私たちが歴史ドラマで目にする、戦国時代の武勇伝。そのほとんどのエピソードが、江戸時代に庶民の娯楽として創作されたものだと知っていますか? 例えば、私が研究している戦国・織豊期の武将「松永久秀」は「将軍の暗殺」や「織田信長に対する3度の謀反」といった、下剋上の代名詞のような逸話が数多く残されています。ですが、当時の記録を確認すると、そのような事実は記されていません。むしろ、彼に関する日記や手紙などを読めば、主君の窮地を救い、親類の世話に奔走する、献身的な人柄を知ることができます。
歴史を理解する上で重要なのは、その時代を生きる様々な人々に目を向けることです。商人の商いの記録や農民への判決文など、現代に残された当時の史料を読み解き、苦しい時代を懸命に生き抜く戦国時代の全体像を感じてください。
授業では、「くずし字」や「漢文調」の史料、論文などの文献を読み進めていきます。ですが、高校までの授業のように、用語や年表を暗記してほしいのではありません。慣れない文章を、一文字一文字辞書を引きながら現代語訳していくのはひと苦労ですが、常に疑問を持ち、それを立証していくことが重要です。例えば、「この文字は崩れすぎているけど、時代劇にでてくるあのフレーズでは?」「この単語は現代でも使われているけど、当時と意味が違ったのでは?」といった疑問に対して、時には教員も一緒になって解明していきます。
歴史学は単に過去を学ぶのではなく、脚色された逸話の中から自分の力で史実にたどり着くことが問われる学問です。情報過多の社会で、正しい情報を選択する力を磨いて、現代を生き抜く基本的な思考を磨きます。
大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程修了。博士(文学)。関西大学、大阪市立大学などの非常勤講師を経て、2016年より天理大学人文学部歴史文化学科准教授。授業では、鎌倉時代から江戸時代前期までの古文書を読み、それぞれの時代の歴史背景を解明していく。主な著書は『戦国期三好政権の研究』(清文堂出版、2010年)、『三好長慶』(ミネルヴァ出版、2014年)、『松永久秀と下剋上』(平凡社、2018年)等。