夢の技術、自動運転とは?自動車開発者になる方法、仕事内容を詳しく解説!

100年に一度ともいわれる変革の時代を迎えている自動車業界。

今回は夢のある「自動運転」にフォーカスして、自動車開発者の仕事を紹介!

第一線で活躍している人に話を聞いたので、「自動運転って?」という基本の話から「自分の手で自動車を作ってみたい!」「自動運転の開発に興味がある」という人向けの具体的な内容を教えてもらったのでさっそくチェックしよう。
<今回お話を聞いたのは>

戸部拓也さん
戸部拓也さん
本田技研工業 アシスタントチーフエンジニア。
高校卒業後、大学の工学部機械システム工学科に進学。
大学院を卒業して電気系メーカーにて働いた後、本田技研工業に転職。現在は自動運転に必要な制御ソフトウエアの設計・開発を担当している。10人のメンバーを抱えるチームのリーダーとして活躍している。

自動運転とは?

自動運転とはドライバーである人間の運転(認知・判断・行動)をシステムが代わって行ったり、サポートしたりすること。

自動運転の普及によって操作ミスなど人間が引き起こす交通事故の大幅な減少のほか、運転の負荷から解放されたり、移動時間を自由に過ごせたりと、移動がより安全で快適なものになることが期待されている。

自動運転は技術に応じて0~5段階に分類されており、レベル5は常にシステムが運転を行う完全自動運転を指す。

自動運転の開発はめざましい進化を遂げているので、ドライバーが運転をしなくても自動的に目的地に着ける、レベル5が実現する未来もそう遠くはないかも!?

また、自動車業界では今「CASE(ケース)」というキーワードに注目が集まっており、「自動運転」も「CASE(ケース)」にかかわる重要な要素だ。
\これも知っておいて /
Q自動車業界で注目が集まる「CASE(ケース)」とは?

「CASE(ケース)」とはメルセデス・ベンツが2016年に発表した考えで、「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリングとサービス)」「Electric(電動化)」の頭文字をつなげた言葉。

ネットワークにつながった自動車で交通情報を得たり、映画・音楽などのエンターテインメントを楽しんだりできる世界「Connected」、自動運転が運用される世界「Autonomous」、カーシェアリングなどのシェア&サービスが広がる世界「Shared&Services」、自動車が電動化される世界「Electric」を意味していて、自動車業界全体が「CASE(ケース)」の方針を中心とした変革期にある。

車移動をより安全にする夢の技術!自動運転のメリットは?

自動運転化されるメリットとして、交通事故が減ることが期待されている。

現在、交通事故はドライバーの確認不足や操作・判断ミスといった人が原因で発生しているものが多く、自動運転が普及することで交通事故を大幅に減らすことが可能になるといわれている。

さらに、人間に代わってシステムが運転操作をすることで運転の負荷が減るというメリットも。

運転ができない人や苦手な人、高齢者も車で移動することが可能になり、より便利な生活を送ることができる。

実際にその技術を日々開発している戸部さんにも自動運転のメリットをお聞きした。
「私たちは、すべての人に生活の可能性が拡がる自由な移動を楽しんでいただきたいという想いのもと、交通事故ゼロ社会の実現を目指し、先進運転支援システムの開発に注力しています。

自動運転技術が進化することで、自動車での移動がより安全で快適なものになるはずです」(戸部さん:以下同)

自動運転の開発に対して、誠実で熱い想いを語ってくれた戸部さん

※自動運転の開発に対して、誠実で熱い想いを語ってくれた戸部さん

自動運転の6段階の自動化レベルとは?

自動運転レベルは0から5までの6段階に分類されている。

レベル0はすべてが手動運転。レベル1・2はドライバーが主体で自動運転の技術は運転支援の範囲だが、レベル3以上はシステムが主体となり、いわゆる「自動運転」と言われる技術となる。

例えば高速道路などの特定条件下で、前を走る自動車と一定の車間距離を保つためにアクセル・ブレーキ操作を支援しながら、車線の中央付近を維持して走行するためにハンドル操作を支援する技術はレベル2にあたる。

自動運転レベルの図(A)
戸部さんにも自動運転のレベルについてお聞きした。
「現在、Hondaでは国内で販売する全自動車が自動運転レベル2に当てはまるなど、自動運転レベル2が普及しています。

さらにHondaでは、2021年に世界で初めて自動運転レベル3の機能を搭載した車『LEGEND(レジェンド)』を販売しました。

『LEGEND』は、高速道路渋滞時など一定の条件下でシステムがドライバーに代わって運転操作を行います。

その間、ドライバーはナビ画面で動画を視聴するなど、渋滞時の疲れやストレスを軽減させることができます」
※参考:国土交通省「自動運転のレベル分けについて」

自動運転はいつ実現する?

自動運転がいつ実現するかについて、日本では新たに販売される自動車では自動運転レベル2が主流になりつつあり、今後、レベル3の自動車の普及も増えていくことが予測されている。

高速道路での完全自動運転など特定条件下でシステムがすべての運転タスクを実施するレベル4は、一部実証実験が始まっている。

さらに、完全自動運転のレベル5は、センサーやAIなどのより一層高い技術が必要となり、まだ目処はたっていないものの、その実現にむけて開発が進んでいる。

戸部さんにもお聞きしたところ、こう語ってくれた。
「高精度のセンサーで交通環境の流れをリアルタイムに認識したり、安全性を保つためにシチュエーションごとにとるべき行動を判断したりと、あらゆる状況において安全を確保できるように、自動運転の実現に向けてさまざまな技術をさらに高める必要があります」

さらに、こんな想いも話してくれた。
「自動運転レベル4や5の実現は、私たちも夢として掲げています。

ただ、自動運転を実現するためには高い技術開発が必要となるため、その分、自動車の価格も高くなります。

交通事故ゼロ社会の実現を目指すためには、先進安全技術を搭載した車を多くの人に利用いただくことが必要不可欠なので、現在のように高額なままでは自動運転はなかなか普及していきません。

そのため、Hondaでは安全運転支援技術のさらなる磨き込みを行い、『より安全で快適な自動車』を『多くの人にとって手の届きやすい価格』でご提供できるように開発を進めています

自動運転にかかわる自動車開発・設計の仕事とは?

自動運転にかかわる自動車開発・設計の仕事は、「どんな自動車を開発するか」というシステムの設計から始まり、その設計に沿ってソフトウエアを開発して自動車を作りあげる。

完成までには開発したソフトウエアが問題なく動くか、安全性や快適性を保っているかなどをさまざまなテストを行って検証を重ねていく。

自動車を構成する装置は数多くあるため、多くの人たちと協力しながら開発を進める必要がある。

多くの場合、メーター、ブレーキ、ハンドルなど装置ごとにチームに分かれ、その専門チームが開発を担当しているという。

戸部さんに詳しくお聞きした。
「私はそのなかでもシステムをコントロールする『制御』と言われる装置を設計・開発するチームに所属しています。

制御は、メーター、ブレーキ、ハンドルなどをどう動かすかの判断を行う“頭脳”の役割をもっています。

例えば、自動運転でメーターに何かしらの通知を出したい時、制御側の「通知を出す」という判断に対して、メーター側がそれに連動してきちんと通知を出し、ドライバーに知らせる動きをしなければなりません。

さまざまな装置が連動して動く必要があるため、各チームと連携をとり『どうやったら思い描く動きができるか』を議論しながら開発を進めます。

また、メーターといってもタコメーターやスピードメーター、警告ランプ、ウインカーなどいろいろなセクションに分かれています。

各セクションと連携をとる必要があるので、開発には『みんなで話し合って決める』という作業がとても大切になります」

チーム内やチーム同士の議論は開発に欠かせないプロセス

※チーム内やチーム同士の議論は開発に欠かせないプロセス

自動車開発の4つの工程 

自動車開発には大きく分けて4つの工程がある。

装置によってチームに分かれているものの、4つの工程は変わらない。

※4つの工程の図(B)を入れる

この4つの工程を何度も繰り返し、試行錯誤しながら一つの機能や自動車を作りあげている。

機能の規模によって期間に差はあるが、例えば既存の機能に改良を加える場合は全工程で2週間~1カ月ほど、新しい自動車を開発するのであれば1~2年など年単位で取り組むという。

それぞれの工程でどういった仕事を行っているのか、戸部さんに具体的に教えていただいた。

(1)システムの設計を行う

まずは運転支援をするにあたり、車にどんな動きをさせるかを議論する。

そのうえで、メーター、ブレーキ、ハンドルなど、それぞれの装置にどんな役割をもたせるのかを決めていく。
「例えば、メーターに通知を出す設計を考える際、『制御としてはメーターにこんな動き方をしてほしい』という制御チーム側の希望をメーターチームの担当者に打診し、そうした動かし方が可能なのか、難しければどんな動き方ならできるのかを相談して仕様を決めていきます。

システムの設計がすべての起点となるので、やり直しが多く、大変な工程の一つです。

その一方で、どんな機能をもった車を作りたいか、エンジニアそれぞれがもつ理想の自動車の姿を伝え合う、刺激的で夢のある工程でもあります」
 
(2)ソフトウエアを開発する

各チームと話し合って決めた仕様に沿ったソフトウエアを作るため、プログラミングを行う。

「ソフトウエアを車に搭載するためのコンピュータがあり、それに載せるプログラムを書いていきます」

※「ソフトウエアを車に搭載するためのコンピュータがあり、それに載せるプログラムを書いていきます」


(3)問題がないかテストする

プログラミングが完成したら、思い描いている動きをするかテストを行う。

テストには大きく分けて5種類の方法があり、段階をふんでテスト結果を細かく積み上げて、問題ないかを確認していく。

1.パソコン内でソフトウエア単体を動かして確認をするテスト

2.パソコン内で走行コースを作り、仮想の車を走らせて確認するテスト

3.車に搭載する装置とパソコンをつなげてソフトウエアが期待どおりに動くか確認するテスト

4.ドライビングシミュレータで行うテスト

5.実際の車を使い、テストコースにて実際に運転をして行うテスト


これらのテスト結果がすべてOKで問題がないことを確認できれば、完成となる。
「小さな単位でのテストから始め、徐々にプログラム同士をつなげて範囲を広げ、テストを重ねていきます。

例えば、制御とメーターをつなげて動くかどうかを確認したい場合、各チームの開発の足並みがそろっていないとテストができないため、お互いにテスト日までに間に合うように開発を進めてテストに臨みます」

ドライビングシミュレータでは交通状況や天候などさまざまな条件下でテストを行う

※ドライビングシミュレータでは交通状況や天候などさまざまな条件下でテストを行う


実車を使ってのテストは緊張感のある現場に。ドライバー目線で安全性・快適性もチェックする

※実車を使ってのテストは緊張感のある現場に。ドライバー目線で安全性・快適性もチェックする


実車テストの前には必ず自動車の整備を行い、エンジンに問題がないか、部品の落下がないか、ヘッドライトがつくかなど確認する

※実車テストの前には必ず自動車の整備を行い、エンジンに問題がないか、部品の落下がないか、ヘッドライトがつくかなど確認する


自動車整備のための工具は仕事の欠かせないアイテム

※自動車整備のための工具は仕事の欠かせないアイテム

(4)テスト結果をもとに改善させる

テストを行い、思い描く動きをしなかった場合は、その原因を探って改善をさせていく。

原因によって、(1)のシステムの設計を行う工程に戻ったり、(2)の実際に開発を行う工程をやり直したりする。
「原因がどこにあるのか…と、時には行き詰まることもあり、ここも大変な工程の一つです。

『そもそもの設計が違っていたのでは?』と設計まで戻る場合は、再度、設計→開発→テストの工程を繰り返します」

テストの結果をもとに性能を数値化して、原因を検証

※テストの結果をもとに性能を数値化して、原因を検証



自動車開発者(自動車開発エンジニア)になるには?

自動車開発者になるために必要な勉強やおすすめの学校は?

自動車開発者になるには、大学や短期大学、専門学校などで工学系の知識を身につけるのが一般的なルート。

特に、自動運転にかかわる開発に携わるためにはプログラミングの勉強も必要となるが、工学系の学科で基本的なプログラミングを学べる学校が増えているということからも、工学系の知識を学べる学校に進むのがおすすめ。

自動車開発者に必要な資格は?

自動車開発者になるために必要となる資格は特にない。

その分、工学系の知識を身につけている人のほうが就職時は有利とも言えるだろう。

自動車開発者に向いている人は?

自動車が好き

開発の対象である自動車が好きな人であることが大前提。

開発をするうえでは自動車に関する情報を収集するなど、アンテナを張っておく必要があるので、自動車への興味が尽きない人に適性がある。

新しい技術に興味がある

自動車開発の技術は日々進化しており、自動運転や自動車の電動化など今後ますますその進化から目が離せないだろう。

そのため、新しい技術への感度が高い人、新しい未来を自分の手で作ってみたいという意欲のある人に向いている。

仲間と一緒にモノづくりをすることが好き

自動車開発には多くの人が携わり、お互いの意見を出し合いながら一つの自動車を作りあげていく。

話し合って決める作業がたくさんあるので、コミュニケーションを深くとりながら仕事を進めることが必要不可欠だ。

そのうえで、モノづくりにおいて「一人で黙々と」を好むタイプより、「仲間と一緒に」を好むタイプのほうが向いているといえる。



自動車開発者にインタビュー


やりがいや将来性など、戸部さんの考えをお聞きした

※やりがいや将来性など、戸部さんの考えをお聞きした

自動車開発者になりたいと思ったきっかけは?

「私は高校生のころから物理が好きで、車に限らず動くモノに興味があり、大学では工学部の機械システム工学科に進学しました。
 
そこでプログラミングを学び、『制御』の研究に興味をもったことから、制御システムの開発を通じて自動車を作りたいと考えるようになりました」

自動車開発者のやりがいは?

自分が『自動車をこう動かしたい』と思い描いたことに対して、実際に自分で手を動かしてそれを形にできた時にやりがいを感じます。

設計段階では、『私はこう思う』とみんなで意見を出し合うので、意見が分かれることもあります。

異なる意見をまとめて一つの仕様に決めていく過程は大変ですが、だからこそ、みんなで納得できるものを作ることができた時のよろこびが大きいですね」

自動車開発者の将来性は?

自動運転の分野は、各自動車メーカーが中枢として取り組んでいる事業の一つで、今後ますます広がっていくでしょう。

また、自動車開発と聞くと、機械や装置の『メカ』のイメージがあるかもしれませんが、自動車にはたくさんのコンピュータが入っており、ソフトウエアの割合が増えています。

そうした意味では、ソフトウエアのエンジニアは今後求められる傾向が高まるのではないかと思います」

自動車開発者になるために、高校生のうちに学んでおくといいことは?

「意外かもしれませんが、『英語をきちんと勉強しておこう』と伝えたいですね。

自動車開発はグローバル化しており、日本だけで完結するものではなく、海外のエンジニアとやりとりしたり、議論したりする機会もあります。

そのため、自分の意見を英語で伝える力を伸ばすことを意識しておくといいですよ」

高校生の皆さんへ

「日々の生活の中で、一つでも『これが好き』『これをやりたい』と思えるものがあれば、それを行き着くところまでとことんやってほしいと思います。

好きなことに一生懸命になれるその熱量は、自動車開発者になった時に役立つはずです」




注目度が高く、夢のある「自動運転」にかかわる自動車開発者。

技術が人々の暮らしを豊かにすることに直結し、やりがいの大きい仕事だ。

興味がある人は、まずは自動車開発・設計を目指せる学校の情報を集めてみよう。


\ここもCHECK!/
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取材/本田技研工業株式会社、文/ミューズ・コミュニティー、構成/高木龍一