
植物の成長に欠かせない三大栄養素の窒素・リン・カリウム。リンは化学肥料に不可欠な物質でありながら、日本国内では天然資源がなく、その全量を輸入に頼っています。さらに、世界の人口増加を考慮すると約100年後には枯渇の懸念も。しかし、下水汚泥には多くのリンが含まれ、効率的に回収できれば国内で資源を確保し、循環型社会の実現にも貢献できるのです。私は研究の結果、下水汚泥灰から重金属を除去しつつ95%以上のリンを回収し、さらにその85%を肥料化する技術を確立。国内では年間約2000万トンの下水汚泥が発生し、焼却処理により約30万トンの下水汚泥灰が生成されます。そのリン含有率は約30%であり、理論上は約9万トンのリンを回収可能です。本技術の実装により、現在輸入に依存しているリンの30%を賄うことを目指しています。

リンの循環システムの構築は農業だけでなく、工業にも大きく貢献する技術です
下水汚泥から高効率でリンを回収する技術を追求する金特任教授。その社会実装と並行して取り組むのが「海の肥料」です。現在、「海の砂漠化」と呼ばれる海藻の減少が進み、魚貝類の漁獲量も減少し、漁業で生計を立てる方が困っていると言います。貧栄養化が進む海で、回収したリンから新しく開発した肥料で栄養補給することで海藻を育て、「海の砂漠化」と「ブルーカーボン=二酸化炭素の固定」の問題を同時に解決するのに役に立つのが「海の肥料」です。研究室では、リンを使用して環境問題を解決する取り組みを積極的に行っています。

現在は産学官で協定を結び、神奈川県平塚市の漁港をフィールドに、海の肥料を使った実証実験と効果を検証中
研究は“世界初”や“世界最先端”といった価値に目が向きがちですが、“社会に役立つ”という視点も大切です。特に環境問題に関してはその重要性が一層高まり、非常にやりがいのある分野だと感じています。

最先端化学の技術開発から環境分野へ舞台を移し、より確かな技術の確立を目指す
もともとは半導体製造に必要な技術を学ぶため、20代後半で韓国から日本へ留学。東京大学の助手を経て、豊橋技術科学大学エコロジー工学系の准教授に。機械・化学・電気電子・生物・衛生工学など、多彩な分野の研究者と交流を深め、循環型社会の新たな仕組みを構築したいという考えが芽生える。2010年、新潟大学への着任を機に、リンの研究に取り組み始める。
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