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©️TOKYO UNIVERSITY OF TECHNOLOGY

100歳が当たり前の時代に、
日本が世界一ハッピーな
社会を実現するには?

医療保健学の視点

生涯現役で働き、社会とつながりを持って天寿をまっとうできるように。

医療保健学部
五十嵐 千代 教授

大学卒業後は企業に就職。企業内での健康支援を行う産業保健師として24年間勤務する。その後、本学に活躍の場を移し、大田区との地域連携による中小企業への支援などに取り組む。そうした功績が認められ、2022年に保健文化賞を受賞。

issueの着眼点

産業保健サービスを中小企業に
どう届けるか?に着目して

20年以上、私は産業保健師として企業で勤務していました。その間社員の健康支援に関わってきたわけですが、1990年代からメンタルヘルスやハラスメントの問題、少子高齢化問題が社会的な課題として注目され始め、働きやすい職場づくりや健康経営が求められるようになっていました。

そんな時期に「産業保健」を大学の特徴のひとつにしたいという本学から声をかけていただいたことがきっかけで勤め先を退社。本学で研究を進めるかたわら、高齢化という問題を抱える社会において「産業保健」の役割が今後ますます大切になるだろうと考え、大学周辺の地域を研究フィールドとしてさまざまな取り組みを始めました。

企業に勤めていた時は、産業保健の分野ではもうやり尽くしたかなと思っていたのですが、本学の蒲田キャンパスがある大田区に目を向けてみると、まだまだ多くの中小企業に産業保健サービスが届いていない実情があることを知り、中小企業と産業保健サービスのあり方に着目するようになりました。

行政からのアプローチではなかなか改善できない健康への意識も、企業が積極的に“健康経営”に取り組めば、働く方の健康が維持され、働き手不足の解消や経営状況の改善にもつながるはず。99%以上が中小企業というこの国で、健康経営の大切さを伝え、抜け目なく健康保健サービスを届けることは、とても大切なことなのです。

※産業保健とは…従業員が健康で安心して働ける職場づくりを目的した企業の取り組みで、事業所の産業医や保健師、衛生管理者などのスタッフ、あるいは事業者が職場外の専門家の支援も受けながら行う活動のこと。

課題の設定

法的義務のない産業保健師の設置。
どうすれば職場で健康を
維持できる?

地域の経営者の方とお話しする機会も多いのですが、健康経営の大切さをお伝えしたり、健康保健サービスの活用をお願いしても「病気になったら病院に行くので大丈夫」と言われてしまいます。やはり労働環境を整えて病気や怪我を未然に防ぐという意識が低いのでしょうね。

大田区は中小企業の割合が多く、ご家族だけで工場を切り盛りしているケースも珍しくありません。法的な話で言うと、従業員50人以上の事業場には産業医が義務付けられています。つまり、小規模な企業や工場では、日頃から健康相談や満足できるケアを受けることができないのが現状です。

さらに言えば、中小企業を支える地域産業保健センターというものがあるのですが、事業者の多くが存在すら知らない、自分たちには関係ないと思っているのが実情でしょう。こうした意識を変えていくことが日々の労働環境を整え病気や怪我を未然に防ぐ「予防」の第一歩になります。

解決策

職場の環境改善や幼少期の
健康教育に積極的に関わっていく。

「予防」の大切さを伝え、地域に定着させる。そのためには行政が主導して「環境の改善」と「教育」を行うことが重要でしょう。看護職は医療現場だけでなく、保健師がそのような場面で活躍し、病気や怪我をするよりも前から市民の健康に貢献することができます。

例えば、私が大田区と取り組んでいる仕組みづくりのひとつに「おおた健康経営認証制度」があります。これは中小企業の社長さんに「健康経営」に取り組んでもらい、それが認証されると地域の保健師さんから保健指導を受けられる仕組み。働く場をより良い環境へと改善を促す制度です。

またこうした仕組みづくりだけでなく、幼少期からの「教育」の重要性も忘れてはいけません。食育や生活習慣病の知識、喫煙の影響など、健康に関することを幼少期から学べば、大人になった時に不健康な習慣におちいることを減らすことができるからです。

期待できる効果

社会全体の生産性の向上とともに
お互いを支える
コミュニティの形成も。

「予防」の意識が高まり、元気なお年寄りが増えれば社会全体の生産性は向上するでしょう。徳島県のある村では「葉っぱ産業」がとても盛んで、お刺身のつまとして使用される大葉や紅葉などを元気なお年寄りに集めてもらい出荷するという仕組みがあります。行政がリードしながらお年寄りにオーダーして、お年寄りの労働力を眠らせることなく活用。この産業によりお年寄りは収入を得て経済的に安定し、健康も維持できるんです。ハッピーなことだらけですよね。

さらに、元気なお年寄りが増えれば、お年寄り同士で支え合うような「お年寄りコミュニティ」が至る所で形成されるかもしれません。地域の文化教室や交流会などになかなか参加できなかったお年寄りも、元気なお年寄りに誘われて一緒に参加することができる。そんな社会や地域とつながりを持ち続けられる魅力的な超高齢社会がやってくることを期待したいです。

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メディア学の視点

遠隔手術や仮想旅行。
時や空間を超えて、
リアルが進化する。

メディア学部
菊池 司 教授

博士(工学)。大学院博士課程修了後1年間、CGプログラマーを経験。その後は拓殖大学工学部工業デザイン学科助教、法政大学国際文化学部非常勤講師、韓国高麗大学(Korea Univ)客員教授、岩手大学大学院工学研究科 非常勤講師などを歴任。受賞歴も多い。

CGでシミュレーションした火災旋風の様子

issueの着眼点

自然現象から見えてきた次の景色。
豊かさへとつながるCGの可能性。

大学では情報工学を学んでいました。その頃は漠然と、コンピュータのSEになれたらいいなと思っていましたが、たまたまその大学にCGの研究で世界的に著名な先生がいたんですね。入学するまでCGに興味があったわけではないんですが、授業で先生がつくったCG映像を見せてもらい衝撃を受けました。

「コンピュータでこんな映像がつくり出せるんだ」と思って、ワクワクしながらその映像に見入ったのを今でも覚えています。もともと子どものころから映像が好きだったわけですが、そのとき初めてコンピュータと映像という、私の好きな二つのモノがひとつにつながったんです。CGの虜になった私は、その先生の研究室でさらに高度なCGを学ぶことにしました。

研究室では自然現象をCGでつくり出すというのが研究テーマでした。そこで私が取り組んだのは積乱雲です。積乱雲のダイナミックな動きを、どうやってCGでリアルに表現するか。この研究は今も私にとって大きなテーマのひとつになっているのですが、研究を重ねるうちにCGでリアルに表現する技術はもっと生活を豊かにしたり、社会の何かの役に立つんじゃないかとぼんやりと考えるようになりました。

架空の城や城下町を簡単にCG化できる

課題の設定

応用範囲が広いCGを、どの分野、
どの先進技術と融合させるのか。

CGというと、まず思い浮かべるのは、ゲームやアニメ、映画やテレビドラマの映像などではないかと思います。でもCGの技術が活用されているのはそれだけではありません。たとえば今の医療を支えているのもCGの技術ですし、フライトシミュレーターやドライブシミュレーターなどの画像もすべてCGでつくられています。

つまり社会基盤を支えている技術のひとつとしてCGというものが存在しており、活用される領域はこれからますます広がっていくはずです。とても応用範囲の広い技術ですが、CGや、CGと実写を組み合わせた映像の表現力を高めることによって、さまざまな分野、さまざまな領域で貢献できる研究、より暮らしを豊かにする研究に取り組むことが、私たちの目標のひとつです。

もちろんそれはCGだけで実現できるものではありません。建築や土木、流体力学、医学、ロボット工学など、必要に応じた理論を核に、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの技術や、ヘッドマウントディスプレイをはじめとする先端デバイスなど、多くの分野の成果が結集することで初めて実現可能になります。ですから私たちにも知識や情報を常にアップデートする努力が必要になってきます。

本物そっくりなCGによるイクラごはん

解決策

再現がベストとは限らない。
“人にとってリアル”な
映像を追究する。

人間の視覚というのは、実は意外とあてになりません。人はものを見るとき、記憶や思い込みを紛れ込ませているものです。物理法則に則ってシミュレートしていく手法を「物理シミュレーション」と言いCG作成では広く活用されていますが、それを使えばリアルに見えるかというと必ずしもそうではないのです。

たとえば私の研究室の学生が、自分がいつも見ている風景を写真や動画で撮影すると違和感がある、とくに奥行き感がなくなっている気がするという疑問を持ちました。そこでいろいろ実験を繰り返した結果、画像や映像の前の部分と奥の部分のピントを少しぼかして、真ん中にフォーカスするとより自然に見えてくるという結論を得ました。

見る人にあたかも目の前に存在するような、その空間にいるような臨場感をもたらすためには、表現力を高めることが大切です。けれどそれは必ずしも現実をそのままリアルに再現するということではなく、人の目にとってどれだけリアルであるかということが重要なのです。

体内の可視化にもCGは活用されている

期待できる効果

その場にいなくてもできること。
それが増えれば社会は
もっと豊かに。

医療分野ではすでに、CTやレントゲンで撮影した二次元画像をCGによって三次元化し、それを見て医師が診察するということが行われています。今後はたとえば医師が不在の地域でも、WebやCG画像を使って診察する遠隔診断や、ロボット技術と組み合わせた遠隔手術などへの期待が高まっていくでしょう。

また、出かけるには負担が大きすぎるご高齢の方や、病院のベッドに寝たきりの方でも、ヘッドマウントディスプレイなどのデバイスを使ってリアルに海外旅行が疑似体験できる仮想旅行なども実現するだろうと思います。臨場感を感じ、実際に旅行をしているような気分が味わえるか。それはCGの表現力次第だとも言えるのです。

これらデジタル技術をうまく使えば、時間や距離は簡単に飛び越えられます。若い頃からデジタル機器の操作に馴染んだ方が高齢になる頃には、世の中はもっと便利で安全で楽しいものに満ちていることでしょう。それを実現する重要な技術のひとつとして、CGは大きな期待と使命を負っているのです。

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コンピュータサイエンスの視点

地域格差や超高齢化社会に
光をもたらす新たな
ウェブテクノロジーは
もう始まっている。

コンピュータサイエンス学部
細野 繁 教授

日本電気株式会社でICT技術者としてキャリアを積み、その後本学に着任。サービス工学やサービスコンピューティングなどの分野を中心に、顧客の価値をサービスシステムとして具体化し、実装しやすくするための設計方法論やツール、および実践プロセスについて研究開発。

issueの着眼点

都市や大きな経済圏から離れた
地域や人を、ICTならつなげられる。

超高齢化社会を迎えて、日本が抱える問題のひとつに、都市と地方の格差が挙げられると思います。東京一極集中とともに地方では過疎化が進み、スーパーなどもどんどん撤退していくような場所では、取り残されたお年寄りが普段の生活にも困ってしまっていますね。

また終身雇用も崩れた今の世の中では、数多くの個人事業者が60代はもちろん、70、 80代になっても働くことを選択するものの、とりわけ地方においてはそのビジネスが成り立ちにくい状況も多く見受けられます。

都市部から離れた地方、またそこで大きな社会から切り離されてしまう個人。それに対し、私たちが社会情報学で扱うICTには、距離を縮める力、人と人、人とサービスをつなぐ力があります。そこでまずは本キャンパスのある八王子に注目し、地域においてICTができることを考えました。

地域の課題と解決策を検討する

課題の設定

ICTがもたらす価値を、
正しく求められる場所や
人へ届けられるか。

webの世界を30年程振り返ってみましょう。インターネットが普及した当初はweb1.0、これはweb上から情報を取り出すだけのような段階。そして今はweb2.0、SNSなどで双方向のコミュニケーションができる世界。そして今から迎えるweb3.0では、もっと個人がサーバーやクラウドに縛られることなく、自由につながれるようになります。

例えばネットで買い物をする際、私たちはいろんなサイトごとにIDやパスワードを設定したりしていますよね。例えば「隣町のAさんに荷物をいち早く、安く届けたい」と思ったとき、どこの宅配便にしようかな、と考えて申し込みますね。でも、web3.0の世界では私たち個人のIDに対し、複数の宅配業者が動的につながって、最適なところを選べます。そこには大手だけでなく地方の中小企業や個人事業者もあったりする。

そのように一般の人が、今まで知り得なかった会社やサービスとつながってくると、これは社会全体の活性化につながりますよね。都市部でなければ仕事ができないとか、個人では仕事が行き詰まってしまうというところに、ビジネスチャンスを生むことができるし、地方で困るお年寄りにももちろん大きなメリットがある。

このweb3.0の実現に向けた、ユーザ主権のサービスデザインについて研究しています。ユーザ自身がIDを手元で管理し、都合に合わせてサービス提供者を自由に選択できるように、自己主権型アイデンティティ(Self-Sovereign Identity)、信用スコアリング、ブロックチェーンを用いたデジタルトラストと、トラストに基づくサービス提供形態を具体化しています。

ユーザの条件に合った宅配業者と繋がるサービス

ただweb3.0時代のサービスが実用化の段階に至るのはまだ少し先の話。そこで私たちはそんな将来を見据えながら、今できるICTの使い方によって、地域に生きる人や高齢者の幸せにつながる、新たな価値を創造できるサービスモデルを考えました。

解決策

キャンパスのある八王子を拠点に、
価値を創造する体験を積み重ねる。

社会情報学とは、メディアやコミュニケーションに関わる社会的・文化的現象や情報社会における諸問題を研究するもので、私の専門分野であるサービスシステムデザインは、顧客の価値をサービスシステムとして実際に形にし、実装しやすくするための設計方法論を検討、ツールや実践プロセスについて研究・開発します。

例えば、今具体的に学生たちと進めている取り組みのひとつが、西東京市のタクシー会社が主に高齢者向けに組むオーダーメイドツアーにAR機能で付加価値をつけるアプリです。ある風景の中に、お客さんが昔を懐かしめる過去の建物を出現させたり、稲荷神社でキツネのキャラクターと写真が撮れる仕掛けをつくったりすることで、ツアー客の感動価値を向上します。他にも、地域を散歩して撮った写真を投稿するアプリに取り組んでいます。これは、写真投稿するとメダルを取得し、アプリ上で初めて出会った人とメダル交換しながら新たな人の繋がりやコミュニティを作るものです。このメダル交換の仕掛けとしてデジタル上の所有権と信憑性を保証するトークン(NFT)とブロックチェーンを段階的に導入しています。

そんな活動を通して、技術が先走るのではなく、ICTで何をしてどんな価値をもたらすのかという視点から発想し、また体験の中で実証することで、来たるweb3.0時代により社会に価値ある、幸福をもたらせるサービスモデルを実現したいと考えています。

ICTがもたらす価値から発想し、体験の中で実証していく

期待できる効果

地方の人に利便を、
地方のビジネスにチャンスを。
そして日本の活性化へ。

先に述べたように、インターネット、ICTの世界はまだまだ発展していきます。地方経済の活性化はもちろん、例えば足の悪いお年寄りの生活1日を快適にサポートできるよう、スーパーや銀行、病院など異業種のサービスをつなげていくこともできるでしょう。

AIがますます進歩すれば、高齢者の孤立問題にも貢献できます。ある人の会話や経験をコンピュータ上に蓄積、記憶させていくことで、たとえその方が亡くなっても、まるでそこにいるように会話ができる、そんな研究も進んでいます。こういう新しいテクノロジーには倫理的、法律的な問題も絡んできますが。

いずれにせよ日進月歩のICTには、社会問題を解決できる大きな可能性があります。そして今後発展していくことでその可能性はますます大きくなるはず。それは遠い未来ではなく、その時ICTを駆使しているのは今の若い世代のあなたたちのはずです。

コンピュータサイエンスを
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医用生体工学の視点

少子高齢化が突きつける
医療現場の課題。
その課題を先進の技術で
克服していきたい。

医療保健学部
笠井 亮佑 講師

横浜市立大学附属市民総合医療センター、徳島県立中央病院にて臨床工学技士として勤務。病院勤務時代、社会人大学院生として応用情報科学研究科の研究室へ。情報科学、神経生理学を専攻。現在は東京工科大学でバーチャル技術の医療への応用などについて研究している。

issueの着眼点

臨床の現場で感じていた危機感。
医療安全に適した
ユーザビリティデザインとは?

もともと私は、病院で臨床工学技士として働いていました。簡単に言うと、医療機器を扱う専門職。コロナ禍で有名になったECMOや人工呼吸器、さらには、ペースメーカーなど、重症患者さんの生命維持管理装置を主に扱う仕事です。当然、操作が少しでも誤りがあった場合、患者さんの命に関わってしまうぐらいのトラブルに発展する可能性も持っています。

医療機器に関しては、日々さまざまな安全対策が追加されていて、私も数百件という人工心肺を扱う症例を経験してきました。その中で強く感じたのが、いずれ、ヒューマンエラーによって、患者さんに重大な障害が残るような事故は起こってしまうであろうということ。そういう認識を常々持って働いていた時、その防止につながるような医療教育であったり、医療の安全性に関連した研究を進めていきたいと思うに至り、病院で働いていた頃、社会人大学院生として学問の道に進んでいったのです。

修士課程では、いわゆるユーザビリティの研究を行いました。医療機器のデザインにおいて「どうすれば医療事故が起こりづらくなるか?」。そうした課題を生体情報であったり、感性工学という感情を数値化するような学問を総合的に活用して、医療安全に適したユーザビリティデザインはどうあるべきか、という研究を行ってきたのです。

地域の課題と解決策を検討する

課題の設定

医療の現場で避けられない
痛みのコントロールにも
VRの技術が応用できるかも?

今、大学ではバーチャル技術を使った医療応用について研究を進めています。実はバーチャルと言ってもVR(仮想現実)だけではなくて、AR(拡張現実)や、MR(複合現実)といったものがあり、そうしたものを使った医療への応用というところをメインテーマとして研究しており、「痛みの管理」と「医療教育」という二本柱で、研究を行っています。

「痛みの管理」に関しては、穿刺、つまり注射針を刺すときの痛みを和げるためにVRを役立てられないか、という研究を行っています。例えば、透析患者さんの場合、血液を取り出してキレイにして、また身体に戻すので、二日に一回は腕の二箇所に穿刺を行わないといけません。その苦痛が今後一生続くわけです。それを緩和したりストレスを抑えることにVRを利用しようと、研究を進めているんです。
実際に行ったのは、どんな映像を見ると痛みを軽減できるか?というテスト。結論としては、交感神経系が興奮するような映像を見ることで、痛みを軽減できるというデータが得られました。また、単純にモニターで映像を観るよりもVRによって没入することで、痛みから気を逸らすことができる。つまり、より痛みを軽減できることも確認できました。
今のところ、穿刺への応用の実例は把握していませんが、小児治療や歯科治療にVRが活用されているという実例がありますので、将来的には透析患者さんの穿刺にもVRの利用は、問題なく応用できると考えています。

解決策

さらにVR技術は医療教育にも。
仮想空間の中で行われる
リアルな実技研修。

VRの積極的な活用という面では、実は今「医療教育」への応用の可能性に期待が高まっており、「医療教育」の分野でVRがどんな効果をもたらすのか?その効果を明確にしようとさまざまな研究を進めています。

その中で、座学だけの教育に比べ、座学とVRとのミックスで教育を行うことで、より効果的な成果が得られたという研究結果が出ています。もちろん医療教育は、座学と一緒に実際に手を動かすことで進められていきます。とはいえ、座学と手を動かす実習の間にVRを組み込めることで、教育コストなどの軽減や新たなメリットなどにも繋がるのではないかと考えているわけです。

現在は、VRのヘッドマウントディスプレイを装着しながら、医療機器のコントローラーのようなものを手で触ってトレーニングをする、というコンテンツを開発して実際に使っているのですが、将来的には外部のコントローラーなどは全部省き、ハプティックス技術(触覚フィードバック技術)を活用した手袋のような装置を装着。重さなどを感じながら医療機械の操作をしたり、患者さんの生体情報のバイタルサインの調整を行ったり、仮想空間内ですべてを行って技術力を上げるということを最終的な目標としています。

期待できる効果

いつでもどこでも何度でも
オーダーメイドな訓練や治療で
安全で快適な医療が
受けられる未来。

VRの医療への応用はこれからの社会において、とても意義深いものだと考えています。少子高齢化が進む中で医療技術の安定化と質の向上が重要になってきます。これはすべての業界で言えることですが、知識や技術継承の効率化は、その業界の質を発展させる上で最大の課題となっています。

そうした意味でも、VRの活用は医療技術レベルの担保であったり、医療教育自体のDX化という方向で、誰もが安全で安心な医療を受けることができる社会に大いに貢献できるのではないかと考えています。

また、VRの「痛みの管理」に関しては、医療費の削減にも貢献できると考えています。今現在は穿刺等のさまざまな痛みに対して塗り薬や飲み薬のような薬物療法を用いることがあるのですが、当然薬品自体のコストがかかってしまいます。薬ですから副作用の問題もあります。しかし、VRで「痛みの管理」ができれば、そうした問題が軽減できるわけです。将来的にはその人に合わせたオーダーメイドのVRコンテンツが処方されて痛みの管理を行う、そんな日常がやってくるかもしれません。

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