「理学療法士」と「作業療法士」ってどこが違うの?
病気やケガ、障がいなどで失われた身体の機能を回復させる「リハビリの専門家」といえば、理学療法士と作業療法士。
足を骨折した後の歩行訓練で励ましている姿や、病気で手足をうまく動かせなくなった人のリハビリをサポートしている病院の先生にあこがれた人もいるだろう。
理学療法士と作業療法士は、いずれも国家資格で、同時に取得することができないため、大学や専門学校へ進学する際、どちらかを選ばなければならない。
仕事内容や活躍できる場は、同じところもあれば、似ているようで異なるところもある。そこで、理学療法士と作業療法士それぞれに、なぜその職業を選んだのか、仕事のやりがいについて、お話を聞いてみた。
理学療法士の場合
医療に携わる仕事をしたくて理学療法士を目指した
まずは、理学療法士になって12年め。
急性期総合病院(急性疾患または重症患者の治療を24時間体制で行う病院)、整形外科クリニックを経て、現在は「K-WORKER 訪問看護リハビリステーション」に勤務する市川 塁さん。
※看護師の母の影響で理学療法士を目指そうと思った市川さん
理学療法士になろうと思ったきっかけは?
でも、医療関係の職業で思いつくのは医師と看護師。
自分の中では、看護師は女性の仕事というイメージがあったし、かといって、医師になるには大学の医学部受験のハードルが高くて…。
大学受験で進路に迷っていたとき、高校の先生に、理学療法士という仕事があることを教えてもらいました。
祖母がヒザの手術後にリハビリを受けていた話も聞いて、「いいかもしれない」と思ったのがきっかけ。
「絶対に理学療法士になりたい!」というよりは、「目指してみようかな」という、ふわっとした気持ちでしたね。
4年制大学の理学療法学科に入学。
大学4年次の2月の国家試験に合格して、理学療法士の国家資格を取得しました。
大学卒業後、急性期総合病院に勤務した市川さん。
どうやって就職したのだろうか?
理学療法士の就職活動は、普通の会社員と同じで、求人情報を見て、病院に直接連絡をして、見学をさせてもらったり、人事担当者や大学のOBに話を聞くという形で進めます。
大学によって異なりますが、自分の大学では、2年次3週間、3年次8週間、4年次8週間、合計3院で病院実習をするので、実習先に就職するケースも多いようです。
長期間、現場を体験すると、ある程度、自分の働く姿がイメージできるし、病院側にも自分のことを知ってもらえますから、就職活動時に話が早いと思います。
※患者と会話をしながら信頼関係を築くのも理学療法士に必要なこと
自分の施術で回復させて、患者によろこばれるのが理学療法士のやりがい
医師の指導のもと、病気やケガ、障がいなどに対して、運動機能回復の訓練をサポートしたり、マッサージや電気療法などの施術を行うのが理学療法士だが、勤務先によって患者の症状が異なり、それによって仕事も変わってくる。
市川さんは、理学療法士になって最初の5年間、急性期総合病院に勤務した。
「急性期」とは、事故などによるケガや急病の直後の段階にあたる。
急性期総合病院では、どんな仕事をしていたのだろうか?
例えば、心臓の手術をした後は、すぐに運動しすぎると負担がかかるし、かといって、運動しないと筋力が落ちてしまうため、血圧を測りながら適度な運動をサポートします。
総合病院なので、さまざまな症例があり、歩行訓練やマッサージはもちろん、肺の手術をした患者さんなら痰を吐く練習など、いろいろ行いました。
医師の診察時間より、理学療法士のリハビリ時間のほうが長いから、話をする機会が多いし、身体に直接ふれてマッサージを行うことで親近感がわきます。
医師には言いにくいことも話してくださるので、ケアに必要な情報を共有するなどの橋渡しもできる。
何より、病気やケガから回復して、「ありがとうございました」と言って退院されていく姿を見るのがうれしいですね。
急性期総合病院での仕事はやりがいがあったものの、違った現場での経験を積みたくて、次は整形外科クリニックに5年間、勤務した市川さん。
整形外科クリニックでは、どんな仕事をしていたのだろうか?
急性期総合病院だと、強い不可をかけられない患者さんが多かったので、状態をよく診ることが大事でしたが、整形外科クリニックは、「とにかく痛みをとってほしい」「ケガをする前と同じように動けるようになりたい」など、求められることが明確。
プレッシャーはあったけど、それに応えられるよう施術することがおもしろかったですね。
どこの病院へ行っても良くならなかった患者さんが、自分の施術で回復すれば、患者さんにとっても、自分にとっても、大きなよろこび。
逆に良くならなかったら自分の力不足だと思うしかないので、もっと勉強しようと、自分の技術と向き合うことができました。
※訪問リハビリでは、ストレッチや硬い部分を伸ばすなど、患者が自力ではできないことを行う
同じ理学療法士といえど、勤務先によって患者の症例はさまざま
さらに、クリニックで患者さんを待っているだけではダメだと思うようになった市川さんは、通院できない人の自宅などへ自分から出向く訪問看護リハビリステーションに転職した。
現在は、どんな仕事をしているのだろうか?
1日あたり6~7軒の自宅へおじゃまして、マッサージやストレッチをしたり、歩行をはじめ、日常生活の動作の練習などを行います。
基本、週1回の訪問なので、普段はご自身でどうトレーニングしていただくか指導したり、次回までの課題を出したり。50代から100歳まで幅広く、加齢が原因の症状から、脳出血などによる後遺症、パーキンソン病などの難病など、さまざまなリハビリをサポートします。
病院では器具を使うこともありましたが、訪問リハビリの場合は手技だけ。
患者さんの悩みを聞き、薬や手術に頼らず、自分の技術だけで痛みや動作の不自由などの症状に直結したケアをできることが、大きなやりがいです。
理学療法士の仕事をしていて、つらいことはなかったのだろうか?
急性期総合病院では、亡くなってしまう人もいました。
もともと重症の患者さんで、自分のせいで亡くなったわけではなくても、もうちょっと何かできたのではないかと悔やんでしまって…。
患者さんの中には、病気やケガを受け入れられなくて気持ちに余裕がなく、繊細な精神状態の人も少なくありません。
クレームを受けやすい立場なので、対応に悩むこともありましたね。
しかし、経験を重ねることで、患者さんに満足していただけるようになり、人の役に立っている、サポートできているというよろこびを感じて、仕事が楽しくなりました。
※理学療法士になってからも研修会や勉強会に参加して手技を磨いていた市川さん
理学療法士の認知度を上げて、活躍の場を広げていきたい
どんな人が理学療法士に向いていると思うか、市川さんに聞いてみた。
例えば、ヒザが痛いと言われたら、ヒザの状態を診るだけでなく、その患者さんの日常生活まで把握して、どこに問題があるか、どうすれば痛みを感じない生活ができるかを考えて、ケアに生かします。
患者さんの話をきちんと聞き、相手に寄り添える人が、理学療法士に向いていると思います。
自分は、理学療法士について何も知らなかったけど、大学で勉強していくうちに楽しいところが見えてきました。
仕事をしながら、やりがいや楽しさをみつけられるのがいいですね。
※まったく同じ症状の患者はいないので、その人に最適な方法を見つけるのも理学療法士の醍醐味
作業療法士の場合
作業療法士は、より深く患者とかかわることができると思った
続いては、作業療法士になって5年め。
急性期病院に勤務する唐木 瞳さん。
※人とかかわって役に立てる仕事をしたくて作業療法士を目指した唐木さん
作業療法士になろうと思ったきっかけは?
高校の進路指導の先生に、リハビリをする仕事があると教えられたのですが、ぼんやりとしかわからなかったので、大学のオープンキャンパスに参加。
説明を聞き、リハビリのスペシャリストには理学療法士と作業療法士がいること、その違いを初めて知りました。
それまで、リハビリの仕事というと、理学療法士がやっている歩行練習や筋力訓練など、身体機能を中心とした訓練のイメージでしたが、作業療法士の紹介ブースに『自助具』という食事や入浴など日常の動作を補助する道具が展示してあり、見たことがない道具に興味をもったんです。
さらに大きな違いは、精神分野のリハビリも行うこと。
作業療法士は、さまざまな視点から、より生活に密着していて、より深く人とかかわることができると思い、大学で作業療法学を専攻することに決めました。
作業療法士を目指そうと決心して4年制大学に入学したものの、進路について悩んでしまった時期もあったという唐木さん。
しかし、作業療法士と理学療法士は、それぞれ学ぶ内容は異なるけれど、重要なことは、自分が目の前の患者さんとどうかかわるかで、その手段として、理学・作業療法があり、それぞれの得意分野をどう生かしていくのかは自分次第であることに気づきました。
そのまま作業療法士の国家資格を目指すことにした唐木さんは、大学4年次の2月の国家試験に合格し、作業療法士の国家資格を取得した。
※患者の生活習慣まで知ってケアに生かすのが作業療法士の仕事のおもしろさ
日常生活で不自由になった動作の改善から精神面までサポートする作業療法士
大学卒業後、急性期病院に就職した唐木さん。
どうやって就職先を決めたのだろうか?
突然、病気やケガで入院してしまった人は、患者さん本人も家族にも、大きな喪失感や戸惑いがあります。
そのような時期にリハビリの時間を通して、徐々に障がいを受け入れていきながら、気持ちが前へ向いていくようなかかわりができればと考えました。
また、リハビリの始まりであるため、すごく責任が大きく、やりがいがある仕事だと思って、急性期病院を選びました。
急性期病院では、作業療法士として、どんな仕事をしているのだろうか?
当院は総合病院ですが、リハビリの対象として多い疾患は、脳血管疾患の患者さんで、そのほかにガンや心臓系疾患の患者さんもいます。
病気やケガによって、何らかの身体機能が障がいされ、日常生活の動作が困難になった患者さんのリハビリを行うのが仕事。
工芸や手芸などの作業を通じて訓練したり、神経が通るようにするための徒手での促通訓練や、機械を使って医師の指導のもと治療することもあります。
また、自助具の提案をはじめ、実際に自宅の様子を聴き取って手すりやベッドなどの福祉用具の提案も行っています。
急性期病院の場合、入院は1カ月くらいで、その後、リハビリテーション病院などに転院するか、自宅へ帰ることになります。
期間と目標が決まっているので、それに向かって、患者さんごとにメニューを作成。
例えば、退院する患者さんなら、洋服を着る練習や浴槽に入る動作の練習など、より自宅をイメージした訓練を行います。
病院内にリハビリ用のキッチンがあるので、患者さんと一緒に料理を作ることもありますよ。
症状だけでなく、回復の進み具合にも個人差があり、ケア内容はいろいろと異なりますが、それを工夫することがおもしろく、やりがいにつながります。
※ただ動作の練習をするだけでなく、作業療法の目的を明確にして患者に伝える
患者が日々回復して、笑顔を見せてくれることが作業療法士のやりがい
唐木さんが作業療法士を選んで良かったと思うことは、どんなところだろうか?
精神面で障がいのある患者さんだけでなく、誰でも病気やケガをすると、心の喪失感にも襲われます。
日常生活が送れるようになっても、気持ちがついていかなければ、本当に回復しているとは言えません。
自分の障がいを受け入れて、気持ちが前向きになるようなかかわりができるのが、作業療法士の強みだと思います。
障がいが重く、歩行をあきらめなければならない患者さんがいたとして、でもその方の望みは「歩きたい」であった場合、歩けない事実を突きつけるより、「この患者さんは歩きたいと言っているけど、何のために歩きたいのかな?」「この方にとって、歩くことによって得られる重要なことは何だろう?」などと、リハビリが終わった後の生活まで、患者さんと一緒に考えていくことができるのがおもしろいですね。
リハビリはチームプレーでもあるので、医師や看護師に協力してもらったり、ソーシャルワーカーやケースワーカーと連携して訪問リハビリにつないだり、家族に日常生活でのサポート方法をアドバイスすることもあります。
患者さんの症状が良くなっていったり、最初はすごく落ち込んでいたのに笑顔を見せてくれるようになったり、日々やりがいを感じています。
急性期病院だと1カ月程度の短い期間しかかかわらないのに、回復した後、「あのときは、ありがとうございました」と会いに来てくださる方もいるんですよ。
※できなかったことができるようになって満足してもらえるのが作業療法士のやりがい
唐木さんが、作業療法士として心がけていることは何だろうか?
まずは信頼関係を築くことが大事。
患者さんが心を閉ざしてしまったら何もできませんから。患者さんの話をじっくり聞いて、自分が意図していることと違っていたら、きちんと説明して、目標を一緒に合わせていきます。このリハビリにはどういう意味があるのかを理解してもらい、二人三脚ができるような状態をつくっていくのです。
患者さんの今後の人生がかかっているという大事な時期のリハビリをまかされる責任感を常に意識しています。
地方の高齢化社会を、作業療法士として支えていきたい
どんな人が作業療法士に向いていると思うか、唐木さんに聞いてみた。
最初は、知識や技術が不十分で悩む時期もあるでしょう。
でも、自分が暗い気持ちでいたら、患者さんは不安になってしまいます。いつも元気よくあいさつをして、コミュニケーションができれば、特別なスキルは必要ないと思います。
私も、まだまだ患者さんとの関係に悩むことはあります。
でも、100人の患者さんがいれば、100通りの人生があり、いろいろな方から、さまざまな話を聞くことができて、勉強になることも多く、毎日が充実していますよ。
作業療法士として日々成長している、という唐木さんの今後の目標は?
今、働いている東京では施設などの環境が整っていますが、地方はまだまだ。
親の介護のために旅行へ行けないとか、老老介護とか、今後の高齢化社会に向けて課題は山積みです。
病気になったり、歩けなくなったら終わり、ではなく、地域のリハビリテーションセンターや福祉関連施設がサポートすることで、プラス思考になってもらいたい。
作業療法士は、もっともっと活躍できる職業だと思うので、自分ができることを考えていきたいですね。
※患者が元気に社会復帰できるよう精神面でもサポートするのが作業療法士の大切な役割
理学療法士・作業療法士になるには
理学療法士は、医師の指導のもと運動をメインに身体機能の回復や日常生活の動作改善のための治療や訓練を行う。
勤務先は、病院やクリニックなどのほか、自宅などに訪問することもある。
作業療法士は、工芸や手芸などの作業技法を行ったり、精神面でもサポートする。
勤務先は、理学療法士と同じ病院やクリニックのほか、精神科病院や障がい者施設なども。
理学療法士・作業療法士の資格取得方法は?
理学療法士と作業療法士は、どちらも国家資格で、まず3年制か4年制の養成校(大学・短大・専門学校)で学び、国家試験の受験資格を得ることが必要。
そのうえで、年1回、例年2月下旬から3月上旬に実施される理学療法士国家試験または作業療法士国家試験に合格すると、国家資格を取得できる。
3年制と4年制のどちらの養成校でも、取得できる国家資格は同じ。
短期間で資格を取得したいなら、3年制の短大や専門学校。4年制の大学や専門学校は、じっくり時間をかけて知識を習得したい人におすすめ。
大学・短大・専門学校を受験するときに、理学療法士・作業療法士どちらを目指すか決める
大学・短大・専門学校いずれでも、理学療法士と作業療法士はカリキュラムが異なり、卒業しても、どちらか一方の国家試験受験資格しか得られないため、同時に目指すことはできない。
オープンキャンパスなどで先生や先輩の話を聞いたり、どんなことを学ぶのか、就職先や仕事内容の違いをしっかりと調べて、自分に向いていると思えるほうを選ぼう。
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