フグ毒のテトロドトキシンは、青酸カリの千倍もの毒性を持つともいわれています。フグはなぜこれほどの猛毒を蓄えているのでしょうか。フグ毒を肝臓などに蓄えているだけでは、自分の身を守る目的にはあまり役立ちません。しかしフグの親は卵巣に毒を蓄積し、孵化したフグの赤ちゃんも生まれたときから毒を持っています。しかも毒は頭部の表面やヒレなどに集中して存在するので、天敵は赤ちゃんを口にした瞬間毒に気付き、すぐに吐き出します。つまり、フグ毒は赤ちゃんを守るために利用されているのです。私はこうした事実をトラフグやクサフグを使った実験により明らかにしてきました。この他にも、フグ毒の由来が、定説だった海洋細菌だけではなく、磯に棲むヒラムシである可能性を指摘するなど、フグ毒の謎の解明に向けて着実に歩を進めています。
授業では頭を使って考えることを重視するという糸井先生。今はインターネットなどを使い、知識自体は簡単に得られます。大切なのは得た知識をどのように組み合わせていくか。授業中にはその点をとくに考えさせるようにしています。研究では、江の島などへサンプルの採取によく出かけているそう。また、年に一度は長崎大学の実習船に乗船し、沖縄や西表島などの調査にも足を伸ばしています。さまざまな大学の人たちと相乗りになるので、旅先で研究の話が弾むことも多く、そうした調査の魅力の一つとなっています。
研究は、実際に取り組んでみないとわからないことがたくさんあります。研究を進める中で新たな疑問も出てくるでしょう。しかしその疑問に気付き、考えていくことを楽しい、おもしろいと感じてもらいたいですね。
日本大学農獣医学部水産学科卒業、東京大学 大学院農学生命科学研究科 博士後期課程修了、独立行政法人水産総合研究センター 中央水産研究所、日本大学生物資源科学部教授。博士(農学)。