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私立大学/東京

トウキョウヤッカダイガク

ポストゲノム時代の重要課題を解き明かそう ーたんぱく質翻訳後修飾の謎ー

生命科学部 分子生命科学科 細胞情報科学研究室 伊藤 昭博 教授
―先生の研究テーマを教えてください。

 たんぱく質の、特にリジン残基上で起こる翻訳後修飾について研究しています。

―翻訳後修飾…詳しく教えていただけますか?

 生命現象は様々なたんぱく質によって引き起こされています。たんぱく質は、DNAの転写・翻訳を経て合成されますよね。でも、たんぱく質が体内で機能するとき、合成されたそのままの姿で働くことは稀です。『細胞内のどの場所で、いつ働くか』は翻訳後修飾によって決められています。つまり、大多数のたんぱく質は、翻訳後修飾されることによって初めてその機能が発揮できるのです。
 でも、たんぱく質がどのような翻訳後修飾を受けるかは、実はDNAの中には書き込まれていない。ポストゲノムでヒトの遺伝子情報がすべて分かった現在でも、たんぱく質がどういう翻訳後修飾を受けるか・どういう機能調整をされているかはわからないままです。
 ここで重要なことは、翻訳後修飾が異常になると、たんぱく質がうまく機能しなくなるので、がんなどの疾患の原因になるということ。もちろんDNAの塩基配列に変異が起きても同様に疾患になりますが、DNAの変異を元に戻すことはとても難しい。それに比べて、たんぱく質の翻訳後修飾の異常は人為的に修正することが可能なので、たんぱく質の翻訳後修飾の異常が原因の疾患は、治療薬を作ることができるのです。
 このため、私たちの研究テーマを正確に表すと、「たんぱく質の、特にリジン残基上で起こる翻訳後修飾による新しい生命現象の制御機構を見つけること。そしてその異常が疾患に関わる場合、翻訳後修飾を人為的に制御する低分子化合物を見つけて治療薬を創ること。」になります。

―どのようにして研究を進めているのですか?

 分子生物学的手法(遺伝子の働きを減衰させたり、ゼロにする実験方法)、生化学的手法(試験管内で特定のたんぱく質の機能を解析する方法)、ケミカルバイオロジー的手法など、様々なアプローチを用いています。
 ケミカルバイオロジー的手法では、興味あるたんぱく質(私たちの研究では、翻訳後修飾の調節酵素)を見つけたら、その活性を阻害する化合物も見つけ、そのたんぱく質の細胞内での機能を明らかにします。目的のたんぱく質の活性を阻害する化合物を探すため、数万の化合物を簡単に測定できるアッセイ系を作ります。実際に、数万の化合物から目的たんぱく質を阻害する化合物を探し出す実験は、理化学研究所の施設を利用して行っています。活性阻害化合物を発見したら、その後の解析は大学で行っています。
 この手法の凄いところは、目的のたんぱく質が疾患の原因因子である場合、活性阻害化合物がそのまま薬になる可能性があり、創薬に直結するかもしれないという点です。

―これからの目標や希望を教えてください。

 リジン残基は非常に多くの修飾を受けることがわかってきており、最近私たちの研究室では環境由来因子による修飾について研究をはじめました。環境因子がヒトの健康に大きな影響を与えることは分かっていますが、どのように影響を与えるのかは実は良く分かっていません。私たちは、環境学と生物学を融合させて、環境因子が生体に与える影響を、たんぱく質翻訳後修飾の観点からメカニズムベースで解き明かしたいと思っています。また、定年までには、実際に患者さんが使用する薬の元になる化合物を見つけいと思っています。

―これから大学生になる人へ一言おねがいします。

 高校生までは教えられたことを受け取る「生徒」でしたが、大学生になると「学生」になります。学生となるからには受け身ではいられません。大学生になったら、自ら積極的に勉強して、将来どういう分野に進みたいか大学生活の中で学んでいただきたいです。
 また、自分の知的好奇心を大事にして、わからないことを知りたいという気持ちや、そのための努力を大事にしてほしいと思います。

―ありがとうございました。
東京薬科大学(私立大学/東京)
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