高校生の留学体験③多文化が共存するマレーシアへ
生まれも育ちも日本という藤井理子さん(高3)が今年の1月、約1年間のマレーシア留学を終え、5ヵ国語(英語、マレー語、中国語、タミール語、日本語)を話すマルチリンガルになって帰ってきた。
小学生のころから海外の学校に興味があった藤井さん。さまざまな国に長期留学したいため、高校時代にも一度経験しておきたかったという。
「でも、人とかぶるのは好きじゃなく、アメリカやオーストラリア以外を検討しました。そのなかで、いろんな文化や言語にふれられそうなマレーシアを選びました」(藤井さん、以下同)
マレーシアはマレー系、中国系、インド系などの民族が共存する多民族国家だ。公用語はマレー語だが、それぞれの民族が独自の言語、宗教、生活習慣、民族衣装、食生活などの文化、伝統を守りながら暮らしている。
多くの留学生は留学期間中1つの家庭にステイするが、藤井さんは現地の留学支援団体の計らいで、異なる文化をもつ4つの家庭にステイする機会に恵まれた。それぞれ次のように言語や宗教が違い、食事や生活習慣も異なるものだったという。
①インド系の家庭…言語はタミル語、宗教はヒンズー教(6カ月間)
②マレー系の家庭…言語はマレー語、宗教はイスラム教(5カ月間)
③中国系の家庭…言語は中国語、宗教は仏教(十五夜の時期に2週間)
④中国系の家庭…言語は中国語、宗教はキリスト教(クリスマスの時期に2週間)
「家庭によって、手づかみで食べたり、トイレで紙を使わなかったり、冷水のシャワーだったり…食べ物も生活習慣もまったく違うので慣れるまでは大変」と、何度もファミリーチェンジすることには苦労もあったようだ。
一方で、仏教徒の家庭で仏教行事である十五夜の祭りや、キリスト教徒の家庭での夜通しのクリスマス祝いなど、異なる文化をもつ家庭の暮らしを堪能。「どれも一生忘れることがない思い出」という。
「マレー系の家庭にステイしていた時期にラマダーン(イスラム教徒の断食月)があり、私も自ら家族と一緒に日の出から日没まで飲食を断ちました。日中は30度を超すなか、水も飲まないのは想像以上に辛かったです。でも、『貧しくてご飯を食べられなかったり、安全な水を飲むことができなかったりする人の気持ちを知るため』というホストマザーの話を聞いて、自分の境遇に心から感謝するようになりました」
ステイ先とともに高校も転々としたが、どの高校も多様な民族の生徒が混在。日本人留学生だからといって物珍しい視線を送られることはなく、お互いの民族を尊重するムードがあるという。学校の授業は文系科目はマレー語、理系科目は英語。日常使われるのはマレー語だが、同じ民族同士が話す時はその民族の言語を話す場合も。留学前にマレー語と中国語は少し勉強してきたというが、多様な言語が飛び交う中、「最初は何語を話しているのかすらわからなかった」と振り返る。
「基本的にステイ先の家庭で使われていた言語を、ステイした順にタミル語、マレー語、中国語と学んでいきました。徐々に言語を習得するコツをつかめてきたようで、最後に学んだ中国語は短期間でもわかるようになりました」
以前は『いろんな言語を話せたらカッコイイ』と通訳にあこがれ、語学系の大学を希望していた藤井さんだが、この留学経験で考えが少し変化した。
「5~6カ国語を話せる人が珍しくないマレーシアで過ごし、語学に加えてもう1つ専門性も必要なのだと気づきました。今は経済学部に進んで、語学を生かして何かビジネスができたらいいなと思っています」
また、生きるうえで大切なことにも気づくことができた。
「今まで大きな挫折がなく、自分は誰かに頼らなくてもやっていけると思っていた節があります。それが、留学中は家族や友達が恋しくなり、自分の弱さを思い知ることに。実際はいろんな人に支えられていたのだと実感しました。留学したおかげで、『1人でも生きていける』と思い込んでいるような大人にならずにすみそうです」
※取材協力:公益財団法人AFS日本協会