の自分は
きっとつながっていく。

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作山 美幸
作山 美幸建築家
関東学院大学建築・環境学部 建築・環境学科卒業。同大学院工学系研究科修了。徳之島出身。一級建築士。父が設計事務所を営み、五人姉妹のうち三人が建築に関わる家庭で育つ。大学卒業後、武田清明建築設計事務所に入所。現在は意匠設計に加え、スケジュール管理やお施主さんへのプレゼン、外部の専門家との調整など、プロジェクトマネジメントにも携わる。将来の目標は独立し、自ら建築を手がけること。休日は夫との散歩や食事、ダイビングなどを楽しんでいる。
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