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東邦大学、パーキンソン病治療補助薬のゾニサミドが従来の症状改善効果を発見
2018/7/17
東邦大学医療センター大森病院脳神経センター(神経内科)の池田憲准教授の研究グループは、パーキンソン病治療の補助薬であるゾニサミドが、従来の症状改善効果に加えて、パーキンソン病の診断や病期進行のマーカー(指標)である線条体のドパミントランスポーター(DAT)の減少を抑制することを新たに発見した。

 

今回の発見は、パーキンソン病の治療戦略を考える上で、重要な知見を与えるものと考えられる。
 
●発表のポイント
ゾニサミドはパーキンソン病患者の症状改善に加えて、さらに線条体のドパミントランスポーター減少も抑制できた。
ゾニサミドは早期パーキンソン病患者の黒質線条体経路の神経終末を保持できる治療薬であることが、はじめて立証された。
ゾニサミドはパーキンソン病の比較的早期から併用すれば、病期の進行を遅らせる有望な薬剤である。

 

●発表の概要

1. 研究の背景:パーキンソン病(PD)は黒質のドパミン細胞が変性・死滅する神経難病であるが、単一光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)で測定した線条体ドパミントランスポーター(DAT)が病期の進行とともに減少することが知られている。
2. これまでの課題・問題提起:現在、PD患者では多くの治療薬があるが、病期の進行を遅らせる効果がある薬については不明であった。
3. 研究手法:東邦大学医学部の池田准教授らは、DAT-SPECT検査を用いてPDの補助薬であるゾニサミド(ZNS)がDAT減少を抑制できるかについて、後方視的コホート観察研究で調べた。
4. 今回の成果:約1年間のZNS併用療法は日内変動やジスキネジアの発症を抑制し、線条体DAT発現を保持することができた。
5. 結論・社会への影響: ZNSはパーキンソン病の比較的早期から併用すれば、病期の進行を遅延できる有望な薬剤である。この有益性を多くの患者さんに知らせることは、社会的にも重要である。

 

●発表内容
 

【背景・目的】
パーキンソン病(PD)は、黒質線条体路のドパミン神経細胞が徐々に消失する神経変性疾患である。
単一光子放出計算法(SPECT)によるドパミン作動性機能障害を定量する方法として123I-N-ωを用いたドパミントランスポーター(DAT)-SPECTであるDAT-SPECTがある。

この検査は本態性振戦、血管性パーキンソニズムおよび薬物性パーキンソニズムなどとPDの鑑別診断のために行われている。
DAT-SPECTは,PD患者における黒質線条体経路の神経終末のドパミン作動性機能不全の進行性評価の指標にも使用されてきた。
ゾニサミド(ZNS)は日本で抗てんかん薬として20年以上使用されている薬剤である。同時に、本薬はPD患者の運動症状を改善し、2009年に日本でPDの補助薬としても承認された。

これまでの動物実験で、ZNSがドパミン作動性神経細胞の死滅を減弱させることが確認されている。
ZNSのPD患者や動物モデルへの臨床効果や実験的な神経保護作用の既報告を背景に、本研究はZNS投与がPD患者における線条体のDAT低下を遅延できるかを検討した。

 

【方法】

2.1 登録PD患者

患者は東邦大学医学センター大森病院神経内科に通院し、UKPD Society Brain Bankの診断基準に準じてPDと診断された。
すべての患者は本研究に入る前に、鑑別診断のための最初にDAT-SPECTを受けた。以下の基準を満たす患者が研究に選択された。
(i)初回DAT-SPECTの前にZNS治療歴がない (ii)40歳以上 (iii)レボドパが投与され、HoehnおよびYahr(HY)病期およびUPDRS II-IVが評価されている (iv)HY病期が2または3 (v)DAT- SPECTの線条体特異的結合比(SBR)の平均値≧2.00。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬の併用、重度の認知症、肝機能障害、ヨウ素アレルギーおよび重篤な心臓病の患者は除外した。
研究に参加したすべての患者に本研究の目的および方法を説明し、文書によるインフォームドコンセントを得た。この研究は東邦大学医療センター大森病院(M16003)の審査委員会によって承認された。
 
2.2 ZNS投与
研究の開始前に、各主治医は運動症状の進行および日内変動のためにドパミン受容体アゴニスト(DA:ロチゴチン、プラミペキソール、およびロピニロール)、セレギリン、エンタカポン、およびZNSの薬物使用を自由に選択した。研究期間はZNS投与群とZNS非投与群に分けられた。ZNSの使用は最初に25mg/日(経口)で投与された。高用量が日内変動を改善する可能性がる場合は50mg/日に増量した。
研究期間中はレボドパおよび他の抗PD薬である抗コリン薬、アマンタジン、ドロキシドパ、セレギリン、エンタカポンおよびDAの併用は制限しなかった。
ZNS投与の有無は初回DAT-SPECTから1.2±0.2年間継続した。ZNSを服用中止したZNS群やZNSを開始した非ZNS群の患者は研究から除外した。
 
2.3 神経学的評価

神経学的評価は1-2か月ごとに実施された。HY病期とUPDRS II-IVは研究開始時と終了時(2回目のDAT-SPECT施行時)に、各主治医によって評価された。振戦スコアおよびジスキネジアスコアも評価した。
開始時と終了時の間隔は1.2±0.2年で、各スコアの変化を計算した。
 
2.4 DAT-SPECT
線条体SBRはTossici-Boltの方法に基づいて半定量的に計算した。
2回目のDAT-SPECTは初回検査から1.2±0.2年後に実施した。SBR値の変化と変化率、左右の線条体非対称性指数(SAI)を計算した。
PD症状がなく神経学的所見もない年齢が一致した健常者(10名)のSBR値が4.83-6.61であったので、本研究のSBR ≧2.00は健常者の平均SBR 5.00の60%以下までの減少と設定した。
 
2.5 統計学的分析

データは平均(標準偏差)で表示した。ZNS群と非ZNS群との間の臨床所見とSBRは、対応のないt検定によって分析した。
各群内の臨床所見とSBRは対応のあるt検定で分析した。ZNS群と非ZNS群との間の臨床放射線学的変化は二方向反復測定分散分析(ANOVA)によって分析した。
独立したSBR減少の予防因子を同定するために複数のロジスティック回帰分析を行った。

 

【結果】

3.1 開始時の臨床所見

本研究の開始時の臨床所見、HY病期、UPDRS II-IV、振戦スコアおよびジスキネジアスコアはZNS群と非ZNS群との間で有意差はなかった。
レボドパ用量および他の抗PD薬の使用もZNS群と非ZNS群との間で有意な差はなかった。
 
3.2 終了時の臨床所見

両群の研究期間は1.0~1.2年で差はなかった。HY病期、UPDRS I-IV、振戦スコアはZNS群と非ZNS群との間で有意な差はなかった。
ジスキネジアスコアとジスキネジアの発症頻度は、ZNS群で有意に低かった(P < 0.01)。レボドパの用量は両群間で有意差がなかった。
非ZNS群では運動障害の進行や日内変動により、他の抗PD薬の追加治療が必要であっ。非ZNS群でセレギリン(n = 1)、エンタカポン(n = 9)、DA(n = 4)の患者数が増加した。

一方、ZNS群では追加投与は不要であった。ZNS群では3名の患者(20%)がDAを服用しなかったが、非ZNS群では全患者にDAが投与された。
副作用は各群2名の患者で軽度の日中の眠気を経験した。これらの4名の患者はDAを併用していた。両群の眠気に有意差はなかった。
 
3.3 開始時と終了時のDAT-SPECT所見
開始時のSBRは両群で有意差はなかった。非ZNS群のSBRは開始時と比べて、終了時で有意に減少した(P <0.001)。
ZNS群では有意な低下はなかった(図)。多重ロジスティック分析で、ZNS投与はSBR減少の独立した予防因子であった(OR = 0.913; 95%信頼区間[CI] = 0.847-0.984; P = 0.016)。

 

【考察】

本研究はZNSの補助療法が黒質線条体路におけるDAT機能障害を軽減することができるかを検討した。
ZNSは比較的初期のPD患者におけるDAT-SPECTのSBR減少を遅延した。HY病期やUPDRS II-IVスコアの運動障害はZNS投与の有無で有意差なかったが、運動障害の進行や日内変動のためにZNS非投与患者では抗PD薬の新規追加が必要であった。ZNS投与による臨床的利点は日内変動の改善とジスキネジア発症の抑制であった。また、ZNS投与は線条体の神経終末を反映するDATの減少を遅らせることができた。
抗PD薬がPD患者の線条体DATに影響するかに関して、いくつかの報告がある。
セレギリン投与はPD患者の線条体DATに有意な変化はない。DAではプラミペキソールによる初期治療は、レボドパ治療と比較して早期PD患者のDAT低下を遅延している。
ロチゴチン単独療法で最適量に達した12週間後に施行したDAT-SPECTは,DATが尾状核で13%、被殻で17%ほど増加している。本研究の終了時にセレギリン4名、プラミペキソール5名、ロチゴチンは20名の患者に投与していたが、これら3薬の使用数は両群でほぼ同数であったので、SBRの変化には影響はしていない。

また、ロチゴチン投与の有無でもSBRに有意な差はなかった。DATに対する薬理学的効果に加えて、振戦主体のPD患者では尾状核のSBRが高いことが指摘されている。
本研究ではZNS群と非ZNS群の間で振戦スコアに有意差はなかったので、振戦の優位性は線条体SBRに影響していなかった。
過去の研究で被殻DAT活性の低下する新規PD患者では、レボドパ誘発性ジスキネジアが生じやすいことが報告されている。よって、本研究でZNS併用投与が線条体DATを保持した結果、ジスキネジアと日内変動の発症率低下に至ったと考えられた。
今後は、ZNSによる線条体DATの維持効果がどれくらい継続できPD病期の進行を抑制できるかを明白にするために、本薬の長期投与試験が必要である。

 

【結論】

本研究は比較的早期のPD患者でZNS補充治療が線条体DAT減少を遅延することを立証した。
また本薬は日内変動やジスキネジアの発症を抑制した。これらの結果はZNS投与がPD患者の黒質線条体経路の脱神経を抑制し、病期の進行を遅らせる有望な薬剤の可能性が示された。

 
■詳細リンク先(https://www.toho-u.ac.jp/press/2018_index/20180626-892.html)
 
東邦大学(私立大学/東京・千葉)
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