ベルギーに生まれ主にフランスで育ち、アメリカに居を定めて執筆活動を行なった作家、マルグリット・ユルスナール(1903-1987)について研究しています。フランス文学という範疇におさまらないコスモポリタンな作家ですが、そんなユルスナールがもっとも尊敬する作家は紫式部で、二十代の頃の愛読書は『源氏物語』(アーサー・ウェイリーによる英訳)だったとか。ユルスナールは『源氏物語』をどう読んだのか、という問題が目下の研究テーマのひとつです。また、この作家は大胆にも、紫式部が描かなかった光源氏の結末について想像をめぐらせた小品も執筆しています。そこから、文学作品のアダプテーション(ある作品が書き換えられたり、別の媒体やかたちに姿を変えたりして生き延びてゆくこと、翻案ともいう)にも関心が広がりました。
ゼミのテーマもまさにアダプテーションです。映画化された文学作品を自由に選んで原作と映画を比較し、口頭発表や議論を通して考えを深めます。選んだ作品のどこが面白いのか、その作品を読んだことがない人にどうしたらその魅力が伝わるのか、映画では自分の想像どおりに映像化がなされているか、そうでないとしたら映画監督はなぜそのような演出をしたのか等、さまざまな問いを通して作品世界に迫りつつ、文学作品や映像を読み解く力、読み解いたことを自分のことばで発信する力を養い、他の人の意見を聴くことで視野を広げていきます。
人との出会いだけでなく、小説や映画との出会いが導きの糸となることもあります。私はユルスナールの蔵書を閲覧するため、北米の島にまで行きました。作品から受けた感動は、時に信じられない行動力を生みます!
専門:20世紀フランス文学、文学と美術
津田塾大学国際関係学科卒業。東京大学大学院博士課程単位取得満期退学。パリ第4(ソルボンヌ)大学及びルーヴァン・カトリック大学共同博士課程博士号(文学)。日本学術振興会特別研究員(PD、国際日本文化研究センター)、東京都立大学助教を経て、2018年4月より現職。国際日本文化研究センター共同研究員。担当科目:フランス語総合IAB/専門演習/フランス文化史研究/専門ゼミ