理科でWBCを楽しむ、なぜカーブは曲がるのか?
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が盛り上がってきた。手に汗握りながら観戦している人も多いだろう。
ところで、野球には何種類もの変化球があるが、なぜカーブが曲がるのか? なぜフォークは落ちるのか?…そのしくみがわかれば、もっと野球を楽しめる!?
そこで、理科のおもしろさの伝道師、なべ先生こと市立函館高校の渡辺儀輝先生に、変化球のしくみを教えてもらった。
Q.右投げならば左下に曲がる「カーブ」や「スライダー」。なぜこのように曲がるのですか?
A.カーブやスライダーは、ボールに回転を加えることによって、その回転方向にボールが曲がる変化球です。例えば、下の図のような左方向へ投球した場合を見てみましょう。
空気の流れはボールに沿って曲がっていますが、ボール表面の摩擦の影響から、図のケースでは上の面の流れが下の面よりも速くなります。すると、上の面のボールに対する圧力が小さくなることで上向きの力を受け、球筋が曲がるのです。このはたらきを「マグヌス効果」といいます。実際の投球では重力も作用するため、斜め下に落ちたりしますね。
ボールの回転方向が違えば、曲がり方も違ってきます。それで、さまざまな種類の変化球になるのです。
Q.なるほど、ボールの回転がポイントなのですね! でも、まっすぐ飛んできたボールが急にストンと落ちる「フォークボール」などは、ボールを回転させないように投げますよね。なぜ無回転なのに変化するのですか?
A.無回転で投げられるボールは、ボールの後ろに不規則な渦ができ、その影響で不安定な動きをします。フォークの投げ方をすると、この後方の渦の影響による失速が大きく、打者の手前で落ちる投球が可能になるのです。
回転がなければないほど急激にボールが落ち、バッターは打ちにくくなります。空振りを誘うには、バッター手前のちょうどいい場所で落ちないと意味がありませんので、速度との釣り合いを考えて練習を積む必要があるでしょう。
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回転によって発生するマグヌス効果は、バッティングにも生かされているという。
「ホームランバッターには、打ち上げるようなスイングではなく、やや下向きにバットを振り抜くダウンスイングが多く見られますね。ダウンスイングで球に回転をかけることで、打撃の力にマグヌス効果による上向きの力が加わり、グングン上昇してホームランになりやすいのです」(なべ先生)
理科がわかると野球までうまくなりそう!? 野球はみるだけという人も、次のWBCの試合はピッチャーの手元やバットの動きに注目してみてはいかがだろうか。
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【なべ先生】
北海道 市立函館高等学校 物理教諭 渡辺儀輝
函館市内のFM番組で科学ニュース、ケーブルテレビで実験ショー、新聞で科学の解説などなど、函館市民に科学の楽しさを伝える活動を長年継続中。「すべての子どもたち、大人たちが理科好きになってほしい」と願っている。