りりこ、17歳。孤高な日常と妄想の交差点~Vol.3~【高校生ノベル】
ーりりこ、高3、12月。
気温と比例するようにクラスの雰囲気も徐々にピリピリと冷たくなっていき、どこか常に緊張感が漂っている。今は12月の半ば、つまりちょうどセンター試験の1ヶ月前だ。
私の第一志望は慶應義塾大学の経済学部だからセンターは必要ないけど、滑り止めのためにセンター利用で何校か出願しておいたほうがいいと言われたから一応受ける。
興味のある分野のゼミがあるから志望校は変えない。その教授の書いた本は、多分一通り読んだ。ランキングとかに振り回されるのはホントにダサイと思う。
そんな感じで今日も10時過ぎに帰宅すると、リビングで大学一年のお兄ちゃんがパパと話をしていた。気になったけど「なになにー?」と割り込むのも話の腰を折ってしまうと思ったので、参考書を読むフリをしてソファでちょっと盗み聞くことにした。兄は、父の出身校と同じ国立大の経済学部の3年生だ。
どうやらお兄ちゃんは、就活がはじまり将来のことについて色々と不安があるようだ。どんな職業につくかということはもちろん、社会保障制度関連についてもこれからのことをイメージできず、漠然とした不安感に頭を悩ませているらしい。なるほど、わかる。
「まあ、でも欲をださずに普通の仕事して、普通に幸せな家庭が築ければいいかな。笑」
でもこの言葉は聞き捨てならなかった。黙っていられず、言ってしまった。
「お兄ちゃんの話今まで聞いてたけど、今の発言なに?なんでそんなに消極的なの?このグローバル化社会の中で貪欲に必死で仕事せずに普通に暮らせるわけないじゃん!」
お兄ちゃんは何も言わなかった。
「グローバル化ってどういうことかわかってる?!雇用がどんどん人件費の安い国に流れていくんだよ?これが、どれだけヤバいことか、受験の時、あんなに勉強してたのにわかんないの??日本でいう“普通”って世界で見たらめっちゃレベル高いのに、世界中の人とそんなハンパな気持ちで戦って“普通”が維持できるわけないじゃん!」
パパがひと言、「りりこ、高校生なのにちゃんと考えてるんだな」と言った。
「当たり前でしょ。だってグローバル化って、就活のライバルが全国の同級生じゃなくて世界中の全世代になるってことだよ?!」
こんなにヒートアップしてしまったのはいつぶりだろう。お兄ちゃんも自分なりの考えがあるらしく色々と言い返してきて、半ば喧嘩になった。友達でも、兄弟でも、同じレベルで会話できないともどかしい。まして、兄には私よりももっと高いレベルの考えでいて欲しい。
すると、しばらく黙っていたパパがいきなり笑い出して「二人とも喧嘩の内容のレベルが上がったな」なんて言うもんだから、調子くるちゃって私は黙って部屋に行った。
この一件はあったものの、最近は全体的に調子がいい。小論文対策のため、代々木にある超少人数制の対策塾にも11月から通い始めたのだが、ここがとても楽しい。もともと小論文は好きだったし、とにかく先生がすごい。宮城島先生、26歳。若いけど、プロだ。小論文のプロ。
しかも先生も帰国で、学生時代は私と性格が似ていたらしく、学習面でも生活面でも的確なアドバイスをくれる。先生も含めて、同じクラスのみんな全員がはいっているLINEグループがある。同じレベルで話せる友達も出来たし、同じ志を持ってるもの同士でいると、少なからず刺激を受けるから自分の成長も実感できる。それゆえ時々不安になる事ももちろんあるけどね。
何もかもが充実してて順調に受験に向かってるように見えた。
(~Vol.4~につづく)
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大学生ライター
あぐり
アメリカの大学に9月から入学する新大学1年生。着物や歌舞伎などの日本の伝統文化とサブカルチャーが大好き。多趣味でハマったらどっぷりハマる性格なので本当に色んなジャンルの「オタク」界隈を通り抜けてきました。