「意思」「意志」の違いは?意味、使い分け、例文までスタディサプリ講師がわかりやすく解説!

何となく雰囲気で使ってしまいがちな同訓異字。

しかし、一つの漢字で意味合いが大きく違ってくることもあり注意が必要だ。

今回の使い分け解説は、「意思」と「意志」。

「意思」は「考えや思いのそのもの」を指すのに対し、「意志」は「考えを行動に移すか移さないか」という積極性が見える。

この意味の違いは「思」と「志」の漢字の意味の違いにある。
 
ポイントとなる「思」と「志」の成り立ちを含めて、詳しくみていこう。

解説してくれるのは
スタディサプリ高校講座の現代文講師 小柴大輔先生


Z会東大進学教室で講師を務めるほか、ロースクール(法科大学院)や司法試験受験の予備校においても一般教養小論文を指導している。

感覚ではなく論理的に答えを導く指導に定評があり、「現代文に対するイメージが変わった」と受験生から圧倒的な支持を集めている。

スタディサプリでは、現代文のほか、小論文や総合型選抜・学校推薦型選抜対策講座を担当。

「意思」「意志」の意味と違いは?

「意思」「意志」の違いは?意味、使い分け、例文までスタディサプリ講師がわかりやすく解説!

「意思」は気持ち、「意志」は意欲

「意思」とは「何かをしようとするときの元となる心持ち」という意味である。

一方「意志」とは「ある物事を成し遂げようとする積極的な意欲」という意味をもつ。

「意思」には頭のなかで考えていることであれば、ぼんやりしたものもから、クリアな思考まで含む。

通常のコミュニケーションの中で思いを伝える場合は、こちらの用法が多いかもしれない。

「意志」は、ふっと浮かぶ思考や気持ちよりも、対象へより矢印が向いている様子を指す。

行動に移そうという志向がより強いといえる。まさに「志」をもつ場合に使う単語だ。

「意思」とは「そうしたいと思う気持ち」

意思とはそうしたいと思う気持ち

「意思」は頭の中に考えがぼんやりと浮かんでいる状態、または「~したい」と感じている状態を示す。

「思」の文字は、「田」と「心」で作られる。

この「田」は脳の中という意味だ。

行動以前に、脳の中に考えが浮かんでいる状態を「思」という。

【例文】

お互いに意思疎通が取れていないために仕事が滞る。

何らかの意思表示をする。

次の試合で「勝とう」という意思はもっている。

「意志」は何か特定の対象に向かう意欲

「意志」とは「積極的ではっきりとした意向」をいう。

「志」の漢字は、「士」と「心」で作られる。

「士」は「之」の簡略化で「足跡」のかたちを示す。

足で対象へ向かっていることを表し、つまり方向性があるということだ。

したがって、「意思」よりも積極的であり、行動に移そうという意欲があるといえるだろう。

【例文】

意志が弱いためにダイエットがうまくいかない。

手術をするかしないか、本人の意志を伝える。

優勝するという強い意志をもち試合に挑む。
【from小柴先生】

法律用語、医療用語としての「いし」
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法律が関係する場面での「いし」は、「意思」を使用します。


「そうしたい、またはしたくないという本人の思い」を表しているからです。

契約や相続などの手続きで希望を示す場合も「意思表示」という使い方をしています。

反対に、医療の現場で患者自身が考えを伝える場合の「いし」は、「意志」です。

延命治療や臓器提供など、患者が「生きているうちにどのようにすべきか」を示す必要があるからです。

しかし、家族による希望の場合は「意思」となり、両方使われることも少なくありません。

したがって、医療現場での意向決定は、医療用語として「リビングウィル」を用いています。

「意思」と「意志」と似ている言葉の使い分けは?

「意思」と「意志」の、以上のようなニュアンスの違いが理解できれば、状況による使い分けや似た意味の言葉との区別もできるはず。

「意思が強い」「意志が強い」どちらが正しい?

「いしが強い」は、「目標を達成しようとする気持ちが強い」という意味で使われる。

目標を達成しようとする積極性の強さを表しているので、「意志が強い」がより良い。

同様に、「進学のいしが固い」の場合は、「進学すると決意している」ことを表しているため、「意志」を使う。

また、「賛成のいしを表す」は、「賛成という思いを伝える」意味なので、「意思」となる。

「意思表示」「意思表明」も同様だ。

文章全体の意味を読み取り、「思い」なのか「行動への決意」なのかを考えよう。

「意志」と「思い」の違いは?

「意志」の意味は「行動への積極的な思い」なのだから、結局「思い」と同じでは?と混乱するかもしれない。
 
確かにその通りではあるが、同じ「思い」でも「意志」と「思い」では「強さ」「状態」が大きく違う。

この場合も、「志」と「思」の漢字の意味から考えよう。
 
「志」は「目標に向かう心の決意」を意味している。

「志が高い」は「高い目標をもっている」「強い信念をもっている」の意味があり、積極性が感じられる。
 
「思」は「心の中で浮かぶ気持ち」の意味が強く、感じている状態だ。

この「思い」が明確にしぼられてくると、「志」に変化する場合もあるのではないだろうか。
 
「夢をかなえたいと思う」は、夢をかなえられたらいいなあと漠然と思っている状態。
 
この思いを強めに表現したい場合は、形容詞を加えた「夢をかなえたいと強く思う」でもよいのだが、決意を強調したい場合は「夢をかなえるという強い意志をもつ」と言い換えることができる。
 
「目標」や「信念」の有無を考えると、使い分けしやすいだろう。

「意思」と「遺志」の違いは?

同音異義語にもうひとつ、「遺志」がある。

現時点で生存しているのか、すでに亡くなっている人の生前の意向なのかを考えて使い分けよう。
 
こちらも、漢字に分けて考えると「遺」は「後に残る」「死後に残す」意味があり、「志」と組み合せることによって、「生前果たすことができないで残した志」の意味となる。
 
「故人のいし」は、「故人」が亡くなっている人を指すため、「遺志」を使う。
 
「先生のいし」は「先生」が生きている場合は「意思」か「意志」となり、「先生」が亡くなっている場合は「遺志」となる。
 

「言語学」って知ってる?
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この「意思」「意志」の意味を考えるように、言語の成り立ちや仕組みを追究する学問を「言語学」という

言語はそれを用いる人々が属する社会や文化の影響を強く受けている。

言語学では、実際にその言語が話されている地域に出向き、その言語の音韻の特徴、意味、語順などを調査するフィールドワークを行う。

文法など言語の構成要素をはじめ、音声や音韻といった各要素を分析したり、言語と社会・文化とのかかわりについても探求していく奥深い学問だ。

 

「意思」「意志」を使う四字熟語は?

「意志決定」と書くこともある「意思決定」

「意思決定」は、四字熟語として「思」で定着しており、「意思決定」として使われることが多い。

しかし、臓器提供など医療の現場では患者の意向や考えが重要となるため「意志決定」を使用する。

一般論的な言い方であれば「思」であり、場面によっては「志」を使い分けるとよいだろう。

「意志疎通」と書くこともある「意思疎通」

コミュニケーションが目的であれば、「意思疎通」として使用するのが適当だ。

お互いの気持ちを伝えあう意味がある。

しかし、気持ちよりも、あるテーマでのシャープな考えをお互いに知る必要がある場面では「意志疎通」を使用することもある。

やはり医療現場で、延命措置をどうするかなどの考えをお互いに理解しなければならない場面では、「意思」よりも強い「意志」の意味合いが強くなるだろう。

「意思」「意志」の英語表現は?

「意思」「意志」の英語表現は

「意思」の英語表現は「intention」または「mind」

多くの英和辞典では「intention」とあるが、どちらかというと「意志」に近い。

より「意思」にぴったりなのは「mind」だ。場面によって使い分けよう。

【例文】

I have the intention of spending a few months here.
(私はここに数カ月滞在するつもりだ)

He ignored my questions by intention.
(彼は意図的に私の質問を無視した)

Do you mind me drinking ginger ale?
(ジンジャーエールを飲んでもいいですか?)

「意志」の英語表現は「will」

「意志」を英語で表現する場合は「will」を使う。

「intention」よりも積極的な表現だ。

【例文】

She has a weak will.
(彼女は意志が弱い)

He was fired against his will.
(彼は意志に反して解雇された)

「意思」「意志」の類語表現は?

「意思」の類語表現は「所存」「思考」「思索」「意識」

所存…思っていることをへりくだっていう言葉。「~する所存です」のように使う。

思考…考えや思いを巡らせること。

思索…考えの道筋を立てること。物事の道理をたどること。「思索にふける」。

意識…自分が自覚している心の動き。

「意志」の類語表現は「主旨」「志向」「意欲」「自発」

主旨…言いたいことの主眼点。

志向…その物事を目指し、心を向かわせること。

意欲…積極的に行おうとする心。

自発…自分から進んで行うこと。

練習問題をやってみよう!

心で思っていることを意味する「意思」、行動へ強い決意である「意志」、故人の考えや成し遂げたかったことを意味する「遺志」。

それぞれの違いは理解できただろうか。
 
迷った時は、文章全体の意味を考え、漢字の意味と組み合せてみよう。
 
練習問題を解いてみて、理解できているか確認してほしい。

【問題】以下の文章に適切な「いし」を入れてみよう。

1:社内でのいし疎通の場を設ける。

2:故人のいしを尊重して、海に散骨する。

3:第一志望校合格へのいしを確かなものとする。

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【解答】1:意思 2:遺志 3:意志

小柴先生からのメッセージ

【from小柴先生】

意思が、頭の中にある大きな思いだとすれば、そのなかでも強い方向性のあるものが「意志」です。

さらに、故人が生前に示す場合は「遺志」であり、「意志」のなかでもさらに強い方向性があります。

また、神が認める人間の「自由意志」(free will)は、「意志」です。

哲学や心理学では「意志」を用います。
どちらも考えを示す際に用いる「意思」と「意志」。

自分の思いの強さや場面によって、正しく使い分けたい。

迷った場合は、漢字の意味を思い出すとよいだろう。

参考文献:『新訂 字統』(2007/6/1・白川 静著・平凡社)

取材・文/櫻庭由紀子 監修/小柴大輔 デザイン/ロンディーネ 構成/寺崎彩乃(本誌)


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