快適な生活環境を守る「ニオイ」のプロ! 臭気判定士のお仕事
実はいろいろある“環境汚染を調査する仕事"
“環境を守る"仕事に関心がある高校生は多いはず。
ただ、具体的にどんな職種があるのかと聞かれると、なかなかイメージしづらいのでは?なかでも環境汚染を調査する仕事は、高校生が直接触れる機会が少ないこともあってあまり詳しく知られていない。
しかし、資格や専門知識を生かしてさまざまなスペシャリストが活躍しているのだ。
その一つが「ニオイ」を調査・分析する臭気判定士(国家資格)。
「そんな資格があるとは知らなかった!」という人も多いのでは?
では、資格試験の実施にあたっての環境省指定機関である公益社団法人におい・かおり環境協会に気になる仕事の中身を聞いてみよう。
人の嗅覚を使って身近に発生する悪臭を測定
「工場などから出るアンモニアや硫化水素などの法律で指定された悪臭物質に関しては、環境計量士という専門家が機器を使って測定します。しかし、最近は、例えば飲食店などから出るニオイが問題になることも増えてきました。そのような場合、原因となる物質が特定できないので、人間の嗅覚を使って測定する方法が用いられます。その専門家が臭気判定士なのです」
自治体に悪臭に関する苦情が寄せられ測定が必要になると、環境分析会社に調査の依頼が来る。
そこで、所属する臭気判定士が現場に駆けつけ、対象となるニオイを採取して分析し、臭気指数を割り出す。
その数値が自治体の定める規制基準を超えていれば、自治体からニオイを出している施設や飲食店に改善の指導が行われる。
実はこのようにして私たちの生活環境は悪臭から守られているのだ。
なるほど、大事な仕事だ。ということは、臭気判定士には特別鋭い嗅覚が求められるのかと思いきや…
特別鋭い嗅覚は必要ないが鼻は大切な商売道具
「いえいえ、ごく普通の嗅覚があれば十分です。そもそもこの嗅覚測定法は臭気判定士自身の嗅覚で判定するのではなく、環境分析会社の社員や一般の人などから選ばれた6人の『パネル』と呼ばれる人たちが判定する仕組み。悪臭が含まれる空気を薄めてそのニオイを嗅いでもらい、各パネルについて何倍の濃度まで認識できるかを調べていくのです」
その調査・分析のプロセスを管理するのが臭気判定士というわけだ。
しかし、現場のニオイを採取する際には臭気判定士自身の嗅覚で判断するので、鼻はやはり大切な商売道具。
測定前は刺激の強い食事は避けるそう。
また、現場の悪臭で鼻が利かなくなることもあり、そんなときはハンカチや自分の脇の下(!)のニオイなど測定対象とは異なるニオイを嗅いで嗅覚をリセットすることもあるのだとか。
「臭気指数だけではどんな悪臭なのかが伝わらないので、ニオイをわかりやすい言葉で表現する力も大切です。例えば、『バスの排気ガスのようなニオイ』『風呂の排水溝のようなニオイ』など身近なものにたとえて表すことが多いですね」
工場や食品メーカーなどで活躍する例も
ニオイに関する唯一の国家資格なので、活躍の場は環境分析会社以外にも。工場で悪臭の管理を担当したり、脱臭装置メーカーで製品の効果を測定したり、食品メーカーや香料メーカーで商品のフレーバーをチェックしたりといった働き方もある。
国家試験(筆記試験と嗅覚検査)は18歳以上なら誰でも受験できるが、大学では環境系、化学系の学部・学科で学んでおくと、実験・分析の手法や化学物質に関する知識が身につくので、資格試験にもその後の仕事にも役立つ。
ちなみに大同大学(愛知県)の情報学部総合情報学科には、臭気測定も含めて「におい・かおり」について専門的に学べる「かおりデザイン専攻」がある。
「ニオイと記憶との関係など、嗅覚は五感の中でもまだまだ未知なところが多いんです。だから臭気判定士には日々の仕事を通して新しい発見がいろいろとあり、探求のしがいもある。そんな点もこの仕事の魅力の一つですね」