私の専門は西洋美術史で、研究の成果を様々な著作を通じて一般の方にも紹介してきました。例えば、現代の本は印刷物ですが、印刷術がなかった中世までのヨーロッパの本は、文章も挿絵もすべて手書きでした。現在のドイツなどのゲルマン圏はラテン圏と比較すると文字の普及が遅く、キリスト教と共に広まりました。ですから文字、そして本は「信仰の対象」という側面が強く、優れて装飾的な本が生み出されました。私の『世界でもっとも美しい装飾写本』という著書でこうした本の実際の写真を紹介しています。最近は、フランス・ルネサンスの礎を築いたフランソワ1世がイタリアから呼び寄せたレオナルド・ダ・ヴィンチをはじめとする芸術家の作品が、あるお城の社交場だったお風呂に飾られていたのではないかと考えて、当時の再現を試みています。
田中先生が教える総合造形専攻の「地域文化創生分野」は、2019年に生まれた新しいコース。このコースでは入試の際、絵画や造形の実技は必要なく、歴史や美術鑑賞に興味があり、学芸員や観光・文化担当の公務員などを目指す学生に門戸を開いている。「地域と芸術を結びつけて、社会に還元できる人を育てることは、工芸の伝統や歴史ある寺社に恵まれた栃木の芸術大学として大切な役割」と語る田中先生。現場で学ぶため研究やフィールドワークでは栃木の美術館や寺院とも連携し、奈良・京都やヨーロッパでの美術研修も実施している。
学内にいる様々な分野の専門家や、学外の第一人者に一対一で手厚く指導してもらえます。歴史や美術鑑賞に興味があって、地域の芸術文化の調査・研究をしていきたい人を応援する、親身な環境です。
文星芸術大学教授、学長。
東京藝術大学美術学部美術学科卒業、オレゴン州立大学美術史学科修士課程修了、東京藝術大学大学院美術研究科芸術学専攻修士課程修了、同・博士課程後期を単位取得満期退学。専門はフランス中世美術史。
著書に『フォンテーヌブローの饗宴』(ありな書房)、『世界でもっとも美しい装飾写本』(エムディエヌコーポレーション)『レオナルド・ダ・ヴィンチの世界』(共著・東京堂出版)など。