私の研究テーマは、津軽出身の文人「建部綾足(たけべあやたり)」。綾足が活動した江戸時代の中期は、文学における新しい動きが多くありました。中国小説の影響を受けた「読本(よみほん)」という小説が登場し、「国学(こくがく)」という実証的に古典を研究する学問も生まれています。綾足もそうした時代のただ中にいて、新しいかたちの文学を工夫した人物。綾足を研究することで、江戸時代中期の文学に起きた変化を明らかにしたいと考えています。また現代のライトノベルは口絵と挿絵が両方ついていますが、これも江戸時代の読本から始まったこと。口絵のほうが挿絵より豪華という点も同じです。江戸時代の文学について考えることは、今の文学を考える上でも参考になります。ことばや文化は違いますが、本質的には同じ部分も多いと感じています。
「近世文学演習I」で扱うのは、松尾芭蕉の『おくのほそ道』。「旅の途中で浮かんだ句や思いをそのまま記したように見えますが、実際は虚構も交えた紀行文なんです」と紅林先生。その根拠となるのが、芭蕉と一緒に旅した弟子・曽良の日記。そこにつづられた旅の様子と『おくのほそ道』を比べながら、内容の違いや理由を考察します。また「中世文学演習II」では、『徒然草』の意外な事実に学生も興味津々。「最新の研究によると、作者である兼好の家系図が嘘だと判明。吉田という苗字も、父親とされていた人物も間違いだとわかりました」。
文学研究では、ことばを調べ、作品が書かれた当時の社会制度や文化を調べ、当時の人々のものの見方を調べていきます。文学作品を読みながら、言語・歴史・文化・思想など世の中のあり方を学んでいきましょう。
専門分野:日本近世文学
1982年静岡生まれ。金沢大学文学部卒、同大学大学院文学研究科(修士課程)修了。総合研究大学院文化科学研究科(博士課程)修了。啓明大学校人文大学外国人招聘専任講師、国文学研究資料館学術資料事業部機関研究員等を経て、現職に至る。著書に『江戸怪談文芸名作選3 清涼井蘇来集』(共著、国書刊行会)、『怪異を読む・書く』(同)ほか。