杏教授が重視するのは「五感で考える建築」。学生に向けては「失敗を恐れるな。失敗から学べ」「十年計画をたてる。そこで今必要なことは?」「美しいものを造れ。最高のものを知れ」という言葉を繰り返す。
「1/1429」は22歳の女性がダウン症の子供を出産する確率。卒業設計のテーマに彼女はダウン症の子供たちが描くアール・イマキュレ(無垢な芸術)を選んだ。アトリエに何度も通い、ダウン症の子供たちとふれあい、オーナーと何度も話し合った。卒業設計を通して彼女は設計にとって最も大事なことを学んだ。敷地と向き合うことの大切さと建築が誰かの為の行為であることを。彼女は卒業した後もアトリエを訪問し続けている。
計画地は和歌山県由良町。「南海地震が起きたら」という疑問から町を調査。そこには地震への恐怖だけではなく人口の流出、高齢化などの問題点があった。提案は先ず高台に避難所の機能を持った美術館を建て周囲に町民やアーティストの為の住宅を配置し、インフラを整備し町のコミュニティを形成するというもの。形態はマレーヴィチの絵画をモチーフにし美術館と避難所の機能を挿入した。形態に機能を与えるという逆のやり方で。
計画地は愛媛県八幡市フェリーターミナルを中心とした地域。フェリーターミナルや観光魚市場などの施設建設のために無計画に土地が確保されたことにより海は汚染され生態系が乱れ漁業は低迷した。若者の流出がすすみ、漁師の高齢化により活力が失われ、愛媛県下で唯一の過疎化指定を受けるまでになった。提案は牡蠣の養殖を利用した水質改善と新たな交流施設。デザインモチーフを海図とし、軒を低く抑えた大屋根が特徴的な建築。