女子大生が作った「当たる! 方言チャート」大ヒットの裏側は?
みなさんはネットで話題になっている「方言チャート」をご存知だろうか?
「翌日、家に不在のとき、『明日、家におらん』と言うことがありますか?」などの問いにイエスかノーかで答えていくだけで、出身都道府県がわかるというもの。
東京女子大学の篠崎晃一教授のゼミで学生たちが開発した。
このチャート、「当たる」と評判だが、もちろんそう簡単には作れない。
例えば、方言というのは、A県から隣のB県に行ったとたんにいきなり変わるなどという単純なものではないからだ。
また、中央で流行った言葉が地方に拡散していくという特徴があるため、北のほうのC県と南のほうのD県に偶然同じ言葉が残っているなんていうこともある。さらに言葉は時代によってどんどん変わる。今の若者が「当たる」と思えるチャートを作るのに、昔の文献などはそれほど参考にはならないのだ。
そこで「あなたの出身地は? ○○という言葉は使う?」などと聞いて回る非常に地道な作業が必要になってくる。さまざまな地方から学生が集まる東京の大学は、チャート作成のための調査にうってつけだ。
ゼミ生のひとり、小野梨紗子さん(3年)は
「毎日、毎日、周りの人に聞いて回って、ちょっと気になる言葉が耳に入ってきたら『今なんて言った?』と確認してメモをとったりしました。方言のことで頭がいっぱいで、夢にまで方言が出てきたくらい!」
と、調査中のことを振り返る。
洞まなみさん(3年)も
「学生時代、一番頑張ったと言えることがこれ! 『やってみたよ』『当たったよ』など友達から反応があるのでやりがいがありました。とにかく精度を上げたくて必死でした」
とのこと。
このチャート、出身県に行き着くまでに、一番答える回数が少ない場合で2回(沖縄県)。そして、多い場合は20回以上。つまり、やってもやってもなかなか県を特定できないのだ。
「同じ福岡県でも、福岡市と北九州市では全然方言が違います。そして、福岡市は佐賀県と似ているし、北九州市は大分県や、広島県、山口県とも似ているので、なかなか区別する言葉がありません。見えている画面はシンプルですが、チャートの構造は行ったり来たりそうとう複雑になっています」
と洞さん。
何とか正解に導くために、特定の地域でのみ使われる言葉を必死で探す。友達の友達の友達などまで探し出し、限界になったらツイッターで呼びかける。
その結果、見つけ出して作った問いが、例えば「『後頭部』のことを『後ろ頭』と言うことがありますか?」。これがイエスなら大分県か宮崎県出身。これがノーなら福岡県か大分県出身。いよいよ出身県が正解に近づいていく。
「『後ろ頭』なんていう言葉を発見したときの達成感といったら!」とふたり。3年生の11人はチームワークもばっちりだ。
地道な調査から、「『漢字ドリル』と『計算ドリル』のことを略して『カド・ケド』と言いますか?」「信号が変わるときの点滅を『信号がぱかぱかする』と言いますか?」など、次々におもしろい方言が発掘された。
もちろん、「確実」と思ったことが、ひっくり返ることもある。
「私たちの調査では画びょうのことを『押しピン』と言うのは西日本だけだったんです。けれども、チャートに載せたら、関東の人にも『押しピンって言うよ』と指摘されました。『押しピン』が商品名に入っていたり、関西のタレントさんがテレビで言ったり、こうして広まっていくんでしょうね」
と小野さん。
ちなみに、小野さんは群馬県出身、洞さんは福岡県出身で、ふたりとも東京の大学に入って初めて方言だと知った言葉もあり、言葉っておもしろいなと思ったという。国際社会学科で国際関係を専攻しながら、ゼミでは日本の方言を学ぶ。少々ユニークな組み合わせだが、日本のことを深く研究するのは、国際社会を知るうえで必ず役に立つはずだ。
さて、このゼミを率いる篠崎教授は、なぜチャートというかたちで方言を研究することにしたのだろうか。
「チャートを作るのが目的ではなく、若い人も使っている方言がどのような地理的な広がりを形成しているのかを確認することが目的です。チャートというかたちにすれば協力してくれる人も増えるし、みんながおもしろがってトライし、その結果をフィードバックしてくれる。とても研究に向いているんですよ」
大切なことは「専門的な研究にいかにおもしろく取り組むか」と篠崎教授。
高校までの学びとは違う、大学の学びのおもしろさや奥深さが伝わってくる。
試行錯誤を繰り返し、現在チャートの正解率は約7割。みんなも、ぜひチャレンジして、方言研究のために結果をフィードバックしてほしい。
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