気象予報士ってどんな仕事?資格を取るには?お天気キャスター・小林正寿さんに話を聞いた!

テレビのお天気番組でおなじみの気象予報士。

高い専門知識が必要だけど、どうしたらなれる?

テレビに出ている時間以外の時間は何をしている?

そこで、現在、日本テレビの朝の番組『ZIP!』でお天気キャスターとして活躍中の気象予報士、小林正寿さんに話を聞いてみた。

気象予報士ってどんな仕事?資格を取るには?お天気キャスター・小林正寿さんに話を聞いた!

※気象予報士小林正寿さん

(プロフィール)
小林正寿(こばやし・まさとし)さん。
1988年生まれ。茨城県常陸大宮市出身。
専修大学文学部人文学科環境地理学専攻卒業後、2012年に気象予報士試験に合格し、国家資格を取得。
2013年から気象情報会社の株式会社ウェザーマップに所属。お天気キャスターとして『TBSニュースバード』や『ひるおび!』、NHK総合『あさイチ』などに出演。2019年4月より日本テレビ『ZIP!』にレギュラー出演。ほか、バラエティー番組への出演や、サッカーJ2リーグクラブ「水戸ホーリーホック」のオフィシャルウェザーサポーターをつとめる。

きっかけは中学生時代の「デマ」事件

小林正寿さんが気象予報士になりたいと思ったきっかけは、中学生時代のある「デマ」事件だった。
「ぼくは野球部に所属していて、2月の冬の日、テレビで見た天気予報で『明日は雪』と言っていたので、部員に知らせたのです。みんな、大喜びでしたよ。雨や雪が降ると、室内で軽めの練習で済みますから。

ところが、なんと、その日は晴れてしまいました。予報が大ハズレで、以来、僕についたあだ名はデマ。

それで、『天気予報は誰がやっているんだろう?』と思って友達に聞いてみたら『気象予報士だよ!』と。

そこから気象予報士の仕事に何となく興味をもつようになりました」

高校時代は落ちこぼれだった…

でも、高校生になってからの小林さんは「将来の夢も目標もなくて、落ちこぼれでした」という。
「中学のころ、勉強も野球も競い合っていた友達がいたんです。ぼくは志望する高校に合格して入学。

でも、その友達は、別の高校に進学したんです。

そのせいなのか、自分の気持ちがきれてしまって、勉強も部活もやる気がなくなってしまった。何のために頑張るのか意味がわからなくなって、野球もやめました。

勉強しないから、テストの成績はクラスでビリ。追試で留年せずにすんでいた状態でした。

自分に自信がもてなくて、当時の口癖が『どうせ、自分なんて…』。ひねくれていました。

そのうえ、パニック障害になって、急に息苦しくなるときがあって…。

怖くて快速電車にも乗れなくなりました。とにかく、僕の高校生活は荒れていましたね」

大学卒業を目前に控え、「本気で頑張ってみよう」と気象予報士を目指した

そんな状態が徐々に変わっていったのは、高校卒業後。

大学へ進学し、環境地理学を専攻した。
 
「高校時代、唯一、好きで成績が良かった科目が地理だったんです。両親には僕のことで迷惑をかけたし、大学に進学するからには頑張ろうと決め、まず目指したのは教師です。

自分のように心が荒れてしまった生徒の気持ちがわかる教師になって、野球部の監督もやってみたいと思いました」

在学中、中学校教諭第一種免許状(社会)、高等学校教諭第一種免許状(地理歴史、公民)の3つの教員免許を取得。

が、自治体の教員採用試験に落ちてしまい、就職先が決まらないまま、大学卒業間際の時期を迎えた小林さん。

就職のことで悩んでいた時に頭に浮かんできたのが気象予報士だった。
「中学のデマ事件以来、心の片隅にあったんです。調べてみたら、気象予報士の国家資格が必要で、年齢や学歴に関係なく、誰でも受験できると知りました。

気象予報士試験は合格率5%前後という難関ですが、『今はこれまでの人生で本気で頑張ってみるときなんだ!』と思い、気象予報士になろうと決心したのです」
気象予報士の受験対策スクールに通学し、「食べる・寝る以外の時間は、勉強していました」と、小林さん。
「試験には気象学や予報業務に関する幅広い問題が出題されます。

僕が好きな地理も、その土地の気候や地形などお天気と関係していることがわかって、おもしろいと思いました。

苦労したのは、大の苦手だった数学や物理の知識も必要だったこと。

中学や高校の教科書を読み返したり、参考書を買って勉強しましたよ。過去問も何十回と繰り返し解きました」
1年半、勉強に没頭し、2012年8月、3回目の受験で合格。気象予報士の資格を手に入れた。

 

気象のほか、幅広い分野の専門知識が必要な仕事

気象予報士ってどんな仕事?資格を取るには?お天気キャスター・小林正寿さんに話を聞いた!

※このような天気図を解析


気象予報士の資格を取得後、受験対策スクールの運営元である気象情報会社のウェザーマップに所属。

ウェザーマップでは気象予報士を放送局に派遣する事業を行っていて、所属する気象予報士は、全国の放送局でお天気キャスターとして活躍している。

資格を取って、気象情報会社に所属すればテレビに出演できるわけではない。放送局のオーディションを受け、合格して初めてお天気キャスターになれる。

小林さんはウェザーマップに所属してほどなく、オーディションに合格。

2013年、『TBS二ュースバード』でお天気キャスターとしてデビューした。

その後もさまざまなニュース番組、情報番組に出演し、気象予報士としてキャリアを重ねた。
「でも、資格試験の受験勉強より、気象予報士になってからのほうが勉強しています」
気象予報士ってどんな仕事?資格を取るには?お天気キャスター・小林正寿さんに話を聞いた!

※天気予報の仕事は幅広い知識が必要と実感


仕事は天気予報コーナーの出演のほか、アナウンサーやタレントが読む気象ニュース原稿の作成や、番組によっては花粉や季節の花、紅葉など天気と関連のある話をすることもある。

また、メインキャスターやほかの出演者と掛け合いをすることも。
「1年目に『ひるおび!』に出演していたとき、ぼくは台風や竜巻といった災害現場など、さまざまな現場に行き、中継先からスタジオにいる総合司会の恵俊彰さんと掛け合いながら現場の状況やお天気を伝えるのが僕の仕事でした。

生放送中、恵さんからいろんなことを聞かれましたが、最初のころはアドリブがきかなくて、トンチンカンな受け答えをしていましたよ。例えば、2013年の夏、猛暑が続いたときのこと。

東京では水不足に備えて、小河内ダム(奥多摩町)の周辺に作られた人工降雨装置を試験的に動かすことになって、ぼくは現地に出向くことになりました。

でも、恵さんから『人工降雨装置を取材してみてどうだった?』と突っ込まれたとき、事前の調べが不十分だったからひとことしか感想を言えなくて…。

泣きそうでしたよ。

気象の専門知識はもちろんですが、幅広い知識をしっかり身につけなければと思い知らされました」
気象予報士8年目になった今も、いろいろなことにアンテナを張って調べる努力を惜しまない。


気象予報士ってどんな仕事?資格を取るには?お天気キャスター・小林正寿さんに話を聞いた!
「時事ニュース、ことわざ、植物、動物、土地の名称や歴史…。

毎日、新聞やニュースサイトをチェックすることはもちろん、本を読みあさっています。

大きな本屋さんに行くと全部のフロアを見て回って、天気と関係ありそうだなと思ったら、自然科学から経済、商業、美術史、歴史などいろいろな本を買って読みます。

心理学の本も読みますよ」
心理学!?
「お天気キャスターは、テレビを見ている人に情報を届ける仕事なので、伝える技術を磨くことも大切です。

どんな言葉を使うとより伝わるか、どういう動作や表情をするのがいいのか、心理学の本で研究しているんですよ。

また、お笑い芸人さんやほかの分野の方の話し方や声のトーンも観察しています。

スーパーなどの実演販売の方々のトークも勉強になりますよ」
見たり聞いたり、調べたこと、その日の天気の振り返り、番組本番の反省点など、ノートにメモするのが日課というからすごい。

8年間欠かさず続けていて、ノートやファイルは100冊以上になるんだそう!
 

気象予報士の1日とは?

気象予報士ってどんな仕事?資格を取るには?お天気キャスター・小林正寿さんに話を聞いた!
小林さんに、ある日の仕事スケジュールを教えてもらった。

『ZIP!』(月~金曜:5時50分~8時放映)の放映日はこんな感じ。

☆深夜0時 起床。
小林さんの出演は月・水・金曜。

火曜と木曜もお天気コーナーの原稿作成といったサポート業務を担当しているので、平日は毎日テレビ局へ。



☆1時30分 テレビ局(日本テレビ)入り。
気象庁から発表される気象データなどをパソコンで確認。

天気図を2時間くらいかけて解析。
「天気図は白黒です。

低気圧・高気圧、気圧配置、風向きなど、色塗りや書き込みをして、気温、降水確率など、今日の天気はどうなのか解析をします。

そういう作業をしているうちに、1日の天気の移り変わりが頭に入ってきます」


☆3時30分 スタイリストが用意した服装に着替えて、軽くメイク。




☆4時~ ディレクターと打ち合わせ。
番組に使うCG画面(天気図)をテレビ局のCG制作スタッフに依頼し、画面に映るテロップの確認をするのも小林さんの仕事。



☆5時30分 屋外スタジオへ移動してリハーサル。



☆5時50分~8時 『ZIP!』本番。
放送時間中、お天気コーナーは4~5回ほど。

台風などが発生するときは出演頻度が高くなる。



☆8時~9時 放送終了後、スタッフと反省会。
9時ごろにテレビ局を出る。



☆10時~ ウェザーマップのオフィスで、新人気象予報士の研修で指導。
12時から13時に、仮眠をとる場合も。



☆13時~17時 『ZIP!』の打ち合わせやロケなど。



☆17時~19時 帰宅後もツイッターやブログで天気予報を発信。
「より多くの人に気象情報を伝えたいので、僕のSNSで毎日、発信しています」



☆22時
就寝。
 

気象予報士は人の命を守る仕事

土曜・日曜もSNSで気象情報の発信をしたり、その季節の過去数年間の天気を振り返ったりと、毎日、天気のことを考えている。
「気象予報士は人の人生にかかわっている仕事だと思います。

晴れれば洗濯物や布団が干せるし、寒さが厳しければ厚手のコートを着て出かけたほうがいいなど、天気によってその日の行動が左右されます。また、スポーツの大会や入学試験など大切な日の気分、パフォーマンスにも影響を与えます。

そして、台風や豪雨など自然災害が発生したときには自分が予報や解説をすることで、川の近くに住む方の早めの避難につながったりと、人の命を守るという責任のある仕事でもあります。そういう仕事に就けているのだから、頑張ろうという気持ちが湧いてきます。

また、お天気キャスターの仕事を続けるには、オーディションに選ばれなければなりません。競争が激しいですが、続けていきたいからいつも全力投球です」

「思いやりのある気象予報士」でありたい

気象予報士ってどんな仕事?資格を取るには?お天気キャスター・小林正寿さんに話を聞いた!

※2019(平成31)年4月15日放映のひとコマ。新元号と「「冷たさが和らぐ一週間」をもじった様子


天気に真剣に向き合う小林さん。目標は「日本一、思いやりのある気象予報士」。
「晴れるから何なのか? 雨が降るから何なのか? 寒いから何なのか?…そういうことまで伝えるのが、天気予報をする価値だと思うんです。

例えば、雨降りの予報を出す場合、外に出なければならないときは、どういう傘を持てばいいのかもアドバイスしています。

一時的な小雨、ザーザー降りの雨など、どんなふうに降るのか予報したうえで、小さな折り畳み傘でいいのか、大きな傘がいいのかなど、お伝えしています。

寒かったり、暖かかったりと気温差が大きい春先には、『ダウンコートではなくて、スプリングコートでOKです』とか、『暖房が必要な寒さになります』とか。

多くの人たちの暮らしに寄り添える、思いやりのある気象予報士でありたいと思っています」
そんな小林さんでも、ときたま、天気予報がはずれてしまうことがあるのだとか?

どんな気持ちになる?
「しまった!と思います。

予報がはずれて雨が降ってしまったら、傘をさして街を歩けません……。

そんなことにならないよう、日々の天気の振り返りをしているし、少しでも雨の可能性があるようなら、『折り畳みの傘があると安心です』などと伝えるようにしています」

高校生の皆さんへ

気象予報士ってどんな仕事?資格を取るには?お天気キャスター・小林正寿さんに話を聞いた!

※高校卒業後の進路に悩んでいる人は好きや得意なことが学べるところに進学してみては?


気象予報士の仕事に興味をもつ高校生に、進路選びのアドバイスをいただいた。
「気象予報士というと、理系の人が多いと思われるかもしれませんが、僕も環境地理学専攻だったし、理系でなくても目指せます。ウェザーマップの気象予報士も理系出身は少ないです。

また、お天気キャスターの仕事は幅広い知識が必要なので、常にいろんなことに興味を持ち、なんでも調べるクセをつけておきましょう。

自分が何をやりたいのか、夢も目標もないという高校生もいるでしょう。僕も高校生時代、そうでした。

でも落ちこぼれたり、ひねくれたりしたからこそ、人の気持ちがわかるようになって、それが天気の解説にも生きています。大学時代に教員を目指して失敗したことも、どんな経験も無駄ではなかったです。

高校卒業後にどんな学部・学科に進んだらいいのかわからなくて悩んでいる人は、どんな分野でもいいから好きや得意なことが学べるところに進学してみては? そうして勉強したり経験したことが、いつか夢や目標ができたとき、役に立つと思います
今、高校生活のなかでモヤモヤと心の中も曇り空が続いているかもしれない。

でも晴れるときに備えて、やれることから頑張ってみよう!

気象予報士の資格を取るには…☆
気象予報士の国家試験に合格し、気象庁長官の登録を受けることが必須。
・気象予報士試験は、受験資格の制限はなし。
・2020年1月実施の国家試験は2969人が受験し、172人が合格(合格率5.8%)

気象予報士の主な就職先
・気象庁で国家公務員として働く。
・気象庁長官の許可を受けた気象予報業務許可事業者(天気予報を専門に行う会社)

※小林さんが所属するウェザーマップも、気象予報業務許可事業者のひとつ。全国の放送局などに気象予報士を派遣する事業のほか、天気予報の原稿作成や気象番組のサポート事業、ネットメディアや企業などへの気象データの提供を行っている。
お天気キャスターとしてテレビに出演している気象予報士のほか、企業から依頼を受けて、天候に左右される屋外イベントや建設工事の日程調整などに役立つ予報を担当している気象予報士もいる。

※この記事は2020年4月1日に取材した記事です。


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