ダイバーシティが
進む世界で、誰もが幸せに
暮らせる社会は創れる?
国際交流の視点
世界に目を向けることは、
自分自身に目を向けること。
自分の活かし方が
見えてくる。
副学長
勝浦 寿美
アメリカ研究、国際交流、海外プログラム開発が専門。国際交流・教育改革担当として、10年以上海外研修プログラムの企画に携わる。
issueの着眼点
海外に目を向けない。意識しない。
そんな学生が増えて
きたことへの危惧。
東京工科大学では10年ほど前から海外研修プログラムを作り、語学研修や国際交流に力を入れてきました。海外の人や文化に触れる海外研修、現地の語学学校で主に英語を学ぶ海外語学研修、そして新しく始まる海外インターンシップ研修。この3つが本学の海外プログラムになります。
国際化はとても重要なことだと常々考えていますが、最近ではさらにその思いは強くなっています。というのも、最近の若い人はあまり海外に興味がない。もっと言うと、自分や自分のすぐ近くにあること、また自分の興味の範囲内にしか目を向けない、という人が増えていると感じています。
大学はドメスティックであってはいけない。学びの場として積極的に国際交流を進めようということで海外プログラムを開発してきたわけですから、閉鎖的になっている学生の意識をもっと海外に向けたいという思いが強くなっています。そうした問題意識から研修プログラムの内容も今の学生に関心を持ってもらえるよう試行錯誤しながら企画しています。
課題の設定
実は求められていたのは、
本物を体感する体験型プログラム。
ビートルズも知らない。洋画も観ないし、洋楽も聞かない。日本にいてもインバウンドの需要で街のいたる所で外国人を目にする。もう海外に目を向けなくてもいいやって…。そんな海外への関心が薄い若い人たちに、どうすれば関心を持ってもらえるの?というのが今私たちが抱える大きな課題です。
それでも学生たちにアンケートを取ると、ある程度の期間海外に滞在して語学を学んだり、インターンシップを体験できるプログラムなら参加してみたいという結果が出てきます。ですので、以前人気だった1週間ほど海外旅行に行くようなソフトなプログラムではなく、滞在期間を長くしてしっかり語学を学べたり、異文化に触れたり、実際に現地で働いたりと、少しハードな体験型ともいうべきプログラムに少しずつシフトチェンジし始めています。
解決策
体験すれば意識も変わる。
それほどの刺激が海外にはある。
例えば、新しく始まる海外インターンシップ研修は、1ヶ月間現地の企業で英語を使って働くという体験プログラムです。働くためには当然英語での意思疎通が必要で、英語力に加え、ベースとなるコミュニケーション力も必要です。苦労することも多いのですが、頑張って英語で自分の考えを伝えることができた時の感動も大きいので、そこで語学の大切さを身をもって理解できるわけです。
以前海外の社会課題に触れるプログラムの一環で、貧困地域のボランティアに行くことがありました。行く時と帰ってきた時とでは学生はガラッと考えが変わりました。日本では目にすることのないとても貧しい地域の子供たちにカレーを作って食べさせてあげるのですが、最初は消極的で会話もあまりありません。でも、子供たちが目をキラキラさせて調理する様子を見学しにくると、自分がとても役立っている存在だと感じてくる。そうなると学生同士でどんどん意見を言い合って、他にも何か作ってあげようと新しいメニューを考え始めたりする。別れる時に子供たちが手を振りながらバスを追いかけてくる姿を見て、涙を流す学生もいました。
こうした体験をすることで、どうして海外にはこんな貧困地域があるのだろう?この問題をなくすためにはどうすればいいんだろう?自分は何ができるんだろう?という思考が生まれてくる。日本にいるだけでは味わえない貴重な経験こそ、海外プログラムの大きな意義なのだと思います。
期待できる効果
他者や他文化に触れて
理解し、認める大切さを学ぶ。
現地で五感を通して人々と触れ合うと、自分や自分の周囲のことしか考えていなかった学生が、他人や他文化をどう理解して、どう受け入れるかという意識も芽生えるようになります。他人を否定しないとか、自分はこう思うけど、とりあえず意見を聞いてみようとか。そして、その意識は海外との交流だけに限らず、日本の中でも互いを尊重し合える関係を生み出してくれるはずです。
世界や社会は多様であって、そこに自分もアジャストしなければなりません。そんな時に必要になるのが語学やコミュニケーション力です。自分自身の多様な可能性を広げるためにも、見識を深めるためにも海外プログラムを活用してほしいと考えています。本当に海外プログラムは人生の時間と比べたら一瞬でしかないのですが、研修後の学生は一生が変わるほど変化し、成長します。そんな姿を目の当たりにすることができるので、やりがいは大きいですね。
国際交流について
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メディア学の視点
これからの社会は、
個性や才能を活かした
多様性がイノベーションを
起こす。
メディア学部
飯沼 瑞穂 准教授
教育学の博士号をアメリカのコロンビア大学大学院で取得。専門は国際教育開発。慶應義塾大学での英語の訪問講師やニューヨーク市立大学での講師を経て、東京工科大学へ。メディア工学なども視野に入れ、教育開発の視点からソーシャルデザインを研究している。
issueの着眼点
教育格差を目の当たりにして
関心を持ったテクノロジー。
私が教育学を学んでいたニューヨークのコロンビア大学は、全米でも特に低所得な人たちが暮らすハーレムという地域に隣接していて、そこには主に黒人やラティーノといったマイノリティの方が多く、小学校に上がる頃から白人家庭の子供たちと教育格差がついてしまう状況を目の当たりにしていました。
そうしたディスアドバンテージコミュニティと呼ばれるようなコミュニティで起きていたデジタルデバイド※の質的調査に携わってきた経験から、テクノロジーをどのように活用すれば教育格差のような社会課題を解消できるのか、ということに強い関心を持つようになりました。
※デジタルデバイド:教育の分野や家庭でコンピュータを使ったことのある子供たちと、そうでない子供たちの間にできる情報格差のこと。
今やオンラインで授業を受けることも、国を越えて意見を交わしたり国際交流も当たり前にできる時代です。そうしたテクノロジーやメディアを活用することで社会をより良い方向へと変革していく、いわゆる「ソーシャルデザイン」という分野こそ、私が今一番強く関心を持って着目しているテーマになります。
課題の設定
従来のトップダウン型では限界?
個性や才能を活かした取り組みへ。
これまで社会課題を解決したり、より良い社会へと変革するためには、大きな国際機関や先進国が主導して発展途上の国をサポートするというトップダウンでの取り組みがベストとされていました。ですが、社会がグローバル化し、トップダウンでの取り組みでは解決できない複雑な問題が生まれている現状では、ボトムアップによる取り組みが見直されています。
私が考えるソーシャルデザインは、課題解決への取り組みに関わる一人ひとりの個性や才能をどのように活かしてイノベーションへと繋げるかというのが重要で、当然多様性が認められる社会でなければなりません。個人個人が舞台に立つという気持ちで、新しいアイデアを出し合いながら連携する。そんな姿が理想だと考えています。
そのためには教育の分野から一人ひとりの個性を育て、その個性を発揮できるカリキュラムに変えていかなければならないと思いますし、そうした視点から小学生の親子向けのソーシャルデザイン教材を実験的に作る取り組みも始めています。
解決策
個性を磨き、輝かせる
教育開発の分野に力を注ぎたい。
今は私が率先してソーシャルデザインというカリキュラムで学生に教えているわけですけど、ソーシャルデザインにおいて重要なことは、一人のリーダーが引っ張っていくというよりは、自身のアイデアの魅力を他者に伝え共感と賛同を得ていくことだと私自身思っています。そこで本学のカリキュラムにおいても課題解決に向けたデザインと、アイデアの発信と共感を得る方法について学ぶことをします。私の役割はあくまでもアイデアの抽出やコンテンツの開発、テクノロジーやメディアの活用方法を提示することで、学生たちに自発的に学んでもらうスペースを作り出すことです。
特にコンピュータやICTを用いた教育メディアを活用することで、これまで実現できなかった学校の枠を超えた外の世界の人たちとの意見交換や交流が、新しいイノベーションを生み出す可能性を持っていると期待しています。
いつも学生たちに話すのは、まだ世の中の99%の人は知らなくても、体験した自分だからわかるということがあって、もしかするとその経験やアイデアが本当に世界を変えてしまう可能性は0ではない。だから、一人ひとりの経験やアイデアがいかに大切かを知ってほしい。
そして、自分と向き合い、自分は何者で社会のために何ができるのかという気持ちを持ったうえで、自分を大切にして、自分の個性や才能を活かすという発想を身につけてほしいなと思っていますね。紛れもなくその個性は、80億人という多様性の中の可能性を秘めたひとつなのですから。
期待できる効果
一人ひとりがソーシャルデザイナー。
そんな多様な社会がやってくる。
教育から個性が活かせる社会へと変えていく。そうした未来を私は実現していきたいと思っていますが、現実的には時間もかかるでしょうし、持続的な仕組みを構築することは簡単ではありません。でも、そんな状況であっても若い人たちには周囲に流される選択をしてほしくない。自分の生き方を大切にしてほしい。
まずは「自分が幸せになる」ということが大切。自分が幸せでないのに、他人のことを考えたり、助けたりはできないですから。そのためには自分という個性を肯定する。その個性が人からも必要とされていると感じることで、周囲の人や社会を思いやることができる。その先に自分ができる範囲で、自分の生活の中で、やれることってなんだろう?そう思い始めてくれたら、それはもう立派なソーシャルデザイナーなんです。
少し先かもしれませんが、この国の、世界の、一人ひとりがソーシャルデザイナー。そんな多様でハッピーな社会がきっとやってくると思います。
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機械工学の視点
日常的にロボットが
暮らしを補助する。
ヒューマンメカトロニクスで
人に優しい社会へ。
工学部
上野 祐樹 講師
学生時代からロボットを研究。大学4年で出場したロボットコンテストの国内大会で優勝し、国際大会への出場も経験。日本学術振興会特別研究員(DC2)、ドイツ・ミュンヘン工科大学 研究指導委託、豊橋技術科学大学機械工学系 研究員。
issueの着眼点
“ロボコン”で鍛えた発想と技術を、
人に、社会に、役立てられないか?
高校生の時からロボコン(ロボットコンテスト)に向けた競技用のロボット開発を行っていたこともあり、将来はそうした技術を何か人の役に立つところに使いたいと考えていました。大学時代に在籍していた研究室では全方向移動車いすをテーマにした研究が行われており、その経験を活かして現在も大学の研究室で全方向移動車いすの研究を続けています。
その名の通り全方向移動車いすは前後左右への移動が可能で、段差があってもスムーズに乗り越えることができる車いすです。また、パワーアシストと言って車いす自体が押す人の力をサポートし、より軽い力で操作できるようにもなっているんです。
私たちはそうした移動に不可欠な機構などの研究を主に行っているのですが、ロボットが人間を補助する「ヒューマンメカトロニクス」の研究が進むことによって、車いすに限らず、全方向移動ベッドであるとか、さらにはフォークリフトなどへの応用も可能です。そうなれば障害者や健常者といった区別なく、多くの人にさまざまなメリットを提供できるかもしれません。
課題の設定
螺旋階段も昇れる全方向移動
車いす。世界初の技術を、
ロボット工学の最先端競技会へ。
スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zürich)が主催している「サイバスロン」という競技会があります。これは、障害者のための技術開発をメインにした競技会で、私も学生と一緒に「車いす部門」での参加を目指して研究を進めています。実際の競技では、車いすを使う方が普段の生活の中で不便に感じている階段の昇降やドアの開閉、凹凸の激しい路面の走行などが競技課題となっているんです。
こうした競技会だけでなく、展示会や介護施設などで開発中の全方向移動車いすを見ていただく機会があるのですが、その際100%尋ねられるのが「この車いすは階段を昇ることができますか?」というもの。そうした社会の要請に応える意味もあり、階段を安全に昇降できる車いすの開発に取り組んでいます。
現在は、まだミニチュアでの実験ですが、どういう機構なら階段を昇れるのか、あるいは昇れないのかを解析して、昇れる条件がだいぶ明確になってきています。階段といっても段の幅や高さは一定ではありません。そこでどんな階段でも昇れるようにするため、どんな機構が必要なのかを試行錯誤しているわけです。
例えば、螺旋階段のような形状の場合でもさまざま実験を重ねた結果、伸縮可能な機構を搭載し、ステアリングを回転させながら昇ればうまく昇ることができることがわかりました。今のところ螺旋階段を昇れる車いすは、世界でも例がありません。今後はこの機構をよりシンプルにして車いすとして使えるようさらに研究を続けていきたいと考えています。
解決策
動物の運動制御の方法を
モデルにした「衝突回避技術」
の応用で、人にとってより
自然な回避が可能に。
私たちが、このロボット研究で最も大切にしていることは、言うまでもなくロボットが人にどう貢献するかということ。人の振る舞いや特性を踏まえて対応できる技術であることが重要だと考えているわけです。
例えば、今研究を進めている「衝突回避技術」も、その重要性は高いと思っています。特に大きい物を運ぶ場合、周りがまったく見えないような状況も発生します。当然、衝突する可能性が増大するわけです。これをロボット自体が衝突しないように支援する、といった研究も行っています。
鳥が枝に止まる際、対象物までの予測到達時間「あと何秒で枝に到達するか?」を知覚して制御していると言われています。これを再現するような方法で衝突しそうな距離になったら逆方向へ力を加えて衝突を防ぐ、といった研究を行っています。この技術を使うと、例えば車いすをただ真っ直ぐに押しているだけなのに、障害物の前で止まったり、障害物をうまく避けて通る、といったことが可能になります。
この技術の良さは、動物の運動制御の方法をモデルにしていること。このため、人にとっておそらく自然な回避になるだろうと考えているのです。自分が操作しているロボットが周りに影響を与えることなく、衝突を回避したり、止まったりできる。そうした状況を想定し、研究を進めているところです。
期待できる効果
隣にいるのが、人なのか?
ロボットなのか?
それさえも気にならない、
多様性あふれる世界がやってくる?
研究しているさまざまな技術を今後活かしていけるのではないかと考えているのが、人が多い状況、例えば駅の構内などで自動走行するロボットへの応用です。警備ロボットや配膳ロボットなど、人と近いところで動くロボットの運動制御に我々が研究している技術を応用するわけです。
そうすることで私たち人間にとって、さまざまメリットがあるのではないかと考えています。今までは人が周りの状況を安全確認しながら重たいものを運んでいたりしたわけですが、ロボットがそうした作業の多くを代行できるようになるはずです。
ある心理学の先生に私たちのこうした研究を見ていただいたことがあるのですが、その先生が、こんなことをおっしゃっていました。「これは面白いねっ!もう、ロボットがいることに気づかないようになるんじゃないの」と。確かに、おっしゃる通りだなと、改めて思いました。
もちろん、そうなるには人にとってロボットが限りなく自然な存在になることが不可欠なわけですが。街中を歩いている人は、「何かいる」というのは感じても、それが人間なのか?あるいはロボットなのか?を意識することがどんどんなくなっていく。そうなれば障害者も健常者も、そしてロボットも、ごく普通に共存できるような多様性あふれる社会がやってくるのかもしれません。
機械工学を
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