大鏡『面を踏む』を スタディサプリ講師がわかりやすく解説!現代語訳あり

『大鏡』は、藤原道長の栄華を中心に描かれた歴史物語。

平安時代の歴史上の人物が登場するので、歴史の授業にも出てくる有名な話も多い。

そこで今回は、スタディサプリの古文・漢文講師 岡本梨奈先生に、『大鏡』の中から『面を踏む』について解説してもらった。
【今回教えてくれたのは…】
枕草子『中納言参り給ひて(ちゅうなごんまいりたまひて)』を スタディサプリ講師がわかりやすく解説&現代語訳!
岡本梨奈先生
古文・漢文講師
スタディサプリの古文・漢文すべての講座を担当。
自身が受験時代に、それまで苦手だった古文を克服して一番の得点源の科目に変えられたからこそ伝えられる「わかりやすい解説」で、全国から感動・感謝の声が続出。
著書に『岡本梨奈の1冊読むだけで古文の読み方&解き方が面白いほど身につく本』『岡本梨奈の1冊読むだけで漢文の読み方&解き方が面白いほど身につく本』『古文ポラリス[1基礎レベル][2標準レベル]』(以上、KADOKAWA)、『古文単語キャラ図鑑』(新星出版社)などがある。

『大鏡』とは?

『大鏡』は、平安時代後期に成立した歴史物語で、作者不詳。

人物中心に描かれている「紀伝体」で書かれています。

歴史書には、その他に年月順に描かれる「編年体」もあります。

藤原道長の栄華を中心に書かれていますが、批判精神もあるのが特徴。

同時期の作品である『栄華物語』は、藤原道長を絶賛する内容しか書かれていないのが、『大鏡』との大きな違いです。

190歳の大宅世継(おおやけのよつぎ)と180歳の夏山繁樹(なつやまのしげき)と若侍の3人で会話をして話を進めていく会話形式。

作者は傍らでその会話を聞きながら書きとめているというスタイルになっています。

1分でわかる! 大鏡『面を踏む』ってどんな話?

大鏡『面を踏む』を スタディサプリ講師がわかりやすく解説!現代語訳あり
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【解説】
漢詩・和歌・音楽の3つの才能の持ち主である藤原公任のことを、兼家が「どうしてあんなにすばらしいのか」とうらやましがり、自分の子どもたちは公任の影さえ踏めないと残念がっていました。

それを聞いた兼家の長男・道隆と第三子・道兼は、恥ずかしくて何も言えませんでした。

しかし、第五子・道長は、とても若い身で「公任の影を踏まないで、顔を踏みつけてやる」と言ったのです。

実際、その通りになり、公任は、道長どころか、自分の娘婿になった道長の子・教通でさえも近くで見ることができないほど、道長の位が高くなってしまいました。

大鏡『面を踏む』の登場人物は?

大鏡『面を踏む』を スタディサプリ講師がわかりやすく解説!現代語訳あり

●四条大納言…藤原公任(きんとう)。「三船の才」(漢詩・和歌・音楽の才能)の持ち主。

●大入道殿…藤原兼家。

●中の関白殿…藤原道隆。藤原兼家の長男で、藤原道長の兄。

●粟田殿…藤原道兼。藤原兼家の第三子で、藤原道長の兄。

●入道殿…藤原道長。藤原兼家の第五子で、藤原道隆・道兼の弟。

●内大臣殿…藤原教通(のりみち)。藤原道長の子。藤原公任の娘の婿。

大鏡『面を踏む』の原文&現代語訳を読んでみよう。

四条の大納言のかく何事も優れ、めでたくおはしますを、
四条大納言〔=藤原公任〕が、このように何事も優れ、すばらしくいらっしゃるのを、
大入道殿、「いかでか、かからむ。うらやましくもあるかな。
大入道殿〔=兼家〕が、「どうして、あんなに優れているのだろう。うらやましいことだ。
わが子どもの、影だに踏むべくもあらぬこそ、口惜しけれ。」と申させたまひければ、
私の子どもたちが、(大納言の)影さえ踏むことができないのが、残念だ。」と申し上げなさったので、
中の関白殿・粟田殿などは、げにさもとや思すらむと、
中の関白殿〔=道隆〕・粟田殿〔=道兼〕などは、本当に(父は)そう思っていらっしゃるのだろうと、
恥づかしげなる気色にて、ものものたまはぬに、
恥ずかしそうな様子で、何もおっしゃらないが、
この入道殿は、いと若くおはします御身にて、
この入道殿〔=道長〕は、とても若くいらっしゃる身で、
影をば踏まで面をや踏まぬ。」とこそ仰せられけれ。
「影を踏まないで、顔を踏みつけてやる。」とおっしゃった。
まことにこそさおはしますめれ。
(今では)本当にその通りになっていらっしゃるようだ。
内大臣殿をだに、近くてえ見たてまつりたまはぬよ。
(公任は)内大臣殿〔=道長の子の教通。公任の娘婿〕をさえ、近くで見申し上げることもできなさらないことよ。
/『大鏡』より

大鏡『面を踏む』のポイントをチェック!

Point1:めでたく=すばらしく

「めでたし」は重要単語です。

現代文では、おめでたいというイメージがありますが、古文では、①すばらしい ②心ひかれる という意味の形容詞です。

Point2:いかでか、かからむ。=どうして、あんなに優れているのだろう。

「いかで」もしくは「いかでか」は、そのあとに推量と一緒に使っていれば、疑問か反語になります。

ただし、意志や願望と一緒に使っている場合は、「なんとかして」「どうにかして」と訳し方が変わる、とても大事な副詞です。

ここでは「かからむ」の「む」が、推量・意志・勧誘・仮定・婉曲・適当の6つの意味がある助動詞で(「すいかかえて」と覚えましょう)、推量なら「いかでか」は疑問か反語、意志なら「なんとかして」と訳すため、3種類のパターンを考え、文脈に当てはめて判断しなくてはいけません。

「かから」は「このようだ」と訳し、四条大納言が何ごとにも優れていることを指します。

これを当てはめてみると、疑問は「どうしてこんなにすばらしいのだろうか」ですね。

反語だと「どうしてこんなにすばらしいのか、いや、すばらしくない」となってしまうため、反語ではないことがわかります。

意志なら「なんとかしてこんなふうにすばらしくなりたい」となります。

疑問か意志は、そのあとの「うらやましいことだ」とも意味がつながるので、どちらかだと考えられます。

さらに読んでいくと、「我が子たちが四条大納言の影さえ踏めない【=近づくことすらできない】のが残念だ」と言っており、自分がそうなりたいとは言っていません。

よって、「いかでか」は意志ではなく疑問だと判断して、「いかでか、かからむ」は「どうして、あんなに優れているのだろう」と訳します。

Point3:だに=さえ

副助詞「だに」は重要です。

この「だに」は「さえ」と訳します。

Point4:踏むべくもあらぬ=踏むことができない

「あら」という未然形に付いている「ぬ」は打消の助動詞です。

打消と一緒に使っている「べく」は可能の助動詞になりやすく、ここでは「踏むことができない」と訳します。

Point5:口惜しけれ=残念だ

「口惜しけれ」は形容詞「口惜し」の已然形です。

「口惜し(くちをし)」は重要単語です。

「惜し」という漢字に注目して、惜しいとどんな気持ちになるか、①残念だ と覚えましょう。

そのほかに、②つまらない ③卑しい という意味もあります。

Point6:げに=実際に

「げに」は重要単語です。

①実際に・なるほど ②本当に・いかにも と訳します。

漢字で書くと【実に】なので、漢字を覚えておけば意味がわかりやすいですね。

Point7:恥づかしげなる=恥ずかしそうな

「恥づかしげなる」は形容詞「恥づかし」が形容動詞化したものの連体形です。

「恥づかし」という形容詞は、「こっちが恥ずかしくなるくらい相手が立派だ」と訳すプラスの意味で古文には多く出てきます。

一方で、現代文の「恥ずかしい」と同じマイナスの意味で使う場合もあります。

ここでは、中の関白殿と粟田殿が四条大納言に近づくことすらできないと父親に言われて恥ずかしく思った、つまりマイナスの意味で訳します。

Point8:気色=様子

「気色(けしき)」は重要単語です。

正しくは「けしき」と読みますが、「きしょく」と読んで「気色悪い」と連想すれば、「様子がおかしい」「様子が悪い」とつながっていくので、「気色=様子」という意味が覚えやすくなります。

①様子 ②意向 ③機嫌 といった意味がありますが、まずは「様子」と訳すことをしっかり覚えておきましょう。

また、平仮名で「けしき」と出てきたとき、「風景」と考えないように気をつけましょう。

Point9:影をば踏まで=影を踏まないで

助詞「をば」と出てきたら「ば」は取って訳します。

「踏ま」は未然形です。

未然形に付いている「で」は「~ないで」という意味の打消の接続助詞です。

打消の意味が入っていることを見逃すと、まったく逆の意味になってしまうので気をつけましょう。

Point10:面をや踏まぬ=顔を踏みつけてやる

「や」は疑問か反語です。

「踏まぬ」の「ぬ」は打消の助動詞です。

疑問で訳してみると、「影を踏まないで、顔を踏まないですか?」となり、ここでは意味が通じません。

反語だと、「影を踏まないで、顔を踏まないだろうか、いや、顔を踏んでやる」となり意味が通じるので、文脈から「や」は反語と判断します。


取材・文/やまだ みちこ 監修/岡本 梨奈 イラスト/カワモト トモカ 構成/黒川 安弥


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