「弁護士」と「弁理士」の違いって? 両資格を持つ先生に聞いた
テレビドラマでもよく見かける「弁護士」「弁理士」という2つの職業。
よく似た名前だけど、どう違うのか知ってる?
弁護士と弁理士の2つの資格をもち、法律事務所「イノベンティア」の代表をつとめる飯島歩さんに仕事内容の違いやなり方などを聞いてみた!
飯島歩さん
弁護士・弁理士・ニューヨーク州弁護士。イノベンティア・グループ代表、弁護士法人イノベンティア代表社員。
京都大学法学部卒業後、1994年より弁護士。
北浜法律事務所に6年間勤め、アメリカのデューク大学ロースクールへ留学。
2001年に法学修士(LL.M.)を取得し、米国の名門法律事務所に勤務。
帰国後、特許庁で法制専門官として特許法改正作業に携わった後、北浜法律事務所代表社員を経て、2016年4月に独立。
弁護士法人「イノベンティア」を設立。知的財産法などの紛争解決を中心に、多数の企業で法律・経営に関するアドバイスを行う。
<<目次>>
飯島さんは弁護士・弁理士の資格と、ニューヨーク州弁護士の資格ももち、国際的に活躍している法律の専門家だ。
飯島さんによると、「弁護士と弁理士の仕事のなかみは全然違います」とのこと。
「弁護士は、人と人や、企業と企業の間の取引やトラブルを扱います。
それに対し、弁理士が扱うのは技術やブランド、デザインを巡る権利です」
【弁理士の仕事内容は?】特許出願・登録の手続きを行う
それでは弁理士の仕事内容から聞いてみよう。
「日々、新しい技術が生まれていますが、技術は法律で守らないと誰かに勝手にマネされてしまい、ものを作る企業にとっては大きな損失になります。
お金と時間をかけて開発した製品のマネを無断でするのは、その開発にかけたお金や時間を盗むのと同じです。
マネをする方は、お金をかけていませんから、同じ製品を安く売ることができ、お金をかけて開発した会社の製品は売れなくなってしまうのです。
それを防ぐために、技術を発明した人や企業の利益が、法律で守られた状態にする、これが弁理士の仕事です」
具体的にはどんな仕事をする?
「発明した技術を、他人に横取りされないようにするには、特許の取得が必要です。
特許とは、その技術にかかわる独占的な権利で、ほかの人や企業が勝手にその技術を使うことを法律で禁止できるというもの。
特許を得るための特許庁への出願・登録の手続きは複雑で、高度な専門知識が不可欠です。
そこで発明者に代わってさまざまな手続きを行うのが、弁理士です」
※特許出願や登録の手続きは弁理士の仕事
【弁理士の仕事のやりがい】最先端の技術にふれられる
特許取得までの仕事の流れを教えてもらった。
弁理士は企業や発明者個人から依頼を受け、発明者から新技術について話を聞く
「どんなにすばらしい発明でも、それを文章にして、出願書類にまとめなければ権利化はできません。そのためにまず発明者に会って新技術の特徴を詳しく聞き出します」
特許を取れる見込みがある発明なのかどうかを鑑定するために、調査を行う
「日本で1年間に出願される特許の数は約30万件。
たくさんの過去の出願内容が記録されている特許庁のデータベースを、弁理士が調査することもあります。
過去に似たような発明があるかどうかを調べ、特許を取れる見込みがあるのかどうかを考えるのです」
出願書類を作成し、特許庁へ出願
「出願書類には、どんな発明について権利を求めるのかを書いた『特許請求の範囲』という文書のほか、発明の内容を詳しく説明した明細書や図面を添付します。
これらの文書を作成するときは、きちんと特許が取れるように正確な説明を書くことはもちろん、企業や発明者の利益に結びつく権利を取れるような表現を考えることが重要です。
例えば、転がりにくく、持ちやすい六角形の鉛筆を発明した人が、『六角形の鉛筆』という権利を取ったとします。
この権利だと、四角形の鉛筆は作ってもいいことになります。
そこで、『多角形の鉛筆』という権利を取ろうとするとどうなるでしょうか。
確かに、何角形の鉛筆も「作るな!」と言えますが、今度は、例えば過去に三角形の鉛筆を作った人がいたら『前からあった発明だ』と言われて特許を取れなくなってしまいます。
また、『多角形の鉛筆』には20角形の鉛筆も含まれるので、『そんなのは昔からある丸い鉛筆と実質的に一緒じゃないか』と言われてやはり権利が取れなくなってしまいます。
つまり、狭い発明(六角形の鉛筆)は特許を取りやすいのですが、権利範囲は限られ、広い発明(多角形の鉛筆)は、広く権利の網を広げることができますが、なかなか特許が取れない、という関係になります。
そのような制約の中で、なるべく広い権利を取るために工夫するのも弁理士の仕事です。
最先端の技術にふれることができるうえ、このように、良い権利を獲得するための表現を探究するおもしろさのある仕事だと思います」
出願後、特許庁の審査を経て、認められると特許権として登録される。
弁理士は特許のほか、商標(会社や商品のブランド名、ロゴマークなど)、意匠(商品などのデザイン)などの出願手続きや登録なども扱う。
キミたちが使っているスマホの仕組みやデザイン、洋服やスポーツ用品のブランド、はてはコンビニ弁当の容器の形まで、いろいろなものについて特許や意匠、商標の登録がされている。
【弁護士の仕事内容は?】企業間の取引の契約や、裁判の業務を行う
弁護士の仕事の対象は、夫婦の離婚、交通事故、亡くなった人の遺産をどう分けるのかという相続の問題、貸したお金を返してもらえない、あるいは返せなくて破産するといったお金の問題、企業と企業の取引で発生したトラブルの問題から、殺人や傷害などの刑事事件まで多岐にわたる。こうしたさまざまな問題を法律を使って解決する。
伝統的な弁護士は、市民や企業のさまざまな問題を広く取り扱ってきたが、最近は、一定の得意分野をもって活動したり、取扱業務を絞り込んで特化したりする弁護士が増えてきた。
飯島さんの場合は弁理士とのダブル資格をいかし、特許、商標、意匠、著作権など知的財産の問題を専門的に扱っている。
弁理士は特許の出願など、知的財産の権利化の仕事をしているけど、知的財産を扱う弁護士はどんな仕事をするの?
特許技術を巡る企業間の取引に携わる
「まずひとつめは、企業間の取引など、事業活動のサポートです。
例えば、知的財産を活用した企業の事業活動の中に、『特許技術を他社が使うことを認める代わりに使用料の支払いを受ける』という『ライセンス』があります。
そうしたビジネスを法律的に問題なく進めていけるよう、弁護士が契約書の整備などをすることがあります。
具体的には、クライアント企業(依頼主の企業)に契約内容の助言をしたり、相手企業との交渉の場に立ち会い、ライセンス料の金額、技術の使用用途、契約期間といった契約内容を決めるまでの手助けをします。契約書類を作るのも、弁護士の仕事です」
※弁護士は企業間の取引の契約や、裁判の業務を行う
クライアント企業の代理人として、裁判の法廷に立つ
「もうひとつは、紛争解決です。
例えば、無断で他社に特許技術を使用されたときには訴訟を起こし、クライアント企業の代理人として特許を侵害した相手と争います。
逆に、他社から『特許を侵害している』と訴えられる場合もあり、クライアント企業の利益を守るために法廷で争います。
また、裁判になる前に、相手方企業と交渉をしたり、あるいは、一緒に交渉方針を考えるなどのお手伝いをすることもあります」
【弁護士のやりがい】企業の開発競争の最先端で法律を武器に交渉などを行う
「『下町ロケット』で一般の方にも知られるようになりましたが、知的財産にかかわる紛争は珍しいことではありません。
企業はより良い製品を作ってたくさん売ろうと、激しい競争を繰り広げていますが、他社によって不当にマネされたときにそれをやめさせることも重要な事業活動です。
ライバル関係にある企業同士、他社がどんな技術で特許を取っているのか、どんな新製品が開発されているのか、常にチェックしているんですよ。
そんな企業間の開発競争の最前線に立ち、法律を武器に交渉したり、法廷で争うのも弁護士です。
企業活動がグローバル化していることもあって、責任は重いですが、やりがいのある仕事だと感じています」
海外企業との間で特許を巡るトラブルが起こることもあり、外国で裁判をやる場合もある。
海外の法廷にはその国・地域の弁護士資格がないと立てないが、飯島さんも現地へ行き、外国の弁護士とチームを組んで戦略を練るという。
裁判で法廷に立てるのは弁護士だけ? 弁理士はどうなの?
特許に関する裁判では、弁理士も企業や発明者の代理人として、法廷に立つことができる。
大きく次の2つ。
2)特許権侵害の裁判で、弁理士は弁護士との共同で法廷に立つことができる(※1)。ちなみに弁理士が弁護士の資格をもてば、単独で法廷活動ができる(※2)。
(※1)特許侵害の裁判で、弁理士が企業や発明者の代理人になるには、試験に合格するなどの条件を満たし、「付記弁理士」として認められる必要がある。
(※2)弁理士が弁護士の資格を取得するには、司法試験に合格することが必要。弁護士が弁理士の資格を取得するには、弁理士実務修習を修了する(国家試験はなし)。
弁護士・弁理士の仕事スケジュールは?
弁護士・弁理士として働く飯島さんの1日のスケジュールも教えてもらった。
朝起きて即、メールチェック
毎朝6時起床。
自宅でメールのチェック。
クライアント企業からは夜遅い時間でもメール連絡がある。
その日に目を通せなかったものは朝一番でチェックし、回答できるものは即、返信。
海外の案件も担当しているので、外国からのメールが夜中に届くことも多い。
9時~10時から勤務スタート
書類の作成や、クライアント企業との打ち合わせ、裁判所で裁判。
打ち合わせは1日に2~3件、多い日は5~6件。
事務所で行うこともあれば、飯島さんが企業へ出向く場合も。
案件によっては企業の役員、知的財産部、製品開発部の担当者など20人近くの関係者と会議を行うこともある。
海外の関係者との打ち合わせは電話やスカイプなどで行う。海外出張も1年に数回。
※飯島さんの仕事中の様子
終業時刻は20時ごろ
裁判の書類作成などで徹夜に近い状態になることもあるけれど、普段は遅くても20時ごろには仕事を終えて帰宅するようにしている。
仕事は日中に集中して取り組み、深夜まで仕事をもちこすことのないよう、心がけているそう。
※お休みの日にはバンドでドラムを演奏することもあるんだとか!(飯島さん提供写真)
【進路選び】弁護士になるにはやっぱり法学部? ほかの学部ではどうなの?
では、弁護士や弁理士になるにはどんな進路を選べばいいのだろうか?
飯島さんから進路のアドバイスもいただいた。
まず弁護士。
国家資格を得るには司法試験合格が必須だ。
司法試験の受験資格があるのは、大学卒業後に法科大学院で学んで修了した者、または司法試験予備試験の合格者となっている。
2018年の司法試験合格率は29.11%。
合格にはかなりの勉強が必要だ。
「私の時代はまだ法科大学院がなく、司法試験の合格率は今よりもさらに低くて2%台でした。
私は、3度目の受験でようやく合格しましたが、それでも遅いほうではありませんでした。
現在の制度で、最短距離で司法試験合格を目指すなら、大学の法学部へ進学し、予備試験と法科大学院の両睨みでチャレンジするのがよいのでしょうけれど、法学部だけが弁護士になる道ではありません。
弁護士はさまざまな人や会社の問題解決を手がける仕事。
いろいろな知識や経験が役に立つので、法律以外の学部で習得した知識は決して無駄になりません。
実際、私の法律事務所には、理工系学部でAI(人工知能)を専攻した弁護士や、半導体を専攻した後弁理士になってから弁護士に転向した人もいますよ。
法律は、あらゆる社会生活の土台になるものなので、理工系の知識に限らず、法律以外の専門知識があることは、強みになるのです」
【進路選び】弁理士になるにはどんな進路を選ぶ必要がある?
弁理士になるには、国家試験(弁理士試験)に合格することが必須。
学歴や年齢などに関係なく受験できるが、合格率は例年ひとケタ(2018年は合格率7.2%)。
難関試験に合格して弁理士になるには、大学のどんな学部・学科へ進めばいいの?
「弁理士は法律の仕事ですが、特許を取り扱うには理系の知識が欠かせません。
そのため、弁理士の出身学部で圧倒的に多いのは理工系の学部です。
その多くは、最初から弁理士志望だったのではなく、企業の製品開発の現場に勤めたことがきっかけで弁理士に興味をもち、資格を取ったというパターン。
そういう道を歩んでも全然遅くないと思います。特許を扱う弁理士は、電子、電機、機械、化学、医薬、バイオ、材料、ソフトウエアなど細かな専門分野をもって活動するのが一般的なので、まず企業に就職して技術者として経験を重ねることは、専門分野を深めることができるというメリットがあるのです。
私の事務所でも、多くの弁理士が企業での勤務経験をもっています。
もちろん、大学在学中から弁理士試験の受験勉強に取り組むのもいいでしょう。
特許を専門にするなら、新卒で目指すか、転職して弁理士になるのか、どちらにしても大学で理工系の勉強を頑張りましょう」
「弁理士には、ブランドやデザインを専門的に扱う人もいて、そういった人には、理工系出身でない人もいます。
私の事務所にも、法学部出身で弁理士になり、ブランドやデザインを専門に扱っている人がいます。
また、法学部を出て、弁理士資格を取ってから理系の大学院に行き、勉強をした人もいます。
弁理士への道も、弁護士と同様、あるいは弁護士以上に、さまざまです。
資格に基づく仕事をするのは、きちんとしたキャリアさえ積んでいれば、本当にその仕事をしたいと思ってからでも遅くないのです」
弁理士の主な働く場は特許事務所や企業の知的財産部門など。
一方、弁護士の主な働く場は法律事務所。
飯島さんのように独立して自分の事務所をもつ弁護士も多い。
最近では企業の法務部や、官公庁・自治体で働く弁護士も増えている。
また、飯島さんの事務所のように、弁理士と弁護士両方が在籍する事務所もあるという。
高校生へのアドバイス
最後に弁護士・弁理士の仕事に興味をもつ高校生に、メッセージをもらった。
「弁理士は外国語の技術文献に触れることも多く、また、弁護士も海外企業の案件が増えているので、英語をしっかり勉強しておくと、仕事の幅が広がります。
そして、勉強でも、趣味でも、本当に好きなことに熱中して知識を身につけることが大切。
私の場合、高校時代に熱中したのは、コンピュータ・プログラムを考えることと写真、バンド活動です。それが今、仕事に生きているんですよ。
私のクライアント企業にはIT企業も多く、プログラムの考え方が理解できることで、問題の所在を正確に把握できます。
また、写真の現像の知識は、液晶基板や半導体の製造技術を理解するうえでも役に立ちます。
バンド活動は、楽器や音響、振動制御の技術を理解するうえで役に立っています。
バンド活動は今でも続けていますが、ずっと趣味を継続することが人生を豊かにもしてくれます」
弁護士・弁理士両方の資格を持つ飯島さんからの貴重なアドバイス、ぜひ参考にしてほしい!
※事務所に飾られている写真は飯島さんが撮影したもの。本当に好きなことに熱中して知識をみにつけることが大切だという(飯島さん提供写真)
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