医学部受験の基礎知識。入試制度、選抜方法の特徴、国公立・私立の違い<先輩の合格体験談付き>
医師を目指す人が進学する、大学の医学部医学科。「超難関」「大学受験でも別格」「頭がいい人だけが入れる」といったイメージが強いが、実際はどうなのだろうか。
医学部入試の難易度や国公立大・私立大の違い、受験科目やその対策法について解説し、実際に医学部に合格した先輩の声も紹介しよう。
目次
⾼梨裕介先生
医学部予備校ACE Academyの運営・講師を務め、書籍「医学部受験バイブル」監修。
中学受験にて最難関の灘、東大寺学園、洛南、洛星中学に合格。高校時代は全国模試(英数国)で10位以内にランクイン。
現役で医学部に合格。⼤阪医科⼤学卒業後、医師免許取得。初期臨床研修修了。
これまでに300名以上の医学部合格者を輩出している。
全国82の大学に医学部医学科が設置
※国公立大学50校、私立大学31校、防衛医科大学1校が設置されている
現在、国内では82大学に医学部医学科が設置されている。内訳は、国公立大学が50校、私立大学が31校、防衛省が設置する防衛医科大学校が1校となっている。
自身も医学部医学科で学び、医師免許をもつ⾼梨裕介先生に、医学部受験の環境と動向を教えていただいた。
医学部医学科入試の受験環境と動向
とはいえ、入学定員に対して受験者数が多く、狭き門であることに変わりはありません。
また、ここ数年は、後期日程試験を廃止にする国公立大が増える傾向にあります。
国公立大を一般選抜で目指す受験生の多くにとっては「前期一発勝負」となるため、チャンスが限られてしまいます。
一方、増えているのが総合型選抜(旧・AO)・学校推薦型選抜です。
特に、「地域枠」を設けるところが増えていますが、医師になってから9年間はその地域で勤務しなければならないなど制約もあるため、安易に流されないことが大事です。
メディアでも取り上げられた入試における不正(女子受験生の点数を低く評価)も是正され、2021年度入試では医学部の男女別合格率が始めて男女逆転しました。
医学部医学科の入学定員と倍率
一般選抜の倍率は、国公立大で4倍程度、私立大で12〜13倍程度です。
数字だけを見ると私立大の倍率がかなり高く見えますが、これは受験生が複数の大学を併願するためであり、数字に惑わされないことが大事です。
国公立大の医学部を受験する場合
※国公立の医学部を目指す場合に気をつけることとは?
続いて、国公立大の医学部医学科受験の基礎を押さえておこう。一般選抜では、他の学部と同様、「大学入学共通テスト(共通テスト)」と大学個別の「2次試験」の2段階選抜が基本だ。
共通テストのボーダーと偏差値
いわゆる「足切り(第1段階選抜)」があり、共通テストで一定の得点に達していない受験生は、2次試験を受けることができません。
第1段階選抜を行うかどうかの基準は大学により異なり、実施の有無も年度によって異なります。
共通テストのボーダーラインは大学により異なりますが、最低でも8割は必要です。
ただ、2022年1月実施の共通テストは全体的に平均点がかなり低く、医学部医学科でも7割5分程度まで下がりました。
とはいえ、高得点が必要になることには変わりはないので、十分な対策が必要です。
倍率
この数字は第2段階選抜の倍率であることに留意しておきましょう。
10年ほど前は5倍を超えていた時期もあったので、それに比べるとやや下がっています。
一般選抜の後期日程の定員は減少する一方、総合型選抜・学校推薦型選抜の定員は増加する傾向にあり、5年前から比べて1.1〜1.2倍に増えています。
試験科目
科目数が多いぶん勉強時間が必要になるので、私立大に比べて対策が大変であるのは事実です。
とはいえ、軸になるのは英・数・理であり、国・社に時間を割きすぎないことが大事です。
私が運営する医学部受験予備校では、「受験勉強は英・数・理を基本に、国・社は後から」という方針で指導しています。
問題の難易度
求められるのは、難しい問題を解く力ではなく、素早くミスなく解く力です。
そのため高得点勝負になりボーダーラインが上がり、結果的に合格難易度が上がるのです。
また、医学部の入試問題は、教科書の後ろの方に載っているような分野も含めて、幅広い分野から出題されるのも特徴です。
満遍なく網羅する、抜け漏れをなくすためには、やはり対策に時間をかける必要があります。
逆に言うと、いくら頭が切れる人でも時間がなければ医学部合格は難しく、コツコツと目標に向かって努力ができれば、いわゆる“天才”タイプでなくても医学部合格は十分に可能です。
面接・小論文
やはり大事なのは、学科試験でいかに高得点を取るかです。
それを前提としたうえで、面接でよく聞かれる質問に対する答えを準備しておく、小論文の書き方をひと通り押さえておくなど、最低限の備えをしておきましょう。
【医学部入試の面接でよく聞かれる質問】
・なぜ医師になりたいのか。
・自分の長所・短所はどこか。
・なぜこの大学を志望したのか。
・高校生活ではどのようなことに注力したか。など
医師に向いている人、不向きな人っているの?
医師には、人間性、熱意、責任感、コミュニケーション力、体力などさまざまなものが求められると言われますが、実際にはすべてを有する万能な医師はいません。
また、こうした資質・能力を習得するために医学部で学ぶのであり、高校生の段階で身につけている必要はありません。
ひとことで医師といっても専門分野は幅広く、働き方についても、臨床医だけでなく研究職に就く人も、厚生労働省などで働く人もいます。
現時点で「自分は医師に向いている・向いていない」というのは、考える必要はありません。
「医師になりたい」という思いが少しでもあれば挑戦してみて構わないと、私自身は思っています。
国公立大医学部を受験する対策まとめ
英語、数学、理科に加えて国語、社会の対策も必要な国公立大医学部の場合は、なんといっても物理的に時間が必要になります。
国公立大を目指すなら国・社もやらなくてはならない…という印象が強いかもしれませんが、それだけに時間を割きすぎるのはNG。
繰り返しになりますが、やはり中心になるのは英・数・理の勉強です。
英・数・理を軸に、国・社もおざなりにしないためにも、できるだけ早く受験勉強を始めることが鉄則です。
私立大の医学部を受験する場合
※私立の医学部受験のポイントを押さえよう
続いて、私立大の医学部医学科受験の基礎を押さえておこう。一般選抜では、大学の個別試験で合否を判定する方式のほか、共通テストの結果で合否を判定する「共通テスト利用入試」を実施する大学もある。
倍率と偏差値
私立大の場合は複数校を受ける併願者も多いので、倍率はあくまでも参考レベルに留め、基本的には偏差値で難易度を判断しましょう。
試験科目
また、理科については2科目必要になるケースがほとんどです。
私立大も国公立大も英語、数学、理科が軸になることには変わりないので、私立大志願者が国公立大志願に変更することも、ある程度の時期までは十分に可能です。
問題の難易度
一部の大学では難度の高い問題が出されますが、解けなくても合否には影響しないケースがほとんどです。
ミスが許されない試験になるのも、国公立大と同じです。
面接・小論文
つまり、学科試験を通過しなければ、面接・小論文の試験を受けることはできません。
国公立大と同じく、面接・小論文は補完的な要素が強いので、よくある質問に対する答えを準備しておくなど対策は最低限でOK。
まずは学科試験対策を受験勉強の軸に据えましょう。
私立大医学部を受験する対策まとめ
確かに授業料は高額ですが、近年は奨学金制度や減免制度などが充実しており、調べればたくさん選択肢が出てきます。
実際、私自身もサラリーマン家庭で育ちましたが、奨学金を借りて私立の医科大学に進学しました。
最初から国公立大に絞り込んでしまうと受験チャンスが限られてしまうので、ぜひ、私立大も選択肢に入れたうえで受験校を検討してほしいと思います。
医学部に合格した先輩の声
※先輩たちはどのようにして医学部合格を果たしたのだろうか
ここで、医学部に合格した先輩の声を紹介しよう。いつ・どのような理由で医学部を目指したのか、どのような対策をしたのか、いつ・どのような理由で志望校を決めたのか、ぜひ参考にしてみよう。
case1 高校二年で医師に興味を持ち理転を決意
高校1年生までは学校の課題や試験勉強に取り組むだけだった。
高校2年の夏、 塾で数学1A2B とともに、文系コースのため学校で履修ができなかった化学・生物や数三の学習を始めた。学校では古典や世界史など文系科目を勉強していた。
高3では、引き続き基礎問題集を繰り返し復習しつつ、塾講師のアドバイスのもと試験の解き方を習得し、本番で最大限力が発揮できるよう訓練を積んだ。
合格可能性を上げるために、志望校にはこだわらず学習を進めた。(医学部学生・東京都)
case2 基礎的な問題演習に力を入れ現役合格!
この経験を通して、私も医師として自分の判断・行動によって誰かの当たり前の生活を守りたいと考えるようになった。
高校1〜2年生では学校の定期テスト対策に力を入れつつ、通信教育を利用していた。
高校の成績は良かったものの、模試の成績が伸び悩んでいたことから高校2年生の3月に塾に入塾した。
基礎的な問題集を何周もした。
学校がある日は8〜10時間、ない日は13時間ほど勉強していた。
直前期も過去問演習は最小限に抑え、基礎的な問題集を繰り返し復習した。
「医学部に合格すること」が目標だったので、家族と奨学金を検討し、できる限り受験可能校を増やした。(医学部学生・東京都)
case3 先生と親のすすめで医学部を受験
最初はあまりやる気がなかったが、調べていくうちに医学部で学んでみたいことが見つかった。
塾や予備校には行かず、放課後に学校に残って友だちと勉強したり、自宅でその日の授業の復習をしたりしていた。
学校で勉強することで、友だちと励まし合いながらできるし、わからないことがあればすぐに先生に質問できたので、良かった。
志望校を決めたのは高2の夏。
国家資格の取得率や就職率が高く、見学に行った際に設備が整っていて、こんな環境で勉強したいと思って決めた。
勉強を続けるなかでわかることが次第に増えていき、現役で合格することができた。(医学部学生・福岡県)
case4 私立医学部も視野に入れて受験校を決定
不安を抱えながら病と闘う子どもたちに寄り添い、ともに治療に向き合うことで子どもたちを安心させられる医師になりたいと考えている。
高校2,3年生は大手予備校に通い、医学部志望者向けのハイレベルコースの映像授業を受けていた。
授業では理解できたつもりでも、成績は伸び悩んでいた。
1浪目では、現役時の失敗を活かし塾に入塾した。
勉強時間を1日13時間以上確保し、基礎問題集を繰り返し取り組んだ。
模試を受験した後は自己分析を行い、検算確認や時間配分などの解き方、普段どのように問題集を進めるべきかを考え、取り組み方を修正しながら問題集を復習した。
現役時は、医学部受験を決めた高2の夏に志望校も決めていた。
経済的な理由から自宅から通える距離の国公立医学部1校に絞ったが、不合格に終わった。
1浪目は、6月頃、両親と話し合い、奨学金制度や教育ローンも考慮し、私立医学部も含め受験校を決定した。(医学部学生・千葉県)
なぜ、医学部受験の難易度は高いのか?
ここまで見てきたように、約9,300人という定員に対して受験者数が多く高倍率なのが、医学部医学科の難易度を高めている要因だ。「厚生労働省は医学部の定員増員には慎重なため、今後も定員が大きく増えることは考えづらい」と⾼梨先生は言う。
医師になる確固たる思いをもっている人もいれば、理系最難関学部を目指したいという人も少なくなく、医学部医学科人気は今後も衰えることはないだろう。
医学部医学科受験の合格必勝法とは?
※医学部受験の必勝法を高梨先生に聞いた
最後に、高梨先生に、医学部医学科合格のための必勝法を教えてもらった。全教科・全分野の基礎を徹底的にやる!
大事なのは、基礎を徹底的に攻略し、全科目・全分野を漏れなくやること。
苦手分野は得意分野でカバーしよう…という考えでは、合格は難しいでしょう。
言うのは簡単ですが、穴を完全になくすためには膨大な時間と努力が必要ですから、早く対策を始めるに越したことはありません。
また、「ミスをしてはいけない」というのは、メンタル的にも大きな負担になります。
長期間にわたってプレッシャーがかかるなか、自分のメンタルをいかに管理するかも、合否の結果に影響します。
普段から「本番力」を高める!
特に共通テストでは、正確さはもちろん、速さが求められます。
普段から本番を意識した演習重視の学習を心がけ、情報処理能力を高めることが不可欠です。
また、本番には諦めずに最後まで食らいつく粘り強さも必要です。
普段から、ミスなく速く解く練習を重ね、受験本番を意識して問題に臨みましょう。
正しい受験校を選び取る
近年は入試の形式も多様化しているので、自分の学力や特性に合ったところを選びましょう。
国公立大の場合は、共通テストと2次試験の配点比率、教科ごとの傾斜配点などを細かくチェックすること。
私立大の場合は、経済的な部分で無理だと諦めずに、可能性のある大学はできるだけ出願することが大事です。
医学部医学科受験は、いわば情報戦。
女子は不利、多浪生は不利、難しい問題が出題されるなど、誤った情報や古い固定概念に翻弄されないことも大事です。
誰にだって、医学部医学科合格のチャンスはあります。
「自分には無理」と決めつけず、ぜひ挑戦してください。
取材・文/笹原風花 監修/⾼梨裕介 構成/寺崎彩乃(本誌)
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