きっかけは『スターウォーズ』元宇宙少年が目指す月面探査機開発

■「スターウォーズのような宇宙船が飛び交う世界を実現したい」
 
愛読書はマンガ『宇宙兄弟』。新型ロケット「イプシロン」打ち上げにドキドキし、日食や流星群などの天体ショーは興奮しながら観測――そんな“宇宙少年少女”の高校生も多いだろう。

 

でも、宇宙飛行士への道は超難関だし、「自分の将来とは無関係」と思っていないだろうか。

 

ここで、夢を追い続けている一人の“元・宇宙少年”を紹介したい。

 

Googleによる国際的な宇宙開発レース「Google Lunar XPRIZE」(賞金総額3000万ドル)のために結成された民間チーム、「ハクト」の代表を務める袴田武史さんだ。約40人のチームメンバーとともに、月面無人探査機の開発に取り組んでいる。

 

「ハクト」の代表を務める袴田武史さん

 

袴田代表は、小学生のころに映画『スターウォーズ』を観て以来の“宇宙少年”。心の中にずっと宇宙のことがあり、大学と大学院で宇宙工学を専攻した。しかし、就職したのは宇宙とは無関係の経営コンサルタント会社だった。

 

「子どものころは『宇宙船を作りたい』と思っていたのですが、だんだん宇宙船製作というピンポイントではなく、『スターウォーズに出てくるような宇宙船が飛び交う世界を実現したい』という、もっと大きな枠組みの夢を思い描くようになりました。そして、宇宙船を作りたいエンジニアはたくさんいるので、自分はそうしたエンジニアが活躍できるフィールドを作る側になろうと考え、経営や資金調達を学べる仕事に就いたのです」(袴田代表)

 

コンサルティング会社で数年経験を積んでいるところに、ヨーロッパで発足した「ハクト」の前身となるチームから声がかかり、「予定よりずっと早い時期だった」というが、袴田さんは参加を決意。現在は、コンサルティング会社を辞めて、このプロジェクトに専念している。

 
 

■自動車のエンジニアや映像ディレクターも宇宙開発
 
袴田代表が思い切って「ハクト」に専念することを決意した理由の1つは、宇宙開発が今、一部の特殊な専門家だけのものではなくなりつつある兆しを感じたからだ。

 

「2010年、アメリカのオバマ大統領は、今後NASAは地球近郊の宇宙開発を民間に委託する方針を発表しました。さらに、宇宙開発コストの低下や、他業界で成功した多様な人材が宇宙事業への流入などにより、欧米を中心に宇宙開発は国家主体から民間へ市場開放する動きが進んでいるのです」

 

「ハクト」が取り組む「Google Lunar XPRIZE」は、民間の宇宙開発を加速させ、宇宙産業の拡大などを目的としたもの。レースでは、2015年12月31日までに月面に純民間開発の無人探査機を着陸させ、着陸地点から500m走行し、指定された高解像度の動画や静止画データを地球に送信することを競う。世界10カ国22チームが競うなか、日本からは「ハクト」が唯一参加している。(下写真は「ハクト」が開発した最新の探査機)

 

ローバー

 

このチームがユニークなのは、宇宙開発の専門家だけの集団ではないことだ。もちろん、小惑星探査機「はやぶさ」など数々の宇宙ロボットの開発に携わる東北大学大学院工学研究科吉田和哉教授をはじめ、宇宙開発の専門家もいる。

 

一方で、開発は自動車メーカーのエンジニアやシステムエンジニア、プロモーションは映像ディレクターやライター、運営は弁護士や経営コンサルタントが担うという具合に、それぞれが専門性を生かして活動している。

 

“元宇宙少年・少女”が口コミやWebを通じて集結。多くは別の仕事をもちながら、平日夜や週末に「ハクト」の活動を行っているのだ。

 

すでにいくつかの試作品を製作。今後も挑戦のプロセスをインターネット等で開放し、さまざまな公開実験も行っていくという。

 

試作品製作

 

「夢の実現の形は1つではありません。例えば、『宇宙飛行士になる』という道は非常に狭いものです。しかし、宇宙飛行士にならなくても、宇宙へのかかわり方はさまざまです。『○○に関するこういう世界を実現する』『○○でこういうワクワクを感じたい』といった夢のもち方をすると、選択肢が広がって、実現の可能性は高まるはず。高校生の皆さんは、1つの狭い職業に縛られずに夢を描いてみてはいかがでしょうか」(袴田代表)