苦労した分だけ夢に近づく!俳優犬トレーナー・宮忠臣さんにインタビュー
田中圭さん演じる心に傷を負った青年と、心やさしい“ワン!と鳴けない”保護犬・ハウとの絆を描いた8月19日(金)公開の映画『ハウ』。
※映画『ハウ』より (C)2022「ハウ」製作委員会
ハウを演じたのは、映画初主演ながら堂々たる演技が随所にみられると太鼓判を押された俳優犬の「ベック」。
そして、名優(犬)のトレーニングに携わったのが、日本を代表するドッグトレーナー・宮忠臣さんだ。
今回は、そんな俳優犬のトレーナー宮忠臣さんにインタビュー。
ドッグトレーナーを目指す高校生や動物が好きな高校生だけではなく、好きなことを仕事にしたいと思っているみんなにも進路選びのヒントになるはずだ。
(プロフィール)
宮忠臣(みや・ただおみ)さん
1945年1月25日生まれ。
警察犬の訓練を行う訓練士を経て、本格的なドッグトレーナーに。
『南極物語』(83年)でタロ・ジロの訓練を行ったのを機に、『クイール』『ディロン~運命の犬』など、数多くの映画・ドラマに出演した犬のトレーニングを手がける。
2009年には第32回日本アカデミー賞協会特別賞(ドッグトレーナー)を受賞。
現在はドッグトレーナーとしての活動とともに、北海道・稚内市の「動物ふれあいランド」の園長を務める。
目次
ドッグトレーナーの仕事とは
トレーナーになるきっかけは「警察犬の訓練」から
――ドッグトレーナーとして活躍されている宮さんですが、高校生の時からトレーナーになろうとしていたのですか?
周りが就職するから自分も、という流れで会社員になりました。
まさか将来、ドッグトレーナーに自分がなるとは思ってもみませんでしたよね。
ただ、子どものころから自分の周りには常に生き物がいました。
犬をもらってきたり、鳥を飼ったり。魚もいたな。
動物が好きだったんでしょうね。
ドッグトレーナーという仕事があることを知らなかった
――ドッグトレーナーになろうとしたきっかけはなんだったのでしょうか?
会社員には向いてないな、と思っていた時に、たまたま警察犬の訓練をみる機会があって「こんな職業があるんだ」と驚きました。
シェパードがカッコよくてね。これがきっかけだったんでしょうね。
ぼくが住んでいたところは田舎で犬の訓練所もなくて、ドッグトレーナーという職業自体を知りませんでした。
近所には血統書付きの犬なんていなくてね。
雑種しかいない。犬といえばもらってくるものと思ってましたから(笑)。
俳優犬のトレーナーとして仕事をするようになったきっかけは、『南極物語』です。
この作品からずっと映画で演じる動物とかかわるようになりました。
動物たちの感情表現の理解も大変
――これまで関わってきた動物は?
普段は「動物ふれあいランド」の園長ですから、犬に限らずいろんな動物を触っています。
映画では犬が多いですが、ほかにも狐や鹿、馬も訓練しました。
狐は『子ぎつねヘレン』、鹿は『仔鹿物語』ですね。
一番大変だったのは狐でした。
原作者の竹田津実先生が「狐ができれば怖いものはない」っておっしゃっていたくらいですから。
そのくらい、狐はほかの動物と違うんです。
『子ぎつねヘレン』の時は、生まれて3日ほどで親から離して、ミルクをやって育ててから撮影現場に連れて行きました。
だから、ぼくには自信があった。絶対に大丈夫。
ところが、狐という動物は場所が違ってしまうと、もう怖がっちゃってどうしようもない。
そして、不安になると嚙むんです。
噛むことが彼らの感情の表現方法。腕を噛まれましたね。
ホント、狐が一番大変でしたよ(笑)。
カッコいいだけじゃない!理想と現実の違いにも向き合う覚悟を
――お仕事で大切なことはありますか?
訓練士になるためには訓練所に入って修行します。
本当に大変でね。ほとんど休みがない。
正月もお盆も、動物には関係ないですからね。
休みなしで、朝から晩まで面倒をみなくちゃいけない。
思っていたようなカッコいい仕事じゃないんですよ。
当時、若い人もたくさん入ってきたけど、みんな辞めていってしまいました。
同期でまだトレーナーとしてやっているのは、ほかに1人くらいじゃないかな。
犬に限らず、馬でも牛でも狐でも、生き物に携わる仕事は、相当覚悟してやらないといけません。
いいところばかり見ているだけじゃ続きません。
苦労して苦労して、どんなに苦労してでも動物に向き合い続けてきた人たちが、今もこうしてトレーナーをしていたり、訓練所を経営していたり、それぞれの分野で活躍しています。
――俳優犬のトレーナーとしてのやりがいは?
ぼくは子どもたちに「お金は残してやれないけど、作品を残していく」と言ってるんです。
ぼく仕事は、作品としてずっと残る。
多分、これが「やりがい」なんじゃないかな、と思います。
映画『ハウ』に出演する俳優犬ベックとの交流
ベックはみんなのことが大好き
――ベックの訓練はいつから始めましたか?
いつもは仕事の依頼が来てから1歳か2歳くらいの子を探すのですが、ベックの場合は初めて子犬のころから育てました。
迎えた時は、はたしてこの子は撮影に耐えられるだろうかと不安もありましたが、犬種的に大丈夫だろうと感じていました。
犬種で性格は違いますからね。
ベックは1歳5カ月くらいから撮影に入りました。
ぼくは、その子が10カ月くらいになるまで訓練はしません。ベックも同じです。
それまではひたすら遊んでやりながら、いろんな経験をさせます。
人ごみの中に連れて行ったり、車や電車がひっきりなしに通る場所を歩かせたりなど、周りの環境に慣らしていきます。
声掛けで感情表現ができるベック
――ベックのすごいところは?
ベックは、「来い」という動作が3通りできるんです。
普通は「来い」というと走ってくるんですが、ベックは「ゆっくり」と「小走り」と「走る」ができます。
歩かせるのはとても難しい訓練です。
今回は歩く距離も長く、力を入れました。
ベックは声掛け変化にもこたえてくれています。
せつなくて悲しいシーンでは、ベックの感情を抑えるように「ベック、ゆっくりだよ」と声をかける。
すると、ベックは本当に「トボトボ」と歩きます。
歩くだけではなく「座る」「伏せ」でも、言葉のかけ方で犬の動きは全然違ってきます。
ぼくの気持ちを理解してくれているのかな?
そこはベックに聞いてみないとわからないけれども(笑)。
撮影で気を遣うのは「俳優さんとの相性」
――田中圭さんとの相性は?
ベックはとても明るい性格で、みんなのことが大好きなんです。
今回は田中圭さんの性格もありましたね。
田中さんがもっている性格に、ベックがまっすぐ飛び込んでいけました。
何にも心配なかったです。
※映画『ハウ』より (C)2022「ハウ」製作委員会
ぼくが撮影で一番気を遣うのは、実はそこです。
俳優に対して尾っぽを振ってよろこんでくれるかどうか。
そういう性格の犬を探してくることは一番大事なところです。
いつも、クランクインの1週間前くらいから、俳優に来てもらって犬に慣れてもらいます。
『ハチ公物語』の時には、ハチの主人・上野秀次郎役の仲代達矢さんに「なんにもしなくてもよいので、毎日来てハチを散歩に連れてってやってください」とお願いしました。
日本犬は懐きにくくて難しいんです。
すると、仲代さんは1カ月、毎日通ってくれました。
撮影前に犬と俳優が一緒に過ごす時間は、とても大切です。
動物はとても素直だから自分もありのままで
――宮さんにとって、ベックや動物の存在とは?
「気をつかわなくてもよい存在」ですかね。
人間だと、いろんなことを考えなくちゃならない。
でも、動物やベックは、こっちの機嫌が悪くても良くてもそのまんま。
素直だから、こっちも自然体のままでいられる。
人間もそうであれば良いと思うけど、そういうわけにはいかないでしょう?
カッコつけたりしてしまいますから(笑)。
夢をかなえたい高校生にメッセージ
「こうなりたい!」という将来の目標を、しっかりともち続けることが大切です。
そりゃあ、気持ちがブレることもありますよ。
夢をかなえることは、そんなに簡単なものじゃない。
ぼくだってグラグラでしたよ(笑)。
今回の訓練も撮影も、苦労はたくさんありました。
この仕事で、楽なことなんてないんです。
でも、苦労することで、動物の立場になって考えることができます。
ベックの立場でものを考えずに、こっちの都合だけでやってちゃ、ベックに無理をさせてしまうでしょう。
それでは信頼関係は築けません。良い映画を撮ることもできないでしょう。
具体的な目標をもつことで、大変なこともきっと乗り越えられます。
映画情報『ハウ』
公開:2022年8月19日(金)ロードショー
原作:『ハウ』斉藤ひろし(朝日文庫)
出演:田中圭 池田エライザ
監督:犬童一心
主題歌:GReeeeN『味方』(ユニバーサル ミュージック)
公式HP:haw-movie.com
公式Twitter&公式Instagram&公式TikTok:@haw_movie2022