『AI人工知能研究者』ってどんな仕事?【気になるカタカナ系職業を突撃取材!】
このコーナーでは憧れるけど謎すぎる、カタカナ文字の職業をご紹介!
今年になって、ニュースなどで見たり聞いたりすることの多くなったAI。今さら、何のことなのか聞けない人も多いと思います!「将棋の羽生さんとAIが対戦した」「将来AIにとって代わられる職業上位◯位」…など、人間が開発したものなのに、私たちを越えるってどういうこと?!というような感覚になっている人も?!でも、それが何なのか、どういう価値があって注目されているのかを知ると、すごーく面白い!
3回目にインタビューさせて頂いたのはAI研究者の松田さん!お話もとっても分かりやすいので文系の高校生でもAIに興味を持つことを期待して…では、インタビューにうつります。
プロフィール
松田雄馬さん:2007年京都大学・同大学院情報学研究科修士課程修了後、東北大学大学院博士課程修了。大手電気メーカー研究所にて、無線通信の研究を通して香港にて現地企業との共同研究に従事。その後、大学と共同で、脳型コンピュータの研究を立ち上げる。教えられたことしかできない不憫なコンピュータに、自分で考えて判断できる機能(AI:人工知能)を与えるべく、日々奮闘中。
尊敬する人:墨子(中国の思想家)
---まず、松田さんの“AI研究者”というお仕事について、高校生が分かるように教えて頂けますか?
AI研究者といっても幅広いのですが、私はロボットの目の研究をしています。
---「ロボットの目を研究する」ってとても未来っぽくて興味が沸きますが、実は全然わからないかも…笑。具体的にはどういうことですか?!」
そうですね、まず、AIの説明から。AIは、Aritificial Interlligenceの略なので、人工知能と訳されますね。ニューラルネットワークという、人間の脳のようなコンピューター(プログラム)をつくると、それが自分で学習するということが分かってきたんです。
---今までのコンピューターと何が違うんですか?
プログラムというのは、「Aという事象が発生したらBせよ」といったパターンの命令を人間がひとつひとつコンピュータに対して書いて教えてあげることを言うのですが、人工知能(AI)は、人間が与えたデータを学習すると、「Aという事象が発生した場合にはBするのが最適だ」という判断を、コンピュータが自ら行うことができるのです。
---ちなみに、新聞やニュースで1日1回くらいAIって聞きますけど、どうしてこんなに注目されているんですか?
囲碁や将棋で人間と対戦するAIが、プロ棋士に勝てるようなレベルに達したことが大きいです。他にも、クイズを解いたり、大学の入試問題を解いたりするAIがニュースになっていますよね。
つまり、囲碁や将棋などを行うAIが人間を越えるレベルの精度や能力を持ったので、「このまま技術が進むと、非常に多くの分野で、人間にできないことができるようになるのではないか」という期待感から、様々なビジネスで注目されているのです。
例えば、レントゲンからガンの発見をするのに、もしかしたらAIがチェックしたほうが精度が高いのではないかということです。医療業界、それから車メーカー、ゲーム業界、あらゆる業界から注目されています。
---すごく良く理解できました。松田さんは、大学を卒業してすぐにAI研究者になったのですか?!
いえ、2009年に当時NECという会社の研究所で働いていたので、そこで自分で、会社に提案してはじめました。当時、AIはあまり注目されていなかったのですが、一方で、人間の脳の研究が進んでいたんですね。そうした研究に学びながら「脳ってそもそも何なんだ」ということを突き詰めていきました。脳は、視覚や聴覚といった、外から入ってくる情報を処理しているところなのですが、その入ってくる情報の1つである視覚情報の処理、すなわち「ものを見るってどういうこと?」という謎に注目して、研究しています。「ものを見る」というと簡単そうですが、実は、現状の技術では、ロボットは、目の前のコップも、机も、椅子も認識することができないんです。「認識とは何か?」「意識とは何か?」こういった問題は、最新の脳科学でも、まだまだ理解が進んでいない領域です。
---高校生の中に、研究者になりたいと思っている人もいると思うのですが具体的な研究内容を見せてもらえたりしますか?
はい。私が開発したAIが、1枚の衛星写真から(目視では見えない)飛行機をみつけたという研究をご紹介しますね。
これは、NP(国家プロジェクト)と言って、NECが政府と共同で行っていた研究プロジェクトに関係するものなのですが、「1枚しか衛星写真がないという条件で、写真から飛行機がどこにいるか、取り出せないだろうか?」というテーマがありました。飛行機を認識するためには、通常、何百枚も色んな角度から撮った写真を用意して、そこからパターンを作り飛行機の在処を特定するという処理が必要になるのですが、私たちの開発したAIは、一枚の写真を用意するだけで、飛行機を認識できるようなったという研究成果が得られました。
---すごい成果ですね。この研究をはじめて成果がでるまで、どれくらいの時間がかかったのですか?
研究を始めたのが2009年で、この研究成果を初めて学会で発表したのが2014年です。延べ5年間の研究成果です。
---それでは、松田さんがどうして研究者になったのか、子どもの頃から遡っておしえていただけますか?
小学生の頃から何となく研究者になりたいと思っていました。ドラえもんが大好きで、ドラえもんの発明品を、工作して何とかつくれないかと奮闘したり、小学生男子のお決まり分野の一つの恐竜も大好きでした。自分で恐竜の研究ノートをつくって、図鑑や百科事典を使って、恐竜について片っ端から調べていました。そして、高校に入学すると、より多くの専門知識を学ぶことができ、世界が一気に広がりました。古生物学だけでなく、物理や数学に、特に強い興味を覚えるようになりました。
今でも覚えているんですが、先生が「物理や数学を勉強して、アメリカに留学して、新しいものを発明して、シリコンバレーに行ったら、君らならガッポリ儲かるぞ!」っておっしゃったんです。
今思うと、適当だな…って思いますが(笑)、その時、その言葉を鵜呑みにして正解だったと思っています。本当に、いい加減な言葉だと思いますが、その先生は、今にして思うと、研究者の「道」を示してくれていた気がします。
---どういうポイントで、その道をすすみたいなと思えたのですか?!
研究者って、研究室に籠って地道に研究するということは、どうしても必要なんですが、その先生は、世界に向けてお金を生み出す価値のあるもの(世界に認められるもの)を生み出すことも、研究者には必要だ、ということを、言ってくれていた気がします。
---そこから順調に大学に入って専門的に勉強しはじめるんですね。
それが、全然順調ではなくて。志望校の京都大学工学部に入学したものの、専門分野を勉強しはじめたとたん、つまらなく感じて。もう、部活のボウリングや、趣味の海外旅行しかしていない時期がありました。
---どうやってそのスランプ的なところから脱出したんですか?
格好よく言うと、嫌なことにちゃんと対峙したんですよね。「本当につまんないのか?」と思って、でも自分が期待していた分野、何か見つけたいという一心でその分野の本を読みました。分野がつまらないのではなく、自分が勉強している方法がつまらないだけなんじゃないかと。同じ分野でも、面白い考えをしている人がいるのではないかと。そしたら、「複雑系はいつも複雑」という本と出会ったんです。
「複雑系」というのは、例えば、蛍の「シンクロナイゼーション」という現象があります。彼らって、一匹一匹は、勝手気ままに光っているんですけど、群れになると、大勢からなる群れが、まるで一つの大きな個体のように、一斉に同じリズムを奏でて光るんです。その理由はシンプルで、自分が光るリズムが、周りの個体のリズムに影響を受けて同調してしまう(シンクロナイゼーションを起こしてしまう)ということなんです。人間も、細胞の集まりですし、人間の脳も、神経細胞の集まりなので、同じように説明できます。心臓のリズムや、体内時計といった、不思議な現象も、すべて、この、複雑系で説明できるんです。こうした考え方には、とても興味が持てて、こういう人工知能への迫り方があるんだと気付けました。
---最後に高校生にメッセージをお願いします。
今、興味のない教科もたくさん勉強していると思います。でも、ムダなことはないし、将来、必ず繋がってきます。自分が「嫌」だと思うことってすごく大事なんですよね。
「嫌」だと思ったときに、大事なのは、教科そのものを嫌だと思わないことです。騙されたと思って、「きっと、その教科自体は、面白いはずだ!教科書や先生は、面白い方法で、教えていないだけなんじゃないか?教科書や先生の教え方が『嫌』なだけなんじゃないか?」と思ってみてください。そうやって、いろんな教科と向き合っていけば、どの教科も、きっと面白いと思えるようになります。少なくとも、自分よりも遥かに成績が良い人がいれば、その人は、何らか、面白さを知っている人です。試しに聞いてみましょう。「ねえねえ。数学なんかやって、何が面白いの?」って。中には、目をキラキラさせて、面白さを語ってくれる人がいるかもしれません。
学校を卒業してから、ぶつかる壁も、きっと同じなんだろうなと思います。仕事や人間関係も、すべてそうだと思うんです。「嫌なこと」ってたくさんあるじゃないですか。仕事が「嫌だ」と思ったとき、その仕事自体を嫌いにならずに、どうすれば、楽しさを見出せるか。「嫌」という感覚に出会ったら、寧ろ、ラッキーだと思ってみるといいかもしれませんね。「自分は何が嫌なんだろう」と思った先に、楽しさが待っているんですから。
---ありがとうございました!
研究者に小学生からなりたいと思っていた松田さんですが、それに拍車をかけたのは、高校の先生の意外な言葉だったということが印象的でした。
ちょっとしたキッカケや、友達や先生のひと言で興味を持ったことにアンテナをはっておくと、ふとしたことでそれに没頭できる瞬間がやってくるのかもしれないですね。
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大学生ライター
かほ
慶応義塾大学総合政策学部2年、音楽と人と旅が大好きな大学生。面白いことが大好き。四国一周囲一人旅をしてみたりヒッチハイクをしてみたり!夢はゲストハウスを開くこと。