古文単語「いたづらなり/徒なり」(形容動詞ナリ活用)の意味と覚え方を解説!

むなしい、暇であることを意味する「いたづらなり」。

「徒なり」と書き、この漢字のニュアンスは、『徒然草』の「徒然なるままに、日暮らし、硯にむかひて」の「徒然なり」でもおなじみだ。

『徒然草』の「徒然なり」は「暇」の意味で使われているが、「徒然なり」はほかにどのような用法があるのだろう。

実際の古文を読みながら、雰囲気を読み解いていこう。
解説してくれるのは 吉田裕子先生

古文単語「いたづらなり/徒らなり」(形容動詞ナリ活用)の意味と覚え方を解説
国語講師。大学受験Gnoble(グノーブル)で現代文・古文・漢文を指導。

東大をはじめとする難関大学に多数の合格者を輩出している。
カルチャースクールや公民館などでも教えており、6歳から90歳まで幅広い層から支持される。

東京大学教養学部卒業。塾講師や学校の教員として教えながら、慶應義塾大学文学部を卒業、放送大学大学院を修了するなど、自身も学び続けている。
著書に、『東大生の超勉強法』(枻出版社)、『イラストでわかる超訳百人一首』(KADOKAWA)、『10分読書』(集英社) など。

「いたづらなり/徒なり」は形容動詞・ナリ活用

「いたづらなり」はナリ活用の形容動詞で、語幹は「いたづら。」活用形は以下のとおり。活用語尾だけでいうと、「なら/なり・に/なり/なる/なれ/なれ」で、原則としてラ変動詞に近い活用をする。

未然形 いたづらなら
連用形 いたづらなり いたづらに
終止形 いたづらなり
連体形 いたづらなる
已然形 いたづらなれ
命令形 いたづらなれ

「いたづら」を漢字で表すと『徒然草』の「徒」。

基本的な意味は、用もなくむなしい感じを指す。

「徒労」にも使われていることもあり、漢字の意味を展開して考えると覚えやすいだろう。

類義語としては、「徒(ただ)なり」「徒(あだ)なり」があり、どちらも「むなしい」「何もない」を表現している。

意味1:役に立たない、無駄である

古文単語「いたづらなり/徒らなり」(形容動詞ナリ活用)の意味と覚え方を解説!
役に立たないこと、無駄であることの意味をもつ。

むなしい、はかないという意味ももち、これは役に立たず無駄であることの延長線にあるむなしさ、はかなさだ。

だた「無駄であること」ではなく、役に立たないことへの感傷をふくんでひとつの意味になっている。
【例文】
花の色はうつりにけりないたづらに
(百人一首、小野小町)

【現代語訳】
花の色は色あせてしまったのだなぁ、無駄なことに
見る人もいない間に散って色あせてしまったという感傷を歌っている。
【例文】
わが宿の花橘はいたづらに散りか過ぐらむ見る人なしに
万葉集、なかとみの

【現代語訳】
私の家の花橘はむなしく散り過ぎているのだろうか。
これも、見る人がいないむなしさを歌っている。

意味2:することがない、暇である

古文単語「いたづらなり/徒らなり」(形容動詞ナリ活用)の意味と覚え方を解説!
類義語は「徒然なり」。

「徒然草」の冒頭と同じ「暇であること」の意味だ。
【例文】
いたづらに暇ありげなる博士ども召し集めて
(源氏物語「賢木」)

【現代語訳】
することがなく、暇のありそうな博士などを呼び集めなさって

意味3:場所が空いている様、何もない

人間を対象にする場合は「することがない」という意味になるが、対象が場所である場合は「空いている」「空っぽ」という意味になる。

古文では、人間と物をはっきり区別しないで言葉を当てはめることが多く、場所に対しても「空いている」→「役に立っていない」と転じて「いたづらに」を使う。
【例文】
南の町には、いたづらなる対どもなどなし。
(源氏物語「玉鬘」)

【現代語訳】
南の町には、空いている部屋などもない。

イディオムの形は「いたづらになる=死ぬ」

【from吉田先生】

「いたづらになる」の直訳は「むなしい状態になる」こと。

これが転じると悲しい状態になる=「死」を現すイディオムとなります。

日本人は、縁起が悪いことはストレートに言葉で表現することを避ける傾向にあります。

古文の世界でも同じ。

「死ぬ」という言葉を避けるため、遠まわしに死を表現しているのです。

同じように「死ぬ」を表現する単語として、「空しくなる」「はかなくなる「言ふ甲斐なくなる」「あさましくなる」「失す」「絶ゆ」「身罷(みまか)る」があります。

現代語「徒に」は意味が違うの?

無駄であるという意味が基本

古文単語「いたづらなり/徒らなり」(形容動詞ナリ活用)の意味と覚え方を解説!
現代語では仮名遣いがの「いたずらに」になる。これは無駄であるという意味であり、基本は古文がもつ意味とほぼ同じだ。

もっとも、「いたずらに」という語は最近の口語では使われなくなっている。

しかし、大学入学共通テストにもこのような古い現代語の意味を問う問題が出題されることもあるので、覚えておこう。

なお、現代語の「いたずら(悪戯)」の語源は、この「徒」である。

「意味もない無駄なことで遊ぶ」という意味が転じた形だ。
【例文】
いたずらに時を過ごす。

いたずらに入金を引き延ばされ、結局キャンセルされた。 

練習問題をやってみよう!

【問題】活用形と意味を答えよう。

仏に奉るものはいたづらにならず(うつほ物語)

────────────────────────

【回答】
連用形、無駄に
文章の意味:仏に献上するものは、無駄にならない。

吉田先生からのメッセージ

【from吉田先生】 

古文単語は漢字に直しひとつの意味から展開させていくと、効率よく意味の理解が進みます。

試験場での悪あがきにもつながりますので、一つひとつの意味を丸暗記するのではなく、展開する癖をつけておきましょう!
現代語でも使われている「いたづらに」は、『徒然草』の「徒」の漢字で覚えると意味を展開しやすいだろう。

「無駄に」と訳してしまうのだが、「無駄に」を暗記するだけだと、実利的なニュアンスが強調されがちだ。

「いたずらに」は目的もなく利益もない、むなしい印象を意味する。

古文を訳すときは、そんなむなしさのニュアンスを表現したい。


参考文献:小学館『新編 日本古典文学全集』(古文は意味を理解しやすいように漢字表記に改めるなどした部分がある)
取材・文/櫻庭由紀子 監修・古文訳/吉田裕子 デザイン/ロンディーネ 構成/寺崎彩乃(本誌)


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