issueの周りを1周してみよう

around
the
issue

©️TOKYO UNIVERSITY OF TECHNOLOGY

コロナ禍で元気をなくした
社会に活力を生むには?

デザイン学の視点

遊び場での直感的な
サウンド体験を通じて
表現できる喜びを。

デザイン学部
松村 誠一郎 教授

大学卒業後は、アミューズメント企業に入社。研究開発部門でサウンドデザイナーとして開発に携わる。その後、東京大学大学院学際情報学府に進学、オランダのデンハーグ王立音楽院ソノロジー研究科ソノロジーコースへ留学。電子音楽の研究を中心に、サウンドデザインやインタラクションデザインの分野で数々の研究・業績を残す。

松村先生が参加する即興音楽デュオ(Artis Sound DD

issueの着眼点

音で表現することのハードル。
もっと簡単に表現できないか?

私はこれまで音楽をつくることや音響をデザインするということを仕事や研究のテーマとしてきました。企業に勤めていたときは、サウンドデザイナーとしてゲームのデジタルサウンドデザインの開発にたずさわっていましたが、その後大学院や海外での留学の経験を経て、何らかのカタチで多くの人に“音で表現する楽しさ”を感じてほしいと思うようになりました。

音楽で何かを表現するのは簡単ではありません。専門的なトレーニングの経験や知識を持たない人にとっては、やはりハードルの高いものとなります。私自身、音楽で何かを表現する喜び、つくり上げる楽しさを知っているからこそ、その喜びを多くの人と共有したい。その手法として、テクノロジーの力を使って誰もが簡単に音や音楽を表現できないか、という研究に行き着きました。

PC上に書かれたプログラムが楽器

課題の設定

演奏の経験や知識のない人でも
簡単に扱えるシステムとは?

テクノロジーの力を使って音楽を表現すること自体、そんなに新しいことではありません。市販されているシステムやソフトウェアを使えば、多種多様な音楽をつくり出すことができます。ただ、やはり音楽の知識があり、ツールに習熟している人だけが使うことができます。あくまで音楽のプロのために開発されたツールがほとんどなのです。

多くの人、とりわけ子供たちや若者に音で表現することの楽しさを知ってほしい。感じてほしいと思っています。それは、最近の学生を見ていて特に思うことで、コロナ禍の影響で以前のような活気が感じられないからです。行動が制限された2年間は、子供たちや若者から発見やチャレンジの意欲を奪ってしまったのではないでしょうか。

だから、専門的なシステムやソフトウェアに頼らない、ホントに直感的に誰もが表現ができる「遊び場」をつくりたいと思っています。そしてその答えは、これまで研究してきた「インタラクション」や「インスタレーション」という発想で実現可能なのではと考えています。

動きに反応して音楽が演奏できるインスタレーション

解決策

アクションや声に
反応する場をつくる
インスタレーションという発想。

「インタラクション」とは、使用者が何らかのアクションを行ったとき、システムがそれに応じた反応を返すこと、それを受けてまた働きかけをしていく「やり取りが循環する」状態です。例えば、マイクを使って「あっ!」と声を発したとき、その声がリズムを刻んだり、長く伸びたり、映像とリンクしたり。簡単な声や動きによってさまざまな音が奏でられるなら、表現のハードルはグンと下がりますよね。

さらに「インスタレーション」という発想を加えると、表現がより芸術性の高いものになります。「インスタレーション」とは、展示空間を含めた全体を作品とするもので、その場所にいる人が体感しながら作品と一体になって表現できます。

遊び場なのに音楽やアートが表現できる。子供たちや若者はもちろん、これまで音楽を聞くだけだった人たちにとっても表現する喜びをこうした発想で身近なものにしたい。そのためのシステムや場をつくりたい。それが一貫した私の研究テーマです。

声を出すだけで誰もがアーティストに

期待できる効果

サウンドデザインで社会を元気に。
きっとハッピーは活力の源になる。

サウンドデザインという分野は、まだまだ多くの可能性を秘めています。先に述べたように、音楽・音響表現を行うための新しい音色生成システムや新しい楽器の開発。使用する人が音楽未経験者でも、何らかを表現することができる体験型インスタレーションシステムの研究・開発。さらには、音楽・音響表現を学ぶための教育用ツールの研究・開発なども期待されています。

そうした研究や開発の結果、「表現」を通じて遊び心や好きを貫く気持ちがあふれる“元気のある社会”になってほしい。私も音の表現者としてアーティスト活動を行っていますが、若者が憧れるような楽しんでいる大人の姿を見せないと、と思っています。音楽は大きな社会課題の解決に直接寄与するものではないかもしれませんが、人や社会をハッピーにできます。それだけは間違いないですから。

デザイン学を
もっと詳しく見る

応用生物学の視点

生産者も消費者も。
関わる人みんなに
幸せをもたらす
農作物の研究を。

応用生物学部
多田 雄一 教授

東京大学大学院農学系研究科を修了。民間の研究所で植物バイオテクノロジーを研究。2005年より本学の片柳研究所の助教授に着任。現在は学長補佐を務める。専門分野は、植物分子育種(ストレス耐性)、ファイトレメディエーション、植物機能改変。

issueの着眼点

すべては幼少期の原体験から。
自分自身が納得できる
「おいしい」を求めて。

私は植物の力で地球の環境保全や暮らしを豊かにするのに役立てる植物バイオテクノロジーの研究を行っています。その中でも大きな柱としては、植物の交配によって品種開発を行う研究と、遺伝子組換えを用いて植物の機能を改良する2つの研究を行っています。

最初に植物に関心を持ったのは幼少期の頃。植物が好きで、育てることにも興味が湧き、家で何もわからず交配などもやっていました。それと果物を食べるのが好きだったので、もっとおいしい果物を自分で作りたいな、と当時から思っていました。その想いが今の研究へと繋がっているんですね。

今でもスーパーで買った果物を食べると、物足りなさを感じてしまいます。どうしても糖度や食感に満足できず、それなら自分で作ってしまおうと、研究のテーマとして交配によるイチゴやミニトマトの品種開発を始めることにしました。自分はもちろん、食べる人みんなが納得できるおいしさを追求しようと思ったのです。

課題の設定

食べる人が満足できる、が前提。
そのうえで生産者にもメリットを。

イチゴの品種開発については、個人的な想いもあって市場に出回っているモノより糖度を高めて、柔らかくしたいと考えました。商品としてはどうしても硬めの品種でないと流通の過程で傷みやすい。つまり、市場に出回っているイチゴの多くは供給側の都合にウエイトを置いた品種なので、消費者目線で見ると物足りない。そこを改善できればと思いました。

ミニトマトについては、糖度を高めるのはもちろんですが、お年寄りや子供が苦手とする皮の硬さを少しでも改善できるようにと皮の薄い品種の開発を進めています。加えて、ミニトマトは受粉しなくても実が大きく育つ突然変異系統があることがわかっています。一般的に実を大きく育てるには、ミツバチを飼育して受粉させるか、本来植物が自ら作るホルモンをスプレーするのですが、その手間を必要としないおいしいミニトマトが開発できれば、生産者にとっても省力化というメリットが生まれます。「甘い」「皮が薄い」「省力化可能」という3つの特徴を持つ品種はまだ世の中にはないので、ぜひ開発したいと考えています。

多田先生が育てるいちご

解決策

ネックになっていた時間とコスト。
その問題を解消したのは
遺伝子の解析。

品種開発の研究にはどうしても時間がかかってしまうという壁があったのですが、以前と比べて交配による品種開発の研究速度は速くなりました。その要因のひとつが遺伝子の解析です。私の研究の柱のひとつである遺伝子組換えによる機能の改良とも関わってくることなのですが、交配の研究も遺伝子レベルで解析して、効率よく品種候補の選抜ができるようになりました。

昔は農作物が大きく育ってからでないと、その実がおいしいのか、病気に強いのか、など特徴がわからなかったのですが、今では芽が出た時に遺伝子を調べればその特徴がわかります。何千、何万という植物を育てて、そこから選んでいた時代に比べれば格段に時間とコストを減らせるんです。実際、私が取り組んでいるミニトマトの品種開発も突然変異したミニトマトの遺伝子を目印にしてさらなる選抜を進めています。農作物の品種開発においてはこうした研究方法のアップデートも非常に重要で、最新のテクノロジーを活用すれば、より良い成果をコストをかけず短時間で達成できるようになるのです。

期待できる効果

「おいしさ」という付加価値は、
きっと社会を元気にしてくれる。

現状、イチゴについては研究が進んでいて、栽培環境などを制御して甘い品種を周年生産する方法を確立しようとしています。実際、交配によって平均糖度が約20度で甘く香りの高い、果肉柔らかめのイチゴが誕生しました。本学オリジナルの品種候補として実用化に向けてさらなる研究を進めています。

候補が誕生して品種登録が終わるまでの期間は2〜3年。「これまでの品種と同じような育て方でいいのか」「どこか変える必要があるのか」「収穫量は同じなのか」「病気に強いのか」など、農業形質を調べる必要がありますが、お米などが10年ほど要するのに比べると、イチゴは短時間で済みます。ですので、数年のうちに本学のイチゴがスーパーに並んでいるかもしれませんね。

農作物の品種開発は、世の中の何かをドラスティックに変えてしまうようなものではありませんが、人々の暮らしに新たな「おいしさ」という付加価値をもたらしてくれます。その付加価値は、私たちに活力を与えてくれるだけでなく、場合によっては生産者に大きなベネフィットを生み出すこともあるので、社会に貢献できる研究としてとても有意義だと思いますよ。

応用生物学を
もっと詳しく見る

more more TUT