肉などを焼いた際に立ちのぼるおいしそうな香り。これは、加熱によるメイラード反応で生成された多くの香気成分で構成されています。私はそのひとつである甘い香りのDMHFを嗅ぐことで、生体にもたらされる生理作用とメカニズムを研究してきました。その結果、DMHFの嗅覚刺激によって交感神経活動が抑制され副交感神経活動が活発になり、生体がリラックスすることが判明。さらに最近の研究では、DMHFを一定期間嗅ぐことによって食べる量が増えるにもかかわらず、体重は増加しないことも明らかになってきました。私はDMHFの嗅覚刺激が食欲の調節やエネルギー代謝などに影響しているのではないかと考え、今後の研究課題に掲げています。もしこのしくみを解明すれば、ダイエット食品や療養食など、多くの分野に香りの持つ力を活用できるかもしれません。
大畑先生が担当する授業の1つでは、香りを嗅いで感覚的に理解することを大切にしているそうです。その日の授業内容に関連する香料、例えばリンゴの香りや醤油の香りなどを、ムエットと呼ばれる匂い紙につけて学生に配布し、香りを存分に嗅いでもらいます。香りの特徴や印象などの感覚的な情報を体験することで、化学構造式や生成方法(合成方法)、食品中での重要性などと関連付けることができ、香りへの理解がより深まると先生は考えています。
普段、無意識に嗅いでいる食べ物の「香り」は、私たちの生体に様々な作用をもたらします。そんな毎日の小さなサイエンスに、大きな夢や希望が隠れています。それが私たちの研究の魅力です。
岩手大学大学院教育学研究科家政教育専攻修了、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科人間環境科学専攻を経て、博士(学術)を取得。北里大学獣医学部助教、京都教育大学家政科講師を経て、現在日本大学生物資源科学部准教授。